ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ポバティー・インク~あなたの寄付の不都合な真実~

2016-07-31 23:45:45 | は行

社会派、二連発。


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映画「ポバディー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~」70点★★★★


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「貧しい人、災害で困っている人を助けたい」という
善意からはじまる寄付や支援。
でも、それって本当に相手のためになってるの――?――という

なかなか強烈な問題提起を
わかりやすく伝えるドキュメンタリーです。{

この問題に精通し、活動もしている監督が
ハイチ、ルワンダ、ガーナなど各地で
当事者たちの声をたくさん取材しています。


タイトルの
ポバティー=poverty=貧乏、貧困。
インク=Incorporated(インコーポレーテッド)=企業。
つまり、
国や巨大NGOがやっている支援が「押しつけビジネス」になってる、
という指摘でもある。


例えば、
2010年に大規模な地震が起こったハイチ。
地震発生後、チャリティーとして
太陽光パネルがタダで送られてきた。

確かに電気が作れるし、ありがたいけど
ん?ちょっと待って?

地元で、太陽光パネルを開発し、
起業して、がんばっていた若者は、打撃を受けるわけです。
だって、タダでもらえるものに、誰もお金を払わないじゃん?

それに食糧支援として
タダでお米をくれ続けているけど、
それじゃ、現地の農家はどうなる?



もちろん、これは
「善意」を、否定するものではない。

でもその善意が
違う意図で使われている、ということがわかって
「ハッ!」とするんです。


現地の人々は
「施しは必要ない、仕事がほしいのだ」と言うんです。

でも、強国は、寄付や支援という名目で物を贈り、
その実、彼らを「市場に参加させたくない」という心理が働いていることがわかるんですね・・・。

「うわっ、えげつな!」って思いますけど
現地の知識人たちの生の声から
そのリアルな事情がわかります。

なかには
誰もが知ってる、活動熱心な欧米セレブの支援を
バッサリ斬り捨てる人もいて
ハラハラするんですが(苦笑)

彼らはみな一様に、
冷静に、理知的に、優しく説く。

「助けたければ、そこに住んで、
何が必要か、経験してみてくださいよ」と。


そう、これってアフリカまで行かずとも、
我々に身近な被災地支援にも、
同じことが言えると思うんです。


だから、すごく身近でもあり
おもしろかった。


真に良き行いをするためには、どうすればいいのか?を考えさせるし

そう思うと
日本では東日本大震災でも、熊本の震災でも
地域の「産業復興」を提案して
それを大きなうねりにしている人たちが、個人レベルでもいるもんね。

なかなかすごいなニッポン!、って
思いました。


★8/6(土)から渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実」公式サイト
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ニュースの真相

2016-07-30 16:37:47 | な行


「スポットライト 世紀のスクープ」とはまた違った
ジャーナリズムに関する衝撃ストーリー。


「ニュースの真相」75点★★★★


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2004年4月。

CBSニュースの敏腕プロデューサー、メアリー(ケイト・ブランシェット)は
イラクのアブグレイブ刑務所での虐待事件を
「60ミニッツⅡ」でスクープし、

ベテランのアンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)と
祝杯をあげていた。

そして
彼女は、すぐに次のテーマに取りかかる。

それは、現職大統領のジョージ・W・ブッシュが
かつてコネを使って
ベトナム戦争への派兵を逃れたのではないか?、という
軍歴詐称の疑惑だった。

だが、当時の関係者たちは一応に口をつぐむ。

そんななか、メアリーたちは
重要な資料を持つ、ある人物を見つけるのだが――?!


