ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

IT/イット“それ”が見えたら、終わり。

2017-10-31 23:57:06 | あ行

怖いかといえば、怖いっす。


「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」68点★★★☆


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1989年、アメリカ・メイン州デリー。

中学生のビル(ジェイデン・リーバハー)は
ある雨の日、小さな弟ジョージーのために
船のおもちゃを作ってやる。

しかし、それを持って遊びに出たジョージーは
そのまま、帰らなかった――。

ジョージ―だけでなく
町では子どもが次々に行方不明になっていた。

ビルは仲間とともに
ジョージ―を探そうとするのだが――?!


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全米で大ヒット!ということで
期待値MAXでしたが
うん。割とフツーだったかな(笑)


いや、怖いんですけどね。


割にオーソドックスなお化け屋敷的「ギャー!!」な脅かしと
さらにサーカスの不気味さ。

そして「スタンド・バイ・ミー」要素が大きい。

そうそう、あれもスティーヴン・キングの原作だったし。
1989年を舞台に、そうした懐かしアメリカン要素があるところが
アメリカの心をくすぐったのかなあ。


原作もずいぶん昔に読んだけど、確かにこんなイメージで
でも「何がIT(それ)かよくわからん」な印象があった。(ダメですなあ
この映画では
“恐怖”が「それ」を生み出す、という理屈がすごくわかりやすかった。


脅かし要素のオンパレードに
ちょっと引き気味にはなってしまったけど

いま、自分が中・高校生だったら
絶対、みんなで見に行ってると思う(笑)
そういう空気、大事だし、好き。
(でもR-15なのか…)


負け犬な少年グループが
「仲間!」な感じで団結し、
淡い恋やちょっとした笑いもあり、

利発な太めちゃんが、町の歴史を調べて
「この町に“それ”が起こる理由がある」と発見するあたりはおもしろい。


子どもの話に耳を傾けない大人、
子どもを虐待する大人――など
“大人”なるものへの憤怒も、子ども視線で活写されていると思いました。


★11/3(金・祝)から全国で公開。

「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」公式サイト
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ノクターナル・アニマルズ

2017-10-30 23:58:02 | な行


よほどの怒りを内に秘めているんだろうな
トム・フォードという人は。


「ノクターナル・アニマルズ」80点★★★★


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アートギャラリーのオーナー、
スーザン(エイミー・アダムス)は
仕事で成功を収め、ハンサムな夫(アーミー・ハマー)を持つ“勝ち組”女子。

そんな彼女のもとに
何年も会っていない元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から
小包が届く。

中身は、彼が書いた小説だった。

タイトルは「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」。

読み始めたスーザンは
その圧倒的な世界に飲み込まれていく――。


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グッチ、イヴ・サンローランを経て
自身のブランドを立ち上げたデザイナーであり

初監督作品「シングルマン」(09年)で
その力量を知らしめた才人トム・フォード氏の監督2作目です。

いやあ、これは……
ノックアウトされましたよ。


すさまじい悪意、憎しみ、怒り、復讐などの
黒い表現が押し寄せてくる。

でも、おもしろい!


ストーリーを整理しますと、

まず、別れた元妻スーザン(エイミー・アダムス)に
かつて小説家を目指していた元夫(ジェイク・ギレンホール)が
長編小説を送ってくるんです。

で、スーザンがそれを読み始めると
小説世界がスタートする。

この小説が酷い話なんですわ。


主人公(これもジェイク・ギレンホールが演じてる)と
妻とティーンエイジャーの娘が
テキサス方面で、ドライブをしている。

しかし途中でおかしな若者たちの車から
執拗な嫌がらせを受け、
そして車を止めさせられた一家に
降り掛かった出来事とは――?!という展開。


映画を見たときに
「いやな話!」と思ったんだけど
先日、東名高速で似た事件が報道され
瞬時にこの映画を思い出して
背筋が凍る思いをしました。マジで。


冒頭のギョッとする映像からして
「美醜とは?」を問いかけてくるし

現在のパートのエイミー・アダムズを
かなりむくんだ感じで
悪意ある写し方をしていることも「ひいぃ」と思うし。

小説パートの悲劇の舞台となる
テキサス、という場所には
やはりどこか歪んだ“男性的なる価値観”を感じるし。

そして
トム・フォードの出身も
テキサスなんですよね……。


原作があるんですけど、
どうしたってこれを、こう表現されると
この人自身が、よほどの怒りや複雑な思いを内に秘めているのだろうな……、と
思わずにいられない。

まあとにかく
芸術の表現とは、善意や美ばかりでないと、
凄い力で見せつけられ

かつ、心に残るというなかなかすごい体験でした。

そして
復讐劇としても、最高に爽快!なんだなあ(笑)


★11/3(金・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ノクターナル・アニマルズ」公式サイト
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ポリーナ、私を踊る

2017-10-25 23:53:56 | は行

これは、お子さんのいる方にぜひ(笑)


「ポリーナ、私を踊る」70点★★★★


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ロシアのとある街。

4歳からバレエを始めたポリーナは
踊ることが大好きな少女。


貧しいながら、懸命にサポートしてくれる両親のおかげもあり
ボリショイ・バレエ入団を目指すバレエ学校のオーディションを受ける。

失敗ばかりだった彼女を選んだのは
振り付け師ポジリンスキー(アレクセイ・グシュコフ)だった。

厳格な恩師ポジリンスキーのもと
ポリーナ(アナスタシア・シェフツォア)は
将来有望なバレリーナへと成長していく。

だが、念願のボリショイ入団を前にしたある日、
ポリーナは振り付け師リリア(ジュリエット・ビノシュ)による
コンテンポラリーダンスを目にして
「これだ!」と、目覚めてしまう――。


