ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

2015-06-30 11:33:55 | あ行

祭じゃ祭じゃ。


「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」70点★★★★


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悪の秘密組織ヒドラの基地に乗り込んだ
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ブラック・ウィドウ、
ホークアイ、ハルクたち“アベンジャーズ”。

だが彼らの前に
謎の超能力を持つ双子、ワンダ(エリザベス・オルセン)と
ピエトロ(アーロン・テイラー=ジョンソン)が立ちはだかる。

苦戦の末、ロキの杖を取り戻したアイアンマン(ロバート・ダウニーJR.)は
天才科学者であるハルク(マーク・ラファロ)の手を借りて
その分析に取りかかる。

そして、仲間たちに秘密で
ある実験を進めるのだが――?!


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ヒーロー集結映画は、パーッとお祭り気分で。


前回はソーの世界がストーリーの中心で
あんま乗れなかったんだけど
今回は
アイアンマン中心だったのはよかった。


しかし今回はさすがのアイアンマンこと
トニー・スターク(ロバート・ダウニーJR.)の
軽口もあまり聞けない。


彼自身が危機を呼ぶに等しい
笑えないピンチになってしまうからなのだ。


戦いのジレンマの基礎というか
アイアンマンの基礎というか
「世界をよくしようという思いが、兵器を生む」という
ジレンマが繰り広げられるんですね。

ほかにも
ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)の出番が多めで
彼女の秘密が明かされたり

新参加エリザベス・オルセンもいい人選で
華が増えたのもいいかも。

CGもものすごいし。

エンドロールが膨大な名前で
埋め尽くされるのをみながら

この制作に関わった人たちだけで
一つの小国くらいあるんじゃないかと思いました(笑)


★7/4(土)から全国で公開。

「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」公式サイト
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チャイルド44 森に消えた子供たち

2015-06-29 22:54:57 | た行

はい、またトム・ハーディさんです(笑)


「チャイルド44 森に消えた子供たち」59点★★★


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1933年、スターリン政権下のソ連。
孤児院を逃げ出した少年は軍人に拾われ、レオという名前を与えられる。

1953年、大人になったレオ(トム・ハーディ)は
第二次世界大戦で活躍し、エリート捜査官に出世していた。

ある日レオは
無残な少年の遺体と対面する。

実は同じ“しるし”をつけられた
子供たちの死体が次々と見つかっていた。

しかし
「理想国家で殺人は起きない」という
スターリンの思想のもとでは
まともな捜査など行われない――。


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2009年の「このミステリーがすごい!」海外編ナンバーワンが原作。

ということで相当に期待したのですが
うーん、これは想像と違った。


この映画はミステリーというよりも、
スターリン政権下のソ連の黒歴史をつまびらかにすることに
重点が置かれているんですね。



当時は誰もが密告されたり
スパイ容疑をかけられたりする世の中で
密告されたら最後、真偽も確かめないうちに
あっさり殺されるような時代。

さらに酷いのは
凄惨な殺人が起こっても
「殺人なんて、我らが理想国家には起こらない」
はあ?としか言いようがない理屈で
捜査もせず、殺人者も野放し状態だったと。

そんなことがまかり通っていたのか!
あ然としますが


その状況が
主人公レオの生い立ちから、その出世と成長を追うことで
よくわかるようになっているんです。


しかも
この話のモデルになった
実際の殺人犯がいるそうで

この本、
ロシアで発禁になってるらしい。

とても興味深い題材なんですが


残念ながらミステリーとしてみると、
殺人事件やら、捜査が
社会や、対国家とのスリルを描く合間に単発的に置かれている感じで
散漫になってしまったような。


「このミス」と言われてイメージする
ミステリーの面白さを味わう感じではなかったわけです。


構成の問題かなあ。

本のほうは、もっとうまく描かれているのかもしれません。


★7/3(金)からTOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次公開。

「チャイルド44 森に消えた子供たち」公式サイト
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ルック・オブ・サイレンス

2015-06-28 12:50:31 | ら行


「アクト・オブ・キリング」

逆視点からのドキュメンタリー。

ワシにはこっちのほうが見やすくてよかった。


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「ルック・オブ・サイレンス」73点★★★★


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1960年代にインドネシアで密かに行われた大量虐殺。
その加害者たちに
「あなたのやった虐殺を、カメラの前でもう一度やってみませんか」と持ちかけて
それを撮影した驚異のドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」(12年)。

同じジュシュア・オッペンハイマー監督が
今度は虐殺の被害者側の視点から撮ったドキュメンタリーです。


「アクト~」はすごい映画だけど
正直、憤怒とあぜん
観るのがしんどかったんですが

この映画は「アクト~」より、静かに染みた。

やられた者の痛みと静かな怒りが、
その残虐さと非道を
より強く跳ね返して映し出すんだな、と。


そして虐殺の実行者たちが今も権力を持ち、
被害者たちの隣に住む異常な状況に、改めてゾッとします。


映画の中心となるのは
虐殺で兄を殺された青年アディ。

彼が殺人者たちを訪ね歩いて
話を聞くんですが

そのアプローチ方法が
彼がメガネ技師であるということを利用し
「無料の視力検査をしますよ」というもので
こりゃうまいなあと。

アディ氏は「アクト~」の映像を見て衝撃を受け
自ら、この方法を監督に提案したそう。

しかし、これをやるには相当の危険があることが
見ていてもわかる。

なぜ彼がそこまでするのか?が
見るうちに感じられてくると切ない。

彼は加害者たちの後悔や、懺悔の欠片でもいい、
それに触れることで心のケリをつけたいんでしょう。

しかし、それはなかなか果たされない。
アディ青年の思いの行き先はあるのだろうか――。

「アクト~」を見た方はもちろん
これ単体でも、見ることできますので
おすすめです。


★7/4(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ルック・オブ・サイレンス」公式サイト
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きみはいい子

