ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・イースト

2014-01-31 21:45:56 | さ行

主演・脚本の新鋭ブリット・マーリングに注目。
凄い才能ですよ!


「ザ・イースト」77点★★★★


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企業をテロ行為から守る
調査会社の調査員ジェーン(ブリット・マーリング)は

上司から環境テロリスト集団<イースト>への
潜入捜査を命じられる。

<イースト>は、海を原油で汚した石油会社などをターゲットに
過激な手口でテロ行為を行っている集団だ。

<イースト>に潜り込んだジェーンは
カリスマ性あるリーダー(アレキサンダー・スカルスガルド)や
彼に傾倒するイジ―(エレン・ペイジ)などに出会う。

彼らの「正義」を前に、
ジェーンは自分の信条を貫けるのだろうか――?!

**********************


リチャード・ギア主演の「キング・オブ・マンハッタン」や
ロバート・レッドフォード監督の「ランナウェイ/逃亡者」に出演し
印象を残した、硬派美人女優ブリット・マーリングが
脚本・主演している作品。


女主人公の正義感、
説明最小にして畳み掛けるような展開とスリルなどが
「ゼロ・ダーク・サーティー」にちょっと似ていて、

そこに「マーサ、あるいはマーシー・メイ」の
カルト集団心理の怖さのようなものが加わって

こりゃあおもしろいっす。

まず、テーマが
海鳥を油まみれにする石油企業や、毒を売る製薬会社などに
テロ行為を行う“環境テロリスト集団”っていうのが今日的でおもしろい。

彼らのテロを阻止すべく、主人公が
いちエコロジストを装って、組織<イースト>に潜入。

初めは「怪しさ満点な宗教団体?」にも見えるんですが、
いやいやこれが
彼らのやっていることにも一理あり、
次第にどちらが正義かわからなくなるんですね。

というか、ワシなんぞハッキリ言って
冒頭から
テロ組織側の肩を持ちたくなります。

まあ手段は過激としても
金と利益しか考えてない企業の肩なんぞ
誰が持つか?(笑)


それは主人公ジェーンも同じで
さあ、彼女はどっちの味方をするのか?

しかもスカルスガルド演じる組織のリーダーもなんだか魅力的で……と
グラグラ揺さぶられる。


ですが。
硬派な社会派映画?と思っていると
またちょっと違う方向に向かっていくんですよ。

発売中の『週刊朝日』ツウの一見でお話を伺った
コラムニスト・山崎まどかさんの解説が実に的を得ていて、引用させていただいちゃうと
「足払いをされる」という感じなんです。

「どんでん返し」とはちょっと違う、
ひっくり返され感がラストに待っている!

ザル・バトマングリ監督とブリット・マーリングは
非常に理知的な
映画の構築ができる人なのだと思う。

だからなんでしょうか、この映画
男性ウケがめちゃくちゃいいらしいですよ。

にしても、
ブリット・マーリングって映画やる前には
大手証券会社でインターンをして、内定が決まってたんだって。
どんだけ才媛なの?そして謎な人なの?(笑)


★1/31(金)からTOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほか全国で公開。

「ザ・イースト」公式サイト
コメント (2)
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メイジーの瞳

2014-01-30 21:23:16 | ま行

巷では子どものドラマが
問題になってるようですが

この6歳にもぜひ注目してほしい。



「メイジーの瞳」76点★★★★



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6歳のメイジー(オナタ・アプリール)は
ロックスターの母(ジュリアン・ムーア)と画商の父の間に生まれた。

が、両親が離婚することになり
裁判の結果、メイジーは父と母の間を10日ずつ行き来することになる。

父はメイジーのシッターだった女性(ジョアンナ・ヴァンダーハム)と、
母は若い恋人(アレキサンダー・スカルスガルド)と、それぞれ再婚し、
メイジーは新しい家族になじもうとする。

だが結局、実の父母は自分優先で
メイジーの世話をそれぞれのパートナーに押しつけてしまう。

二家族の間で揺れるメイジーは
ある決断を迫られることになり――。

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「キッズ・オールライト」で
レズビアンカップルとその子どもたち、という
新しい家族の形を描いて喝采!なスタッフたちが

今度は
自分勝手な実の親と、子ども優先にしてくれる他人の狭間で揺れる
6歳の少女を描いた作品です。


子どもの目線から大人たちを見る、って、
最初は「ちょっとありがち?」とか思ったのですが、

いやいや。

大人の都合であちらにこちらに
振り子のように揺られる6歳のメイジーの

しかし淡々と、本能的なある種の処世術を観ながら、
大人として深く考えさせられました。


メイジー役のオナタ・アプリールは
ちょっとフレンチ系の
(シャルロット・ゲンズブール系な)
華奢さと繊細さを持っていて、すごく魅力ある子役。

実の父親にテキトーな約束をされて、
でも、それが叶わないのだと、
自分の中のどこかで腑に落ちさせているような表情。

アレキサンダー・スカルスガルド演じる
ハンサムで若い新しいパパを
学校でちょっと自慢げに紹介しちゃう、可愛らしさ。

この子、女優だわ・・・・・・という凄さです。


で、大人側から言うと、

結局、この問題って
自己犠牲VS自分中心、という
人間の根源的な戦いだと思うんですよ。

「子ども、はたまた自分以外の誰かのために、自分を捨てられるか?」という、
きれい事ではない生の事例だと思う。


ワシは子どもいないので
ホントのところはわからないんだけど、
子どもに限らず、自分以外の他人って
ホンの一瞬だとしても、どこかで必ず
「邪魔な存在」になるものなんじゃないか、と思ったりする。


邪魔、っていうのはキツい表現だけど
「もし、この人生を選んでなかったら…」とか思うことも同義だと思うわけで。

そんな誰にも身に覚えあるような感情に
6歳の少女を通して、向き合わせられる。
そこに、やられました。


監督のスコット・マクギー氏とデヴィッド・シーゲル氏は
90年に一緒に短編を作って以来、ずっとコンビを組んでいるそう。

私生活のパートナーではないらしいけど、
(片方はゲイだそうですが)
共同作業も含め、そういうフラットな視点が

気持ちいいほどクールな現代の「家族」の提示に
一役買っているのは間違いないと思います。

マーク・ジェイコブズに師事したという
ステイシー・バタットによる
メイジーの衣装も可愛いっす!


★1/31(金)から全国で公開。

「メイジーの瞳」公式サイト
コメント (2)
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アメリカン・ハッスル

2014-01-28 20:53:06 | あ行

アメリカのメジャーな賞とは
とことんセンスが合わないみたいで・・・(苦笑)


「アメリカン・ハッスル」47点★★★


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1979年、ニューヨーク。

詐欺師アーヴィン(クリスチャン・ベイル)は
愛人でパートナーのシドニー(エイミー・アダムス)と
大物政治家をターゲットに、ある詐欺を仕掛けようとしていた。

驚くべきことに詐欺の真の仕掛け人は
FBI捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)。

リッチーはアーヴィンを捕まえ、彼の天才的な詐欺手腕を買い、
政治家におとり操作をしようとしているのだ。

なぜ、このような
前代未聞の詐欺が行われることになったのか――?!

全てのはじまりは、
アーヴィンとシドニーの出会いに遡る……。


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アメリカで大騒動になった実話を基に、
「ザ・ファイター」(10年)「世界でひとつのプレイブック」(12年)の
デヴィッド・O・ラッセル監督が映画化した作品。

期待度MAXでしたが

うわ~これは勿体無い!

役者は揃ってる、元ネタは面白そう。
なのにどうしてこう、もたついちゃうんだろうな~。

138分もいらないし、
そもそもの話がややこしいんだから、
もっとシャープに交通整理してくれないと。


基になったのは、1980年に発覚し大騒ぎになった
FBIの「アブスキャム作戦」。

詐欺師を捕まえて、その詐欺師の力を借りて
ニセの収賄を政治家やらに持ちかけて
ひっかかった人々を捕まえる……という

なんつうか
おとりというより、すでにもう「罠じゃん?!」(苦笑)
仕掛けてるFBIのほうが犯罪じゃね?という。


そのメイン人物となった詐欺師を
クリスチャン・ベイルがでっぷり太って演じ(すごいねえ、肉体改造俳優!

彼の相棒をエイミー・アダムスが胸元パックリドレスで演じ

詐欺師のちょっと“足りない?”若い妻をジェニファー・ローレンスが、
そしてこの計画を持ちかけたヤバイ捜査官を
ブラッドリー・クーパーが演じる。

冒頭、詐欺師たちがある罠を仕掛ける部分から始まり、
そうなった発端に時間が戻り、
さらに冒頭シーンに戻るという

まあ、よくある構成なんだけど
なんでしょうね、うまくないんですよ進行が。

元ネタがシリアスながら「嘘でしょ?」みたいな
間抜け感のある話なので、

それを表現しようとしているのか
ちょっと変わったセンスとテンポ、ユニークさがあるんだろうけど……
伝わらない。

「何が嘘なの?」なハラハラと
混乱させるイライラは違うんだよな~。

ただ、詐欺師仲間のなかでも
制御できず、足を引っ張りかねない
不安定な妻、ジェニファー・ローレンスはおもしろい。
彼女が「未知の領域のユーモアの作品だった」とコメントしたそうだけど
ホントに映画そのものをズバリ言い当ててるというか。