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2004年に起きた実話の映画化です。

大統領戦の行方を左右したかもしれない
あるスクープをめぐる
ジャーナリストたちの話。


「スポットライト」は地方新聞社の地味な部署が、
地道な取材と、ハラハラのせめぎ合いで
ホームランをかっ飛ばす!という展開だったけれど

こちらは
CBSニュースという大舞台で
経験もキャリアも十分な人々が主人公。

しかし、そんな彼らが経験する
「つまづき」の恐ろしさを描いていて
またハラハラなんですよ。



報道や、スクープにつきまとう
「ガセ」「ねつ造」「誤報」といった危険。

それを見抜けなかったことで
それまで築いたキャリアも、信頼も、
人生もすべてを失いかねない。


ニュースやジャーナリズムの世界には、
常にこうした
ヒリヒリするような緊張感があるのだと
改めて、怖いと思った。


そして、一度つまづくと
「問題の本質」から目はそらされ
「誰が責任を取るか」や、
失敗をした個人が徹底的に叩かれる。

さらに
報道する側もまた一企業であり、
政治や金に左右され、口をつぐみかねない恐ろしさ・・・。


でも、そのなかで
責任を一手に引き受けるケイト・ブランシェットと、
ダン・ラザー役のロバート・レッドフォードの絆や
彼女の下で働く調査員や記者の奮闘が光る。


そして、ジャーナリストだって人間。
思い込みや、勇み足による、判断の間違いだってあるんです、と
誠実に描かれているなと思いました。



権力に臆することなく、
つまづきに、いつまでも引っ張られるだけでなく

戦っている人々がいまもいる。――と、信じたい。
そう強く思った次第です。


正義が勝ってスカッとする・・・、とはいかないけど
これは重要な問いかけだと思います。

しかし
ケイト・ブランシェットの
クライマックスの反撃はマジかっこよすぎ。


★8/5(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

「ニュースの真相」公式サイト
コメント (2)
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めぐりあう日

2016-07-27 23:41:07 | ま行

「冬の小鳥」から6年。
ウニー・ルコント監督の新作です。


「めぐりあう日」76点★★★★


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パリに暮らす理学療法士のエリザ(セリーヌ・サレット)は
30年前に自分を生んだ母親を探している。

しかし、フランスの「匿名出産」という制度に阻まれ、
なかなか実母にたどり着くことができない。

エリザはついに8歳の息子(エリエス・アギス)を連れて、
実母が住むだろうと思われる街に
引っ越してくる。

その街で働き出したエリザは
ひとりの中年女性を治療することになるのだが――?


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韓国からフランスに養子となって渡った
過去を持つウニー・ルコント監督。

前作「冬の小鳥」(いい映画!)で
自身の体験をモデルに
父親に捨てられた9歳の少女の心を繊細に描いて
世界に衝撃を与えたわけですが

今回は、養子として育った30歳の女性が
実母を探す・・・という物語。

いやあ、この人は本当に
自分のルーツにとらわれているんだなあ・・・
まずはその思いの強さを、ずしんと受け止めずにはいられなかった。

しかし前作同様、本作も
単なる「自分の昔語り」なんかには収まらない。


冷静と叙情を両立させながら、
やさしく美しい映像で、
登場人物の心を、観客にリンクさせてくれるんです。


名乗り出ない実母を探す主人公エリザは、8歳の息子を連れて、
実母が住むと思われる街に引っ越してくる。

そこで、エリザと実母はお互いに知らぬまま
すれ違い、やがて出会っていく。

観客はそんな運命のいたずらを
ハラハラしながら見守ることになるんですね。

このめぐり合わせの綾が、まあ絶妙で
ぐいぐい引き込まれます。

物語の大きな鍵となる
息子ノエの存在もいい。


しかし見終わってやはり
そこまで主人公を、いや監督を、
こだわらせる「実の親」とは何なのだろう――
考えずにはいられないのですが

幸運にも
ルコント監督にインタビューをすることができ、
そこのところ、じっくり伺うことができたので
ぜひ、映画と併せて読んでみてくださいませ。

カタログハウスさんの
『通販生活』ウェブサイトの「今週の読み物」です。


★7/30(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「めぐりあう日」公式サイト
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あなた、その川を渡らないで

2016-07-26 23:55:31 | あ行

98歳の夫と89歳の妻の
たしかな、愛ある暮らし。

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「あなた、その川を渡らないで」67点★★★☆


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韓国の小さな村に暮らす
老夫婦の15ヶ月間を追ったドキュメンタリー。

