ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

羊の木

2018-01-30 23:56:01 | は行

「桐島、部活やめるってよ」(12年)「紙の月」(14年)
吉田大八監督。

……さすが、おもしろい!


「羊の木」75点★★★★


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さびれた港町の
市役所に勤める月末(錦戸亮)は

上司から新規転入者となる
男女6人の受け入れを命じられる。

彼らを出迎えるうちに
どこか違和感を憶えた月末は
上司を問い詰める。

「あの人たち、刑務所帰りなんじゃないですか?!


そう、彼らは全員、
仮釈放された「元・受刑者」。

自治体が彼らを受け入れることで
刑務所、国のコストを減らそうという
国家の極秘プロジェクトの一環だったのだ。


秘密保持を命じられた月末は
何も知らない住民たちのなかに
彼らを溶け込まそうとするのだが――?!


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原作は山下たつひこ氏×いがらしみきお氏のコミック。

まず、その設定がおもしろく
引き込まれました。


さびれた港町に移住してきた6人の男女が
全員「前科者」で
しかも、それが「地域活性化」の施策だという

一見、荒唐無稽に思えて
「……いや、ありそうじゃね?」というおもしろさ。

試写状に使われていた
このビジュアルも秀逸でしたね。



しかし、
この設定の不気味さに反して
映画は陰惨なことなどなく、
うっすらの危険と
ほのかな不穏さを感じさせ

淡々と
逆に「ほんわり」さえ漂う。

それゆえ
妙に現実味のある設定が不気味に可笑しくて(笑)。


さらに配役がまた絶妙。

登場するだけで「うわお」な田中泯氏(笑)や松田龍平氏。

あきらかにヤバそうな北村一輝氏や
市川実日子氏、

しかし、実は刺客的な優香氏が怖い……などなど

全編に
スリラー&サスペンス的なハラハラもあるんですが
それ以上に
「人と人とがどう関わるか」を描いた
存外にいい話でもあって
とてもおもしろかった。

結末もコミックとは違うそうで
ふーむ、原作も読むべきですなこれは。


★2/3(土)から全国で公開。

「羊の木」公式サイト
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スリー・ビルボード

2018-01-29 01:56:33 | さ行

GG賞で主要4部門を受賞。
アカデミー賞でも席巻は必須。

このタイミングで観られることが
嬉しくてたまらない。


「スリー・ビルボード」80点★★★★


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米ミズーリ州の田舎町。

さびれた道路沿いの3枚の広告看板に
ある日、衝撃的なメッセージが書かれる。

広告を出したのは
7ヶ月前に娘を殺された
母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)。

一向に進まない捜査に
業を煮やしての行動だった。


当初はミルドレッドに同情していた町の人々も
次第に
彼女の不敵な行動に眉をひそめはじめる。


そして、看板は小さな町に
思わぬ波紋を巻き起こし――?!


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これは最高におもしろい脚本です。
人物描写も秀逸。


小さな町で
ティーンエイジャーの娘が殺される。

7ヶ月たっても、犯人の手がかりすらないことに
怒り心頭の母親(フランシス・マクドーマンド)は
道路沿いの看板を買い取って、メッセージを掲げる。

それが
町の人々に思わぬ波紋を投げかける――という物語。


まずは
怒れる遺族となる母親の
行動力の、ぶっちぎり具合がもう!
想定外で、すげえ!
(警察署に乗り込んで行く場面なんて、まんま西部劇!笑)


なぜ、彼女がそうするかといえば
町の巡査(サム・ロックウェル)はレイシストのクズだし

警察署長(ウディ・ハレルソン)も
一身上の都合だか知らないけれど
どうも捜査に本気でないようにみえるから。


犠牲になった娘の恨み、
このままにしておけようか!と暴走する
彼女の気持ちには共感できるけど

その行動には、たしかに共感しかねるものもあったりするのが
複雑でうまい。


さらに、その先が、この映画の重層なところ。

一見、クズで嫌なヤツでも
人というものは、一面では測れない。
多面を持っているんですね。


物語が進むうちに
「この人が、こんな行動をするとは!」という展開があり
そのきっかけがまた、意外なところから、もたらされるのがいい。


「怒りは怒りしか来さず」、
そして
人には変われるチャンスがある。

そんなことを教えてくれる映画でした。


いまの暗~い世の中で
この破天荒な物語が起こす
一陣の風を、ぜひ感じてほしいです。


★2/1(木)から全国で公開。

「スリー・ビルボード」公式サイト
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殺人者の記憶法

2018-01-28 00:48:52 | さ行

韓国で大ヒットのスリラー。


「殺人者の記憶法」71点★★★★


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獣医のビョンス(ソル・ギョング)は
一人娘のウンヒ(キム・ソリョン)と暮らす中年男。

最近、アルツハイマーと診断された彼は
道に迷ったり、記憶を失っては
警察のお世話になっている。

実はビョンスには過去に
社会のクズを“私刑”にしてきた
連続殺人犯という知られざる顔があった。

だが、その記憶すらあやふやになってきている。

そんなある日、ビョンスは車で接触事故を起こす。

その車のトランクには
明らかに死体とおぼしきものがあった!

