ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

太陽の塔

2018-09-28 23:30:33 | た行

 

回顧的な話かなーと思ったら

けっこう

どえりゃー!ドキュメンタリーだった。

 

*****************************

 

「太陽の塔」72点★★★★

 

*****************************

 

1970年の大阪万博のために造られた

岡本太郎氏の「太陽の塔」を基軸に、

原発問題までつながる現代ニッポンを問うドキュメンタリー。

 

太陽の塔?あのヘンな建物?

20世紀少年に出てきたよね? くらいの

知識しか持っていなかったので(すみません不勉強で・・・・・・)

 

すごーくいろんなことが勉強になりました。

 

なによりこれだけ大勢の識者インタビューを

的確に丁寧にさばいたのがすごい。

 

CM出身で「生きてるだけで、愛」の公開も控える

関根光才監督(1976年生まれ)。

いや~、取材をまとめるのってホント大変なのはよくわかるので

見事だなあ、と。

 

映画はまず

あの万博はなんだったのかを見せ、そこから岡本太郎氏の足跡へ、

さらに岡本氏の根底にあった思想をひもといていく。

 

そして

土臭く混沌としていたプリミティブな縄文文化から、弥生文化への転換が、

ニッポンのわびさび、ミニマムへと繋がった――と展開していく。

 

それは文化だけでなく、社会の形成にも大きく影響し、

さらにいろいろな結果、支配層は「考えない人間」を都合よく生み出すことに成功し、

(←いまココ)さらに未来は?・・・・・・となっていく。

 

こんなに大きな展開になるとは!と驚きました。

 

 

「昭和の時代」を勉強できる1本だと思います。

 

 

★9/28(土)から渋谷シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開。

「太陽の塔」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かごの中の瞳

2018-09-27 23:50:36 | か行

 

「プーと大人になった僕」も公開中。

多彩なマーク・フォースター監督の新作です。

 

「かごの中の瞳」70点★★★★

 

***********************************

 

幼いころに視力を失ったジーナ(ブレイク・ライヴリー)は

保険会社に勤める夫(ジェイソン・クラーク)と

タイ・バンコクで暮らしている。

 

夫は常にジーナに寄り添い、とても優しい。

 

そんな折、ジーナは角膜移植の手術を受け、

片方の目の視力を取り戻すことができた。

 

だが、見えるようになってみると

住み慣れた家も、夫も、どこか想像とは違っていて――?

 

***********************************

 

最初に設定を聞いたときには

「なんて話だ!(苦笑)」と思ったんです。

 

目が見えるようになったら、優しかった夫が想像と違っていた――って

ひどくないか?と。(笑)

そこからミステリーになってくことも考えられるけど

割とラブストーリーっぽいし。

 

でも観たら、印象が違った。

非力な女性を、そのままに手元に置いておきたかった男の物語だなあと。

ワシは夫目線で、この映画を観たということですね。

悲劇であり、ちょっとしたホラーかも。

 

 

主人公の見えない目が薄~くぼんやりだけ見せる、

イメージのような映像が印象的で、

「死」につながる過去の出来事のフラッシュバック、

「生」を意識させるセクシャルな映像、タイのエキゾチックな色彩、動物たち・・・・・・などなど

けっこう実験的な感じもしました。

 

それに

目が見えなかった女性が見えるようになる、という状況は特殊だけれど、

描かれていることは、

まあ一般的によくあることだよね、というのがミソ。

 

目が見えるようになった妻は

外の世界に出て、どんどん生き生きと、美しくなっていく。

 

それに戸惑うダンナ・・・・・・って

妻がパートに出るのを嫌がる夫のようなものだなあと

思うのでありました。

 

愛って・・・・・・難しいよね。

 

★9/28(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「かごの中の瞳」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クワイエット・プレイス

2018-09-26 23:10:36 | か行

 

音を立てたら即死亡!なホラー。

 

「クワイエット・プレイス」69点★★★★

 

********************************

 

音に反応し、人間を襲う

"なにか”によって、荒廃した世界。

 

リー(ジョン・クラシンスキー)とエヴリン(エミリー・ブラント)夫妻は

3人の子どもたちを連れて、

手話を使い、足音を立てないように気遣い、

そんな世界をなんとか生き延びていた。

 

だが、そんな矢先、

一家を不幸が襲う。

 

果たして一家は、最後までこの世界を生き延びることができるのか――?!