ウソのように仲のいい夫婦の愛の形は
ほとんどファンタジーのようです。

おじいちゃんは、なにかとおばあちゃんにちょっかいを出し、
ときには集めた落ち葉を投げ合い、
雪を投げ合い、じゃれあう。

常にお揃いの服を着て、
どこに行くにも一緒。

そんな日々の暮らしぶりが
本当にほほえましい。


二人はまるで動物のつがいのようで
その愛が純粋なことは、よく伝わります。

お正月や誕生日に大勢の子どもや孫たちに囲まれる様子も
いいなと、思う。


でもね、当然ながら
だんだん、おじいさんは弱っていくんです。

そして、ついにそのときがきて
映画もそこでおしまい、という点が
ワシには引っかかってしまった。

このあと、どうなるんだ?
それこそが、ドキュメンタリーなのではないか?ってね。


そもそも監督は、
なぜこの二人を選んだのか。

プレス資料のインタビューによると
このおじいちゃんとおばあちゃんは
もともと韓国国営放送(KBS)の
ドキュメンタリー番組で紹介された夫婦で

1970年生まれの監督は
もっと彼らを知りたいと、1年以上の密着をしたそうです。

監督が彼らに惹かれた気持ちはわかる。
でも、やっぱり
映画としての「ストーリー」はあらかじめ予測してたのでは?と
思ってしまうワシは純粋でないのかもしれない。

「ふたりの桃源郷」のような
「これを撮る意味」は
ちょっと伝わりにくいかなあと感じてしまいました。

それにしても
最近、こうした“老境をゆく”ドキュメンタリーが
本当に増えていますねえ。


★7/30(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。


「あなた、その川を渡らないで」公式サイト
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ラサへの歩き方~祈りの2400Km

2016-07-23 14:35:14 | あ行


椎名誠さんや渡辺一枝さんの本で読んでいた
チベット人の暮らしが、たっぷりと。



「ラサへの歩き方~祈りの2400km」70点★★★☆


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チベットの村に暮らすニマは、
叔父の願いである
聖地ラサへの巡礼を決意する。

すると、隣家の身重の妻やその夫、その妹も
加わることになり、

さらに
家畜の解体をしているワンドゥも
「たくさんの命を殺めてきた罪滅ぼしをしたい」
参加することになった。

総勢11人が、ラサまでの道のりを
体を大地に投げ出す“五体投地”という過酷な方法で
ゆっくり、ゆっくり進んでいく――。


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「胡同のひまわり」のチャン・ヤン監督作品。


ドキュメンタリーなのかなあと思って見ていたら、
フィクションでした。

でも
出演者たちは本物で、その暮らしぶりは本物なので
おもしろい。

中国映画なんだ、と意外に思ったけど
まったく政治の話とか出てこないし、
映画はとてもシンプルに、彼らの旅の日々を映し出します。


“五体投地”は全身を地面に投げ伏せて祈る方法で
かなり過酷ですが

黙々と一行は進み、
途中でテントを組み、火を囲んで食事をし、
繕い物などをしておしゃべりをし、お祈りをして寝る。
そして、朝になるとまた五体投地。

そんな日々のなかに
彼らの高い精神性を見る思いがしてきます。


途中で、旅に欠かせないトラクターが
別の車に壊される事故が起こるんですが
ニマたちは相手の事情を聞いて「いいから、行きなさい」と言う。

彼らは荷車を
自分たちで押して動かさなくてはならなくなり、
しばらく押していくと、最初の地点に戻って、
五体投地をやり直すんです。

でも文句も言わないし、
ズルなど、あり得ない。

この清らかさ、誠実さ。

この大変な道のりは
自分のためじゃなく、みんなのことを願ってこそ。
その次に自分、という心の美しさ。

そのことが結局、自分を浄化する。

そんな道のりなんだなあと思いました。


ちなみに、五体投地では
1日10km進むのが普通だそう。
というと、ラサまで1200kmに半年ほど、
さらに目指すカイラス山までだと、やはり1年がかりですね。

・・・。


★7/23(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ラサへの歩き方~祈りの2400km」公式サイト
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