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これはまさしくタイトルどおり、
バレリーナ少女が「私を見つける」までのお話。

「体が恋うままに」踊ることが好きだった
幼いころのポリーナの描写が短いけれど、とても印象深いので
その後の展開に、すんなりのることができました。


鬼コーチのレッスンに耐え、
がんばったポリーナは
両親の念願でもあるボリショイ・バレエ団への入団を決めるんだけど

その直後に
コンテンポラリーダンスと出合い、
彼氏と南仏へ飛んでしまうんですよ。

いや、そこで行く?
そこで、これまでの時間と努力をフイにしますか?と、
多少の人生経験あるおばさんとしてはあ然でしたけど(笑)

そうやって外の世界に出たポリーナが
公私ともに壁にぶつかり
「自分を見つける」ためにもがく様子にドキドキ。

結果、見知らぬ街でウェイトレスをしたり……と
無垢な少女の、転落しそうな人生に
思った以上にハラハラする自分がおりました。


この若さゆえの、定まらない感。
もしかして、自分も親にこんな思いをさせていたのか……!
衝撃とともに気づくと同時に、
あ、これは子を持つ親御さんは見るとよいかも!とすごーく感じました。


子どもは思い通りにいかないもの。
しかし、どこかあなたに近い周囲に、帰結するものでもあるかも――ってね。

ラスト、鬼コーチの後ろに写真が見えるシーンが
最高に好きでした。


★10/28(土)からヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷ほか、全国で公開。

「ポリーナ、私を踊る」公式サイト
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ゲット・アウト

2017-10-23 23:59:37 | か行

これは……やばこわっ。


「ゲット・アウト」71点★★★★


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ニューヨークに暮らす
黒人青年クリス(ダニエル・カルーヤ)。

写真家として有望な彼には
白人の彼女ローズ(アリソン・ウィリアムズ)がいる。

ある週末、クリスはローズの実家に招かれる。

彼氏が黒人だと伝えていない、というローズにクリスは
「ええ?!」と不安を抱くが

「大丈夫、うちの父は三期目があれば、オバマに投票するような人よ」
と言うローズを信じ、
クリスは郊外にあるローズの実家へ赴く。

両親はローズの言葉どおり、
クリスを大歓迎するのだが――?

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差別をまったく新しい形で描いたスリラー。

「ワッ!」という脅かしの古典的方法もあれど、

冒頭シーンの意味や、
二人が警官に職質されたときの、彼女の警官への態度など、
のちのち伏線が解き明かされていくと、

これがまた
心理的にじわじわと怖い、という。

なかなかうまい映画でした。


古今東西、今昔、変わらず人間の心に巣くう
“差別”という名のやっかいなもの。

そこを、迷いなくズバッと突き刺す
この感覚は
自らもブラックにルーツを持ち、コメディアンとしても活躍する
ジョーダン・ピール監督ならではなんでしょうね。


例えば、絶体絶命の大ピンチ!という場面でパトカーが来て、
普通なら「助かった!」なのに
主人公が黒人ゆえに、そう思えない、とかね。

かえって絶望的な気持ちにさせられる、とかね。

そんなところが
世の中を見据えていて、うまいなあと。
いや、ホントは悲しいことなんですけどね。


★10/27(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国で公開。

「ゲット・アウト」公式サイト
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ブレードランナー 2049

2017-10-21 23:57:24 | は行

こう毎日、雨続きだと
この映画がほしくなりますねえ!


「ブレードランナー 2049」79点★★★★


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2049年、ロサンゼルス。

貧困と病気が蔓延する荒廃した世界で
人間と見分けのつかない“人造人間”=レプリカントが
労働力として製造されている。

しかし旧型のレプリカントは自ら意思を持ち
たびたび反乱を起こしてきた。


K(ライアン・ゴズリング)は
旧型のレプリカントを見つけて「始末」するブレードランナー。
彼自身も新型のレプリカントだ。


ある日、彼は郊外で
一体の旧型レプリカントと対峙する。

そしてそれはKにとって
予期せぬ、旅の始まりとなった――。


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正直に言うと、期待しているようで
微妙にしてなかったんです。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は大好きなんだけど
「複製された男」路線に行かれるとお手上げだし

製作総指揮のリドリー・スコット監督は
最近、過去作品リバイバルでやや暴走中?という気もしてた。

しかも163分(!)と、けっこうな長さ。

しかし!
これは期待以上でした。


前作をうろ覚えでも、知らなくても
全然大丈夫。

美しく、切なく、哀しみを称えたSF世界に
とっぷり浸れます。


まず、監督との名コンビ、ロジャー・ディーキンスのカメラが作り出す
あまりに鮮烈な、ディストピア風景。

今回は雨というよりも、雪やみぞれ?のような
より重く、汚れている印象で
煙たいグレー、陰鬱なブルー、赤と、シーン別の色彩も美しい。

さらに長回しの多様とかでもなく、
ストーリーは割としっかり進むのに、辿る時間が独特なんですよね。
時間がゴムのように伸びていく感じ?

ハンス・ジマーの
圧倒的なサウンドも強烈だし
やはりキモは
ライアン・ゴズリング。

スローに見える動作一つ一つに
優美さと色気があって、目を離させない。

運命の残酷さ、刹那とともに
163分、十分に背負って引っ張ってくれました。

これは
静かに重く時間や空間を感じさせるSF加減が「メッセージ」
“創造”に挑む神的な視点は「ゴヴェナント」だなあと。


しかし、切ないなア、これ…。


★10/27(金)から丸の内ピカデリーほか全国で公開。

「ブレードランナー 2049」公式サイト
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