 

 

********************************

 

エミリー・ブラント主演、

彼女の夫であるジョン・クラシンスキーが夫役&監督、という作品。

 

音を立てたら即死亡!なホラーということで

「ドント・ブリーズ」(16年)をちょっと思い起こしましたが

 

こちらは意外とフラグが素直に機能する

わかりやすい脅かし展開かもしれない。

 

そこまで「心臓ド直撃」ではないし、90分だし、

夏の夜の(もう秋か・・・)ドッキリ体験には最適!

 

・・・・・・な~んて強がりながら観てたけど

観終わった後、試写室のドアから"あれ”が入ってきたら

心臓止まっただろうな(笑)

 

実際、くしゃみや咳払いもはばかられるほど、

試写室内、シーンと緊張感漂ってました(笑)

 

その状況にさせることが、

映画のオモシロイところですよね。

 

 

異常気象や不穏が覆う昨今、

この一家のサバイバル風景は妙にリアルだし

 

さらに映画のキモは

彼らの娘が聴覚障害を持っている、というところ。

だから彼らは手話の経験もあり、

「音を立てたら即死!」な、この世界を生き延びることができたわけです。

 

その聴覚障害を持つ娘役を演じるミリセント・シモンズが

ふてぶてしくも、野太く、強い感じがめっちゃ印象的。

そうか「ワンダーストラック」(17年)の彼女か!と納得。

 

実際に聴覚障害を持っている彼女は

この映画についてもさまざまなヒントをくれたそうです。

 

★9/28(金)から公開。

「クワイエット・プレイス」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

運命は踊る

2018-09-25 23:55:48 | あ行

 

なんという危うさ!

なんというシュールと、シニカル!

 

「運命は踊る」71点★★★★

 

************************************

 

現代のイスラエル。

ミハエル(リオール・アシュケナージー)とダフナ(サラ・アドラー)夫婦のもとに

兵役中の息子ヨナタンが戦死した、との知らせがくる。

 

衝撃を受けるミハエルと、ショックで気を失うダフナ。

が、幸いなことに、それは誤報だった。

 

しかし怒り収まらぬミハエルは

「息子をいますぐ呼び戻せ!」と叫び、

軍部のコネを使って息子を帰らせることにする。

 

そのことが、運命の皮肉を呼び寄せるとも知らずに――。

 

************************************

 

「レバノン」(09年)で

戦車のスコープから戦場を見る、という

自身の従軍体験を反映した斬新かつ、リアルな描写で戦争のやるせなさを表現した

イスラエルのサミュエル・マオズ監督が

8年ぶりに発表した長編2作目です。

 

「レバノン」に続き、ヴェネチア国際映画祭で連続受賞の快挙も成し遂げてます。

 

 

兵役についている息子の戦死を知らされた父親。

やがて誤報だとわかるが、

そのことに激高した父親の行動が運命の皮肉を引き起こす――というストーリーで

 

父親の目線で描く第1部、兵役にいった息子の目線の第2部、

そして彼の母親の視点の第3部の構成で

でもばらけることなく、しっかり物語は束ねられ、集約していく。

 

土台も映像のセンスも秀逸で

ミステリ要素を持ちつつ

「人間の愚かさ」をみつめる寓話の雰囲気もあり、

兵役や戦争という日常が国民の心にどう影響するのか、を

鋭く突いてきます。

 

実際、純粋なミステリーではなく

かなり気に触る音や、絵の作り方で不快さをむき出しで煽ってくるので

向き不向きはあるかもしれない。

 

