ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

2010-03-30 14:24:56 | た行
基本、バイオレンスものは苦手なので

そこから“キラリ光る”の匂いをかぎ分けて
こういうノワールものに出会えると
とてもウレシイ。


「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」73点★★★

マカオに暮らす娘と孫を
何者かに皆殺しにされた
フランス人のコステロ(ジョニー・アリディ)が

復讐のためマカオに行き
そこで3人の殺し屋たちを雇う・・・という話。


単なるドンパチでなく
かといって人情ドラマに走るわけでもない


そして作り手とそれを具現化する主人公が
“暴力”について自分なりの信念と
なにより“美学”を持っている。

これが優秀なノワール映画
(ノワール=フランス語で黒。転じて「闇社会」や「犯罪映画」の意味)
の掟かと思います。

そこがうまいのは
やはりフランスと香港でしょうか。


本作は
「エグザイル/絆」をヒットさせた
香港のジョニー・トー監督と

「列車に乗った男」主演のジョニー・アリディが
タッグを組んだ作品。


フランスと香港の役者を使って
英語で撮られていて
まさに

フレンチノワールと香港ノワールの
成熟が結合した感じがいたしました。


諸処に「おっ」という驚きがあり
きちんと伏線もある。

怒りに慟哭する主人公が
孫の写真に「復讐!」と書き殴るシーンとか
「ダサい演出・・・」と思わせておいて
実はあとで効いてきたり。

香港の3人組殺し屋も
説明なくしてキャラが立っている。

そして
月明かりを効果的に使った銃撃シーン、
どしゃぶりの雨のなかの逃走シーン、
どれも知恵を絞った演出が非凡です。


ただ、もしかしたら
このモチーフ自体はどこかで見たことがあるかも・・・
という思いも頭をよぎった。

正直、番長この系統は
あまり詳しくないので
エラそうなことは言えません。

でも、よかったですよ。


★5/15から新宿武蔵野館ほか、全国で公開。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」公式サイト
コメント (3)
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運命のボタン

2010-03-28 18:58:25 | あ行
起承転結の「起」だけで
破綻していくSFを見るほど
つらいものはない・・・


「運命のボタン」41点★


1976年、米ヴァージニア州に住む
ノーマ(キャメロン・ディアス)のもとに
奇妙な赤いボタンのついた箱が送られてくる。

それはなんと「運命のBOX」。

「ボタンを押すと
あなたは現金100万ドル(約1億円)を
手にすることができる

「ただし、世界のどこかで
あなたの知らない“誰か”が死ぬ
というものだった。

家計に苦しむノーマはボタンを押すのか?

そしてもし、あなたなら
さあ、どうする??


なんだか「デス・ノート」みたいな話ですが
掴みはすごくおもしろい。


それもそのはず
原作は「アイ・アム・レジェンド」の原作者でもあり
あのレイ・ブラッドベリに
「20世紀で最も重要な作家の一人」と言わせた
リチャード・マシスン。

ただし
原作は謎が残されたままで

それを35歳の監督が
自分なりの結末や謎解きを加えて映画化した・・・
というワケなんですが

それが
あまりにもおそまつ・・・


ボタンを前にした人間の葛藤はおもしろいけど
その後に
火星探査やら、妻ノーマの過去の秘密など
いろんな“ありもの”パーツを散りばめ

あげく
「どこへ行くんだこの話?」・・・となってしまう。

プールのシーンとか、CGも
なんとなく「スピーシーズ 種の起源」(95年)を思い出させ
(たしかこんな場面があったハズ・・・)
ちょいB級テイストだしなあ。


キャメロン・ディアスで釣り、
意味ありげに煽った分
罪は重いぞー。


で、もしウチに箱がきたらって?
・・・いや、押さないでしょう。面倒はごめんですー


★5/8からTOHOシネマズみゆき座ほか全国で公開。

「運命のボタン」公式サイト
コメント (7)
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クレイジー・ハート

2010-03-26 02:27:54 | か行
ようやく見たぞー
今年のアカデミー賞主演男優賞作品

「クレイジー・ハート」68点★★☆


オスカー受賞のジェフ・ブリッジス
確かに歌、うまっ!