2015-06-25 23:58:06 | か行

「そこのみにて光輝く」もよかったけど
小学校取材とかもするワシには
こっちのほうが“現在”にリアルだった。


「きみはいい子」73点★★★★


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日本の、ある地方都市。

夫を亡くし、一人暮しとなった初老のあきこ(喜多道枝)は
最近物忘れがひどくなった。

小学4年生の担任をする新米教師・岡野(高良健吾)は
児童たちに振り回されっぱなし。
さらに何かあると保護者が、すぐに電話をかけてくる状況に
まいっていた。

町のマンションで単身赴任中の夫を待ちながら
3歳の娘を育てている雅美(尾野真千子)は

ママ友の輪に普通に加わっているようで、
家では娘に手をあげてしまう。

それぞれに問題を抱える彼らの
糸は少しづつ交差してゆく――。

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呉美保監督、初の群像劇。

ワシ、呉監督は
「酒井家のしあわせ」(06年)の系統が好きなので
これはその系統の進化系かなと、おもしろく見ました。


世間的な表層の、薄皮一枚下にあるヘビーな現実
やさしくえぐり、見せる映画で

その
ソフトタッチが、逆に鋭利で、ヒヤリとします。


子を虐待してしまう母親
ひとり暮らしで認知症の症状がある女性、
学級崩壊に立ち尽くす新任教師……。

主軸となる三人の事情は
どれもあまりに身近すぎて、痛々しい。

特に
さまざまな家庭状況にある子どもたちを抱える
公立小の先生の大変さを取材でも聞いていたし
高良健吾氏演じる先生の右往左往に
「ああ。そうだよね……」と共感してしまった。


逆に自分に関係のない
“ママ友カースト的”なことをあまり知らなかったので
そこに「おわ!大変なんだな!」と思いました。


映画は実にシビアな現実を映しているけれど、
それをしても希望を感じさせるのが救いで
そこに甘さもあるかもしれないんだけど、
いや、これでいいんだとワシは思う。


「隣人の痛みに気づいてあげて」という
監督のメッセージを感じました。

雑な感じで、ママ友連盟からは疎まれているけれど
本当に懐深さを感じさせる
池脇千鶴さん演じる女性が、めちゃくちゃよい。

彼女とママ友になりたいとマジで思いました。
ええ、子ナシですけど(笑)


★6/27(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「きみはいい子」公式サイト
コメント (2)
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雪の轍

2015-06-24 23:42:09 | や行

「大いなる沈黙へ」に通じるような。


「雪の轍(わだち)」74点★★★★


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世界遺産トルコ・カッパドキアにある
ホテルのオーナー、アイドゥン(ハルク・ビルギネル)。

かつて俳優だった彼は、
トルコ演劇史を書こうと考えながら
若く美しい妻(メリサ・ソゼン)のいる裕福な暮らしを
のんびりと味わって過ごしている。

しかし、ある日、彼の車に
石が投げ込まれる。

犯人はアイドゥンに家を借り、支払いを滞納している
一家の幼い息子だった。

その事件から、徐々にアイドゥンの周りで
さざ波が立ちはじめ――?!


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2014年、第67回カンヌ国際映画祭の
パルム・ドール大賞受賞作。

そして
3時間16分の長尺!

しかもミステリーが起こるとか、
イタリア映画みたくある家族の一代記とか、そういうドラマでもない。

カッパドキアという
非常に珍しいロケーションのなか、

地主である富裕な主人公のデカダンな
どこかユウウツな日々が描かれるのみ。


なのに、これがけっこう飽きないんですわ。


富の分配とか、
高潔や善意と、高慢のあいだとか
いろいろと考えさせられる。

印象に残ってるのが
主人公が貧しき隣人の荒れた家を見て言うセリフ。

「貧しくとも、それは(品位や美徳を失う)言い訳にはならない。
例えば3粒のオリーブを皿に盛って食べるか、
袋から貪り食うか、の違いだ」

思わず
彼の言葉にうなずいてしまうんですが

それは同時にワシ自身、やはり
“真の余裕のない人”を思いやりきれていない
高慢なのかな、とも思ったり。

監督はチェーホフの3つの短編を題材にしたそうですが
ワシ的にはピケティを思った、という感じでした。

で、3編の短編が何かを
来週30日発売の『週刊朝日』ツウの一見で
チェーホフ研究の浦雅春さんにお話を伺っておりますので

ぜひご覧くださいませ。
この深淵なる映画世界が、より深くなると思います。


★6/27(土)から角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「雪の轍」公式サイト
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