ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

イーダ

2014-07-29 23:49:45 | あ行

モノクロの美しい画面の
その余白に、神がいるような。


「イーダ」75点★★★★


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1962年、ポーランド。

修道院で育てられた
孤児のアンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は
修道女になる儀式の前に、叔母がいることを知らされる。

初めて外の世界に出て
叔母(アガタ・クレシャ)に会ったアンナは
叔母から自分がユダヤ人であること、本名はイーダであることを知らされる。

そしてイーダは自分の出生を探る旅に出るが――?!

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アンジェイ・ワイダ監督、ロマン・ポランスキー監督など
名だたる映画人を輩出してきたポーランドから
また才能が出現。

1957年生まれのパヴェウ・バヴリコフスキ監督による
モノクロで撮られた
とても美しく、うまい映画です。

なんといっても
画面下方に大胆に配された人物のカットが美しい。

物理的なその上部の余白に、
おそらく神がいるのだろうな。


大胆な省略が多くを物語る、
80分の時間も美しい。

コルトレーンの音楽も印象的で
決して「教育的」な映画じゃない。

それでも、より深くを知りたくなる気に
させるんですよねえ。


ポーランドの歴史は複雑で、勉強の余地ありなのですが
この映画にあるように
ポーランド人たちのなかに“反ユダヤ”の意識が確かに存在し、

ナチスドイツの指示だとかとは無関係に
一般のポーランド人がユダヤ人を殺してしまったという
負の歴史があるそうです。

そしてポーランド人はいまでも
ユダヤ人に対して自分たちがした罪について、
語りたがらないのだそう。


この映画は
ミステリアスかつ、ロマンチックさも持ちながら

その淡々とした美しさのなかに
一度起こった悲劇の爪痕の消えないさまを
しっかり刻んでいる。

無垢なるイーダの目を通した
ポーランド人たちへの静かなる戒めであり、
そうした歴史を我々にも知らせる意味もあるのですね。


ラスト
「神なき世界」への諦観ではなく
「神への怒り」が、
イーダのあの行動として、形を取るのかなとワシは感じました。


イーダ役のアガタ・チュシェブホフスカは
ワルシャワのカフェにいたところをスカウトされて、
初の映画出演となったとのこと。

その小さな裸足の足が
子鹿のようにつぶらな黒目がちの瞳が、
後々まで胸に刻まれそう。

本人は今後「映画監督」方面を目指すらしいですが
行く末が恐ろしい・・・いや、楽しみな22歳です。


★8/2(土)からシアター イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。


「イーダ」公式サイト
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2つ目の窓

2014-07-24 23:31:16 | は行

ほんとに、奄美ってこんな感じ。

いいとこです。
大好き。


「2つ目の窓」68点★★★☆


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鹿児島と沖縄の間に位置する、奄美大島。

高校生の界人(村上虹郎)は祭の夜、
海に浮かぶ男の溺死体を発見する。

界人はその男に見覚えがあったが
ある理由から口を閉ざす。

いっぽう、界人と想い合っている
同級生の杏子(吉永淳)は
病床にある母(松田美由紀)と気丈に向き合っていたが――。

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河瀬直美監督の新作。


最近の河瀬作品は“女”(というか母とか血とか性(さが)とか?)の匂いがキツくて
正直、ちょい引き気味だったんですが
これはけっこうグッ。

監督の実はルーツであるという
“奄美”という舞台の力も大きいだろうけど
主人公たちが少年少女というのが一番の理由かな。

全体に大きな事件はなく、
無垢な存在たる少年少女たちが

“生き死に”の手触りを
豊かな自然と、生と死が身近に感じられる島で
自分自身の手で確かめていく、というイメージ。

その過程を
ドキュメンタリーふうのタッチで描き、

人の営みの生々しさを、
うまく体感に持っていってるなと感じました。


主人公・杏子の母親役ので松田美由紀氏が、
自らの魂を静かに“あちら”に返すシーンがいい。

そこでのおじいの島唄に、
気持ちより先に、ボロッボロと涙がこぼれました。

冒頭の
山羊を屠るシーンには「ウッ」と思ったけど

しかし、あの「魂の抜けて行く」感覚を、
これほどまでに視覚化してみせたのはすごい。

それは、やがて描かれる人の“死”の際の様子に
確かにつながっていくので
しっかりと、意味はありました。


★7/26(土)から全国で公開。

「2つ目の窓」公式サイト
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GODZILLA ゴジラ

2014-07-23 23:58:55 | か行

けっこう見応えありました。


「GODZILLA ゴジラ」3D版 68点★★★☆


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1999年、日本。
原子力発電所で重大な事故が発生する。

原発に務めていたジョー博士(ブライアン・クランストン)は事故原因を探ろうとするが
国と企業に隠蔽されてしまう。

同じころ、フィリピンで
芹沢博士(渡辺謙)はある重大な発見をしていた。

そして15年後。

米軍の爆弾処理班で働く
ジョー博士の息子(アーロン・テイラー=ジョンソン)は
父が日本であの事故の調査を続けていると知り――?!