運転していたのは柔和そうな若い男(キム・ナムギル)。

男に自分と同じ匂いを感じとったビョンスは
警察に通報するのだが

誰もビョンスの話を信用しない――。


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いや~久々に韓国映画の毒にあてられました(苦笑)

動物は出てくるわ、いかにも殺されそうな娘は出てくるわ、
危険フラグが多すぎて神経がすり減った。

好きかと問われれば、
うーん、クビを横に振ってしまいそうだけど
でも、話はうまくできているんだよね。


かつて社会のクズたちを殺し
「正義の殺人」を繰り返してきた主人公が、アルツハイマーを患う。

忘れていく記憶のなか、
彼は偶然、連続殺人犯と接触する。

しかし主人公のあやふやな記憶が、
犯人をあと一歩で追い詰めきれない。

そのもどかしさたるや、もう!!


あげく、アルツハイマーであることを利用され、犯人にされてしまうかも?
いやいや、実際、本当に主人公の記憶は正しいのか?

何が正解かわからないハラハラに、
緊張しっぱなしでグッタリ。

しかし
ソル・ギョングの芝居はすごいなあ!

そして
やっぱり話はおもしろいんだよなあ!と
まあ結局、おもしろいのでございました。


★1/27(土)からシネマート新宿ほかで公開。

「殺人者の記憶法」公式サイト
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ラーメンヘッズ

2018-01-27 17:40:15 | ら行

とぼけて、ちょっとユーモラスな
ナレーションがおかしい。


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「ラーメンヘッズ」70点★★★★


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業界ナンバーワンの人気ラーメン店「とみ田」の店主を軸に、
一杯に命をかける人々を追うドキュメンタリー。

ラーメン求道者たちの真剣さを
もちろんリスペクトを持って追ってるんですが

同時に
「なぜ(ラーメンに)そこまで?」という冷静さがあって

そこが単なる“フード讃美”映画とは違う
ユーモアと味になっている。

冒頭から
「(ラーメン作りの現場に)あったのは、
作り手の“狂気”に満ちた哲学だった……」みたいな(笑)

「とみ田」店主の
休日ファッションにもツッコミを入れ(笑)

終始、ちょっと客観的で
とぼけたナレーションが醸し出す
軽妙さ。

かなりハイレベルな技だと思うし
それを受け入れた店主も
大変にセンスがいいと思う。

海外での評判もすごくよいそうです。

あ~ラーメン食べたい!(笑)


★1/27からシネマート新宿、シネ・リーブル池袋、千葉劇場ほか全国順次公開。

「ラーメンヘッズ」公式サイト
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デヴィッド・リンチ:アートライフ

2018-01-26 23:56:06 | あ行

もっと“トンガッタ”映画かと思っていたら
意外にも
穏やかで親密な時間が流れて

……いい。


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「デヴィッド・リンチ:アートライフ」70点★★★★


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絵画や写真作品でも知られる
デヴィッド・リンチ監督。

そんな彼がアトリエで創作する様子を見ながら、
彼の話を聞くドキュメンタリーです。


本人の一人語りで
彼のアトリエで、その作品作りを見つつ、
子供時代から思春期の話が語られる。


「周囲の証言」的なものは何もなく
彼以外には誰も出てこない。


多分に「トンガッた」イメージのある監督ですが

この映画には
黙々と作業をし、訥々と語る彼と実際にアトリエで対面しているような
親密で穏やかな時間が流れている。

その心地よさに、けっこうびっくりしました。


子ども時代からの貴重な写真やフィルムもたっぷりで
今に至るまでの道程も非常によくわかる。

若い頃はかなりの引きこもり…というか
ヤバい感じだったのね…とかね。

「理解不能な天才」っぽかった巨匠を
身近に感じられる気がして、おもしろかったです。


話が「イレイザーヘッド」(76年)までなので
うわあ、いくらでも続きありそう!と思ったけど

未見なのですが
「リンチ1」(07年)というドキュメンタリーもあるんだもんね。

そちらを合わせて観ると
かなり補完されるのかな。

まあ一番驚いたのは
映画にも登場する、無邪気なお嬢ちゃんが
彼の娘だってこと!

2012年に生まれたお嬢さんだそうで

うーん、オーバー70歳にして
その旺盛な制作意欲とともに
感じ入りましたハイ。


★1/27(土)から新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、立川シネマシティほか全国順次公開。

「デヴィッド・リンチ:アートライフ」公式サイト
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