彼が演じるのは
かつての人気カントリー歌手。

しかし57歳になった彼は
地方のうらぶれたステージを
ドサ回りする日々で

に溺れ、ステージはグダグダ。


そんな彼がサンタフェで
地元紙の記者ジーン(マギー・ギレンホール)に出会い
久しく忘れていた“愛”
目覚めていくが・・・という話。



ジェフ・ブリッジス、
歌だけでなく
しゃがれて、潰れて、枯れかけた
オヤジの色気をムンムン出してます。


まあサブキャラのコリン・ファレルも
歌、うまっ!
びっくりしましたけどね。


しかしですね~
どうも“映画”として心に響いてこんのです。


ストーリーもエピソードも
なんかどれもが
「見たことある感じ」で新味がない。

なおかつ
いいことも悪いことも
どうもトントン拍子に進みすぎる。


過去の栄光を背負ったうらぶれ中年男

運命の女性と出会う

無理がたたって病気

実の子どもにン十年ぶりに連絡


・・・などなど
ほらアイテムのひとつひとつが
いちいち定石なんですよ。


これじゃまるでミッキー・ロークの「レスラー」と
同じじゃないですか。

それならミッキー・ロークの
くたびれ加減のほうがホンモノだったよー

あーこれなら
返す返すも彼に去年のオスカーを
あげて欲しかったなあ。←しつこい。


しかしながら
これが高評価、となると

言っちゃなんですが
どうもアメリカ人の心のひだは
日本人より幅広~くできてんじゃないかと
思わざるを得ないです。


「幸福の黄色いハンカチ」
「イエローハンカチーフ」みたいなね。

まあカントリーはアメリカ人の心の演歌っていうし
日本人にはわかりにくい感覚が
あるのかもしれませんね。

ともかく歌は聞き応えあり、です。


★6月からTOHOシネマズシャンテほかで公開。

「クレイジー・ハート」公式サイト(まだ英語版です)
コメント (2)
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鉄男 THE BULLET MAN

2010-03-24 01:00:27 | た行
日本映画、続いてます。

「鉄男 THE BULLET MAN」55点★☆


「鉄男」(1989年)は
体が“鉄”に侵食されていく男を描いた
塚本晋也監督の超名作

それを監督本人
ハリウッドで全編英語&新ストーリーで
作り直した作品です。


主人公は
東京で働くアメリカ人男性アンソニー。

彼はある日、最愛の息子を
目の前でひき殺されてしまう。

しかし
それには解剖学者だった父の
“ある研究”が関係していた・・・
と、元ネタに新たなストーリーが
肉付けがされてます。


が、もうとにかく
オリジナルに尋常じゃないほど
多大な影響を受けた身としては
懐かしさ半分、やっぱり
「なぜ、やる?・・・」が半分でしたね。


金属が奏でる耳障りな音楽や
写真の超高速コマ取り

画面を揺らす手法など
技法はオリジナルを踏襲したものも多く

スピード感や前衛っぽさも
当時の衝撃を再現している気もする・・・
するけど、
あくまで再現、という範囲。


オリジナルよりヒューマンに
わかりやすさに傾いている点も
好みでないし。

それにいくら昔のまんまといっても
監督、今回はこんなに
出なくてもよかったんじゃ・・・?(笑)


まあハリウッドで「鉄男」は
「ゴジラ」と同じくらいメジャーっていうのは
あながち大げさではないでしょう。
特に日本オタクには。

タランティーノも企画段階で製作に
名乗りをあげていたというし

そのくらい
スゴイ映画なんです「鉄男」。


だから、やっぱり
「なぜ、いま、これ?」・・・


廃墟と鉄が最高にクールだった
サイバーパンクという時代があったんだよ、と

いつか子どもたちに教えてあげたい・・・気もするけど
やっぱ教えてやんな~い。


★5月、渋谷シネマライズで公開。

「鉄男 THE BULLET MAN」公式サイト
コメント (4)
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孤高のメス

2010-03-22 03:51:55 | か行
連休はマンガ漬け。
「モテキ」超おもしろいね!

で、こちらはものすごーく生真面目な
医療ドラマでした。


「孤高のメス」57点★★


「ただ患者の命をつなぎたい」という
単純にして崇高な使命感を持つ
すご腕の外科医・当麻(とうま、と読む。堤真一)
田舎の病院に赴任して

やる気のなかった看護師(夏川結衣)や
周囲の人々を開眼させていく・・・という
ドラマです。


現職医師が書いたベストセラー小説の映画化だそうで
とにかく非常に実直。

当然、臓器も手術過程も
キッチリ全部見せ。


この一本筋の通った感じ悪くないと思います。


主演の堤真一も
患者と手術のこと以外は
うっすらボケ、くらいの
訥々とした好人物を的確に演じています。

彼がいう
「外科医なんてカッコよくもなんともない」

「手術とは編み物をひと目ずつ、地道に根気よく
編んでいくような作業なんだ」

というセリフが丹念な演出により
本当に言葉どおりに感じられる。

「孤高」の真の意味を2時間かけて
じっくり理解しました。


ただ
悪徳医師がいかにもなワルだったり
ストーリーが都合よすぎたり
やや勧善懲悪に
偏りがちな点が不満。


また
設定が1989年、というせいも
あるのかもしれませんが

もう「とにかく延命!」という
時代でもない気がするんですよね。

番長自身も、そう思ってないし。


目の前の患者の命を救うことは
本当に大事だろうし
医師のまっとうな使命感だとは思うけど

「とにかく救う!」の
直球勝負だけだと
ちょっと共感しにくいのかもしれません。

なんにせよ
考えさせる映画ではあります。

それに
夏川結衣さんってイイよねえ。

嫌いな人、いないんじゃないですかね。

★6/5から全国で公開。

「孤高のメス」公式サイト
コメント (4)
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