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怪獣とはいえ生き物が戦うのは気の毒で
ワシ、怪獣映画は子どものころから苦手(苦笑)。

なので正直、門外漢なのですが

この映画は
ハリウッド流「SF(ディザスターもモンスターも含む)を現実っぽく見せるにはこうするんだ」という手法が
本当に詰まっているなあと勉強になりました。


冒頭から過去のニュース映像や新聞記事で
「過去にあったくさい」演出をガンガンして下地作り。

現実味のある原因や起因を提示し、
地震や原発、核、放射能……など、現実問題に絡めていく。

特に、かつて原発事故が起き
立入り禁止地区になった場所の設定など
いやでも福島を想起させるしね。

ゴジラ登場シーンも、バトルシーンも
うまく全部を見せずに、リアルを演出したり。

まあ、
「15年で無人地区はあんなに荒廃しないよう」とか、
「侵入者をわざわざ自ら秘密施設に連れてくか?」とか、
ツッコミどころは満載なんですけど、

映像はすごいし、
ジュリエット・ビノシュや
エリザベス・オルセンも出てる。

それに
門外漢から見ても、
たいていは「異形の怪物(エイリアン)VS人間」という図式になるものが
ああ「怪獣映画とは、そうならないんだな」と。

そのへんに元ネタのスピリットも
生かされていているのだろうな、と想像できました。

ただ
渡辺謙さん演じる倫理的な学者には、
もうちょっと具体的に活躍してほしかったなー。


★7/25(金)から全国で公開。


「GODZILLA ゴジラ」公式サイト
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なまいきチョルベンと水夫さん

2014-07-18 22:09:03 | な行

例によって、何にも知らずに観に行くので
30年も前の作品だと、わからなかった!(笑)


「なまいきチョルベンと水夫さん」64点★★★


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スウェーデンのウミガラス島に暮らす
ドジでおてんばな少女チョルベン(マリア・ヨハンソン)は
お利口な犬の“水夫さん”と大の仲良し。

ある日、漁師のおじさんが
網にかかったアザラシの赤ちゃんを連れてきた。

おじさんは「チョルベンにあげるよ」と
言うのだが――?!

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「長靴下のピッピ」の作者
アストリッド・リンドグレーン原作のスウェーデン映画。

セントバーナードと少女が
歌いながらフレームインする冒頭から
昔の人形劇のような児童劇のような、

総天然カラー!っぽい色合いもカメラワークも、
ほんと昔懐かしな感じ。

・・・・・・ってコレ、1964年の作品なんですって。
びっくりだわ。

いま見てもまったく古くなく
「わざと昔っぽくした」のかな、とすら思ったもんね。


自然のなかで伸び伸びと遊び、
カワイイ赤ちゃんアザラシを飼う、など
だいたい子どもの夢を具現化しているのだけど

実は
けっこうビターな感触もあり(苦笑)。

ビターというか教育的要素、というのかな。


途中までニコニコ見ていたけど
やはり予感は当たり、
動物にまつわる悲しい出来事があったり。

まあ、すんでのところで誤解は解け、
悲劇にはならず、救われるんですけどね。


むっくりとした主人公チョルベンさんと、
おませなショートカットの少女スティーナのコンビも

なんだか「おばさんコンビ」のように見えておかしく(笑)
可愛らしい衣装や美術もいい。


水夫さんは
絶対「フランダースの犬」っぽいし、

それに、こうしてみると
海辺の入江の抜け感とか、
「思い出のマーニー」に似てるかもー。

こっちはあっかるいですけどね。


後の様々なものに
影響を与えたのかもなあ、という作品です。


★7/19(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「なまいきチョルベンさん」公式サイト
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複製された男

2014-07-17 23:18:00 | は行

これは……
期待しすぎて撃沈パターン(笑)


「複製された男」65点★★★


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大学の歴史講師アダム(ジェイク・ギレンホール)は、
平凡で刺激のない日々を
ただ繰り返して生きていた。

ガールフレンド(メラニー・ロラン)との関係も
停滞ぎみ。

そんなとき、
ある映画をDVDで鑑賞したアダムは
そこに登場する俳優が自分とそっくりなことに気づき、驚く。

俳優を捜し当てたアダムは
ついに自分と瓜二つの人間に対面するが――?!

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う~~む……。

序盤は面白かったんだけど、
どうにもこの眠いテンポとどんより“もやった”空気
進まない展開が……厳しかったす。

思わず、逆らえず眠気が……。


「灼熱の魂」でガツンと印象付けたカナダのフィルムメーカー、
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作で

監督の「プリズナーズ」で存在感見せつけた
ジェイク・ギレンホール主演なんですもん。
期待はするわなぁ。


確かに期待通りな部分はあって、

不条理劇、謎めいた挿入シーン、
セピアにあせた色彩、息詰まる構図……。

見せ方はうまくて
けっこう引き付けられるんですが
ストーリーがもう一歩。

ドッペルゲンガー話のオチとして
意外性がなかったですね。


★7/18(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「複製された男」公式サイト

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