 

ただ、その不穏と不快のなかに、

この国の病理を映そうとする、意図はよーくわかるし

「レバノン」同様、激しい戦闘シーンや殺戮シーンなしに、戦争の無益を描こうという

姿勢は徹底しています。

 

それに、ワシがすごく好きなのは

兵役についてる息子ヨナタンのパート。

 

砂漠の中にぽつんとある検問所に詰めてる兵士たち。

そこに

ラクダがポテポテとやって来て、検問所を通過する。

平和と危険がグダグダになった妙に間延びした空気。

しかし、一歩間違えば、すぐそこに死がある状況。

そのシュールさが強烈に焼き付くんですよ。

 

 

18歳以上の男女に兵役義務がある国。

ホロコーストから続くトラウマに覆われた国。

その状況が国民の心につける傷が、どれだけ大きいものか。

 

イスラエル社会、相当に病んでるなあと(まあ、よその国のことをいえた状況じゃないニッポンだけど...苦笑)

 

マオズ監督は「中の人」として

その危うさを、発信しているのだと思います。

 

AERA(9/16号)にてサミュエル・マオズ監督にインタビューをさせていただきました。

AERAdot.でも読むことができます。

監督、すごーくクレバーで、真のアーティストで、でもマッチョだった・・・(笑)

映画と併せて、ぜひご一読ください~

 

★9/29(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「運命は踊る」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛と法

2018-09-24 15:51:35 | あ行

 

なんと素敵でおっきなドキュメンタリーだろう!

 

********************************

 

「愛と法」80点★★★★

 

********************************

 

大阪で法律事務所を構える

ゲイの弁護士カップルを

10歳からオランダで育った戸田ひかる監督が撮ったドキュメンタリー。

 

いや~とにかく、いい映画で(笑)

チラシやパンフにも使っていただいた拙コメント

"リアル「きのう何食べた?」であり、「チョコレート ドーナツ」だ! ”が

ホントそのまんまなんですよ(笑)。

 

主人公は弁護士ふうふのカズ&フミ。

映画にまず写るのは、二人のフツーの暮らしです。

仕事を終えて家に帰ると、可愛い猫が二人を出迎え、

フミがごはんを作り、カズが後片付けをする。(「きのう何食べた?」でしょー?笑)

 

そんな

二人の微笑ましい日常とともに、

彼らが扱う案件が紹介されていくんですね。

 

二人のもとにやってくるのは

セクシャル・マイノリティーや無戸籍に悩む若者などなど。

「君が代」を歌わなかったことで処分を受けた先生や

"ろくでなし子裁判”の弁護もする。

 

そうした人々を助けるべく奮闘する二人の様子から

日本の現状が、よーく見えてくる。

 

異質なものを排除し、「空気を読む」ことを強要するニッポン。

そこからはみ出した人々が

どんどん声を上げられない社会になっていく不穏――

 

愛とユーモアとともに

想像より大きな問題を提起してくる

その点が、この映画の「おっきい」ところなんです。

 

 

そんな社会のなかで彼らのあったかい家庭と

彼らを理解し、受け入れている家族のぬくもりが、

どれほど大事か、どれほど素敵か。沁みる。

 

二人の家族も素敵だけど

ろくでなし子さんのお父さんも素敵なんですよ(泣)

 

 

そして、二人が面倒をみる少年カズマくんのエピソードがまたいい。

 

愛を与えられた子は

次の誰かに、愛を継いでいくことができるのだ――と

 

あったかい想いがじんわり押し寄せて、

ホント、泣けてくるわー。

 

AERA9/24号で戸田ひかる監督にインタビューをさせていただいております。

AERAdot.

で読むことができます~。ぜひ映画と併せてご一読くださいませ。

 

★9/22(土)から大阪 シネ・リーブル梅田で先行公開中。9/29(土)から渋谷 ユーロスペース、ほか全国順次公開。

「愛と法」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする