ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

夜間もやってる保育園

2017-09-30 12:36:04 | や行

世間のリアルドラマはおもしろい。

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「夜間もやってる保育園」71点★★★★


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24時間やってる保育園のドキュメンタリー。

「石川文洋を旅する」などの大宮浩一監督作品で
とても見やすく
子ナシにもおもしろかったです。

主な舞台は、新宿にある「エイビイシイ保育園」。

0歳から就学前の子どもたち
90人を預かっていて、

夜10時以降のお迎えになる子は
「お泊まり組」として
夕ご飯を食べて、パジャマになって寝る。

なんだか毎日がお泊まり会みたいで、
けっこう、子どもたちは楽しいだろうなあと思う。

繁華街に近い場所で
子を預けているのはシングルマザーのホステスさんが多いのかなと想像したけど
両親ともに飲食店関係者、というケースもけっこうある。

公務員の女性とかもいるし、
これなら、万が一の残業だってこなせるし
すごく助かるだろうなあ。


園長の片野清美さんは
昭和58年(1983年)に無認可の託児所(ベビーホテル)として
この保育園を始め、大変な苦労もしながらこの形を作ってきたそう。
おっきいお母さん、という感じのいいキャラクターだ。

こうした夜間保育園は全国80カ所あるそうで
映画は沖縄、北海道帯広、新潟など各地の保育園も紹介していく。

さまざまな人間ドラマも見えてきて
(特に帯広の保育園の、あるお母さんの話がスゴイ!)

さらに
新宿の片野園長のワケあり過去も紹介されてびっくり。

人にはそれぞれ、本当にドラマがあるんだなあと。


そして、世のお父さんお母さんが
子どもと過ごせる時間って、本当に短いんだと、改めて知った。

それでも懸命に、子どもたちを育てるお母さん、お父さん。
それをサポートする園長先生や保育士さん。

みんなの優しいまなざしが、たしかに写し取られていて

この映画、
登場する子どもたちが、大人になってから
見返すために作られたんじゃないかな、という気もしました。


★9/30(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「夜間もやってる保育園」公式サイト
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ブルーム・オブ・イエスタディ

2017-09-28 22:10:59 | は行

ヤバいんだけど、
映画の意味が見えてくると、響くんですよこれが。


「ブルーム・オブ・イエスタディ」70点★★★★


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トト(ラース・アイディンガー)は
ホロコースト研究所に務める研究者。

彼の祖父はナチスの親衛隊で
彼は一族の罪のつぐないとして、研究に打ち込んでいるふしがある。

そんな彼がフランスからやってきた
インターンの若い女性ザジ(アデル・エネル)の面倒を見ることに。

空港で出会った彼女は
トトを尊敬していると大喜びするが
彼の車がベンツだと知ると、激しく怒り出す。

「私のユダヤ人の祖母は、
ベンツのガス・トラックでナチスに殺されたのよ!」

こうして加害者と被害者の過去を持つ二人が
行動をともにすることになるが――?!


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昨年の第29回東京国際映画祭で
グランプリを獲得した作品。

しかし
うむむむ~~、これは
勧めるのが難しい!(笑)

ナチス戦犯を祖父に持ち、
その罪滅ぼし的にホロコースト研究をする男性トトと、
祖母をナチスに殺された若い女性ザジが出会う。


初っぱなから、ザジは
“当事者”ならではの
あまりにヤバいタブーをドスドスと繰り出して
加害者の末裔であるトトをオドオドさせるんですね。

その行動は
かなり常軌を逸しており(苦笑)
一方、トトのほうも、精神的にかなり振り切れている。

そんな二人の暴走についていくのは
正直、中盤までかなりつらいんですよ。


だが、しかし。

だんだんとこの問題の根っこと、問いかけの意味に気づくと
映画の印象が変わってくる。


まず、ハッとしたのは
そうだよな、こういう状況、ドイツやヨーロッパでは
フツーにあり得ることなんだよな、ということ。

ホロコースト被害者と、彼らを大量虐殺した加害者が
学校で、職場で、地域のコミュニティで出会ってるわけですよね。

そう思うと、かなりディープに響いてくる。


過去に向き合うことで償い、
過剰に自分を虐めぬいているような
トトの行動にも共感できるし

自殺未遂を繰り返すトラブルメーカー、
ザジの心に引っかかっているものも見えてくる。

そんな二人の邂逅に
ドイツのいまの世代の「何かを突破する!」という
力や希望の想いも感じてきた。


実は監督自身が
トトと同じように、自分の祖父にそういう過去があると知ったことで
ショックを受けたそう。

そこから、こうした新しい視点のアプローチが
できたんですねえ。


★9/30からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ブルーム・オブ・イエスタディ」公式サイト
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ポルト

2017-09-27 23:51:11 | は行

2016年に事故で急逝したアントン・イェルチン主演。
……切ない!


「ポルト」71点★★★★


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ポルトガル北部の湾岸都市ポルトに暮らす
アメリカ人青年ジェイク(アントン・イェルチン)。

冴えない風貌で
愛犬だけを相棒に、その日暮らしを送る彼は
数年前のある出会いを忘れられずにいた。

それは、彼が26歳のとき。

仕事先で見かけた
6歳年上のフランス人留学生マティ(ルシー・ルーカス)に恋した彼は
彼女と、忘れられない一夜を過ごした。

だが、マティにはずっと年上の恋人がいた――。


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1982年生まれの34歳、
ブラジル出身の新鋭ゲイブ・クリンガー監督作品。


いやあ、切ないんです、これ。


ポルトガルが舞台だから、でしょうか
深みある赤、街に滲む黒……
どこかメランコリックで刹那な感覚が
巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ監督を思わせるんですが