賢い人ですなあ。

クリスチャン・ベイルのハゲネタも
おもしろいんだけどね~。

テーマとなってる騙し合い、フェイク、を表すにゃ
直接的だけど(笑)

それにラスト、よくこうなった!とは思いました。


★1/31からTOHOシネマズみゆき座ほか全国で公開。

「アメリカン・ハッスル」公式サイト
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ウルフ・オブ・ウォールストリート

2014-01-27 21:22:55 | あ行

このタイトル
「ギャング・オブ・ニューヨーク」と
めっちゃ紛らわしくないすか。ワシだけ?(笑)


「ウルフ・オブ・ウォールストリート」69点★★★☆


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1987年。

野心家の青年ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は
22歳でウォール街の大手証券会社に就職する。

風変わりな上司マーク(マシュー・マコノヒー)に
「株屋のハウツー」を教わり、
さあ株式ブローカーとして出発!と思ったその日、

ブラック・マンデーで会社が倒産してしまう。

しかし諦めない彼は
株式素人のドニー(ジョナ・ヒル)を巻き込み
ガレージから自分の証券会社をスタートさせるが――?!

***************************


1980年代~90年代に
貯金ゼロから年収49億円にのし上がった
株式ブローカーの実話を基にしたお話。

スコセッシ監督×ディカプリオコンビの実話系は
長い、セリフ多い、どうもイマイチ…という印象があった。

でも本作は、意外に裏切られました。

なんといっても
かなり本気で弾けてるから!(笑)

壮大なおバカ乱痴気パーティを、
「もう勢いでやっちまえ!」というノリが中途半端でなく、
笑える要素も含めて、強烈な印象が残る。

どちらかといえば
ジョナ・ヒルの得意分野的な世界に、巨匠とディカプリオが乱入!
あらら、スケールでかくなったよ!みたいな(笑)


ガレージからスタートした株屋、という実話自体のおもしろみもあり、
単なるマネーゲームやサクセスものとは
ひと味違いました。


ただ、カリスマ社長ディカプリオの独演会が長かったり
怒鳴り芝居にも、ドラッグでレロレロ~な描写にも
ちょっと飽きちゃったりで

2時間59分は、やっぱり長いけどね(笑)

学んだことは
マコノヒー兄いによる
「顧客に得をさせず、自分が得をする」株のハウツー講義や

「何の変哲もないペンを
どうやって相手に売りつけるか?」のビジネス基本、

そして
酒やドラッグはやめても
金操作のスリルだけはやめられないという、恐ろしい中毒性でした。


★1/31(金)から全国で公開。

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」公式サイト
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エレニの帰郷

2014-01-24 00:44:55 | あ行

ブルーノ・ガンツが出てる。
久しぶり、久しぶり!(喜)


「エレニの帰郷」69点★★★☆


**************************

20世紀末の現在。

映画監督の“A”(ウィレム・デフォー)は
両親の人生を題材に映画を撮っている。

母親エレニ(イレーヌ・ジャコブ)と
恋人スピロス(ミシェル・ピコリ)、
そしてエレニを支え続けたヤコブ(ブルーノ・ガンツ)。

歴史に翻弄された男女の物語だ。

だが製作は思うように進まず
しかも現在、“A”自身も問題を抱えていた…。

**************************


2012年に事故で急逝した
テオ・アンゲロプロス監督(享年76歳)の作品。

「エレニの旅」(04年)に続く
20世紀を描いた三部作の二作目ですが、

続編というわけではなく独立した作品なので、
単体で見ても大丈夫です。

でも三作目の途中で亡くなったので
これが遺作となってしまったんですねえ。


ストーリーは
主人公の映画監督“A”(ウィレム・デフォー)が
自身の母エレニを映画にしようとし、

そこに両親の実際の物語、“A”の現在が交互に描かれ、
やがて入り交じり、不思議な融合を果たしていく……というもの。

時代も交錯するし、
また歴史事件や背景や“知ってて当然”の感ありで
すんなりと見るには及ばないところがありますが、

やはり映像が圧巻。

どこだかまったくわからないけれど
雪の平原にぽつんと1両編成の電車がやってくるシーン

放送を聞くために
大勢の人々が集まってくる広場のシーン、

数奇な運命を経て3人が再会する駅のシーン……。


磨き抜かれ、完璧に統率された“芸術”ですね。


あまり考え込まずにまずは浸り、
感じるのもいいかもしれません。

で、あとからゆっくり考える、という。


★1/25(土)から公開。

「エレニの帰郷」公式サイト
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