プレスのインタビューを見ると
監督、やっぱり相当な影響を受けているようです。

さらに
ジム・ジャームッシュ監督の「黒」の印象もあり
彼の最新作「パターソン」
酷似したシーンにびっくりしましたが

まさに、そのジャームッシュが製作総指揮&全面サポートと聞いて、
なるほど!納得いきました。


そして見ながら、やっぱり胸に迫るのは
事故で急逝したアントン・イェルチンの存在感。


ただ一度の愛に出会い、破れ、
異国ポルトガルで「いっそ、この世から、消えてしまいたい」的にたゆとう青年役が
あまりにうますぎて、ハマリすぎていて
切なすぎる(涙)。

惜しい存在を亡くしたと
つくづく思いました。

改めて、合掌。


★9/30(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ポルト」公式サイト
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ドリーム

2017-09-25 23:26:43 | た行

正統な良作!


「ドリーム」75点★★★★


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1961年。

米ヴァージニア州にあるNASAの研究所では
優秀な黒人女性たちが
“計算グループ”として雇われていた。

リーダー格のドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は
能力に見合ったポストを求めているが
白人の上司(キルスティン・ダンスト)に
「黒人は管理職にできない」と暗に言われてしまう。

そんななか、幼いころから数学の天才とされてきた
キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)が
黒人女性として初めて、ハリソン(ケビン・コスナー)が率いる
宇宙特別研究本部に配属される。

しかし
全員が白人男性である職場の雰囲気は
想像以上につらいものだった……。

だが、ソ連との宇宙開発競争に一喜一憂するNASAで
彼らはやがて
彼女たちの才能にひれ伏すことになる――。


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1961年のNASAで黒人で女性というダブルハンデと闘い、
偉業を成した3人の女性数学者の実話。

うん、
正統派におもしろかったです。


数学の天才、技術者、計算の天才の3人の黒人女性たちが
人種差別の理不尽さと闘い、
アメリカの宇宙開発を大きく前進させる“希望の光”となっていくさまを
克明に描いていて

黒人が白人と同じトイレを使えなかったり、
もちろん昇進も出来なかったり、という差別に
歯ぎしりするほどもどかしいけど

所々にあるにユーモアが、そのイライラを救い、
かつ、全体の描写にあたたかさがあるのがいい。


それにね、
こういう状況を
「大昔の、あ然とする差別」――とはまったく思えない
現代の状況もしみじみ考えてしまう。
特に日本はね……。

だからこそ
立ち上がり、一歩を踏み出す彼女らの言葉は
いまも心に響く、金言に満ちていて、
人を説得する「説得術」としても見習えるものがあると感じました。

そして
ケビン・コスナーは最近の良作映画のキモですよ。


ちなみに。
計算の天才を演じるオクタヴィア・スペンサーは
来月公開の超おすすめ映画
「ギフテッド」(11/23公開)
数学の天才少女を見守る隣人役でも登場してます。

このリンク、
うん!いいね!と思いました。


★9/29 (金)から全国で公開。

「ドリーム」公式サイト
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プラネタリウム

2017-09-20 23:45:45 | は行

この美しき姉妹を観るだけで満足……?!(笑)


「プラネタリウム」69点★★★☆


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1930年代。

アメリカ人のローラ(ナタリー・ポートマン)と
妹のケイト(リリー=ローズ・デップ)は

死者を呼び寄せる降霊術を披露する
人気の美人姉妹。

パリで公演を行っていた姉妹は
フランス人の映画プロデューサーで
お金持ちのコルベン(エマニュエル・サランジュ)の目に止まる。

「新しいフランス映画を作る!」という
夢を持っていた彼は

姉妹を屋敷に泊まらせ、
ケイトが呼び寄せた霊をフィルムに写して
世界初の映画を作ろうとするが――?!


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ナタリー・ポートマン×ジョニデの娘リリー=ローズ・デップが
1930年代のパリで活躍する霊媒師の姉妹に扮するお話。


ナタポーとリリー=ローズが
クスクスと頬を寄せ合い、戯れるだけで
まあドキドキと絵になること極まりなく(笑)

それだけで価値ある映画ですが

印象としては
なんとも風変わりな作品でした。


演出も独特だし
「結局、本当に妹には霊力があったのか?」といった
その核心や答えはなく、霞がかっている。

それでも、見終わって洞察するのが
なかなかおもしろかったですね。


本当に妹に“それ”があったのか?の答えは
ワシは「Yes」だと思うけど

それよりも結局この話は
セクシュアリティや生い立ちを隠してきた中年男の
自分探しの物語なんですよね。


その男とは
姉妹を盛り立てようとする
映画プロデューサー、コルベン氏のこと。


自分の潜在意識を
おそらく無意識のうちに打ち消してきた彼は
ケイトの何かしらの波長に反応して
自分の内的欲望と向き合うことになった。

しかも彼は、自分がユダヤ系だということからも目を背けていたわけで。

そうやって、ずっと自分を欺いていた男が
特殊な姉妹を触媒に、改めて自分を知ろうとした。
そういう話なのかなあと。


彼がそうせずにいられなかった
不穏な時代背景を考えると
つらく、切ないものがありました。


レベッカ・ズロトヴスキ監督のインタビューによると
この話は、実際に19世紀末に活躍していた
スピリチュアリストの三姉妹がモデルで

実際に、ある裕福な男が
姉妹の一人を雇った――という実話にインスパイアされたそう。

さらに1930年代ごろに
ユダヤ人排斥運動の犠牲になった
実在の映画プロデューサーの事件も絡めているそうで

虚実入り交じったような
霞のような味わいの理由は
そのへんにあるのかもですね。


★9/23(土)から新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「プラネタリウム」公式サイト
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