ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ジャックとジル

2012-01-16 21:26:48 | さ行

ん?これなんでワースト映画なの?

「ジャックとジル」70点★★★☆


アダム・サンドラ―が双子の兄妹を
一人二役で演じるコメディです。


LAに暮らす広告マンのジャック(アダム・サンドラ―)は
仕事でも成功し、

美しい妻(ケイティ・ホームズ)と二人の子どもに囲まれ
幸せな暮らしを送っていた。

そんな彼のもとに
感謝祭の休日を過ごすため、
彼の双子の妹ジル(アダム・サンドラ―の二役)がやってくる。

この妹、悪いヤツではないのだが
空気が読めず、常にハイテンション。

そしてトラブル・メーカーでもあった。

今年もさっそく何かが起こりそうな予感が――?!


米タイム誌が選ぶ
2011年ワースト映画の1位だったこの作品。

しかし、観たら
いや?全然、まともで面白かったですよ?

アダム・サンドラーの映画のなかでも
上のレベルだと思う。

まず冒頭に登場する、
一般人の双子たちによる
「双子ぶっちゃけトーク」が可笑しいし、

こういう取材をして
双子の「何が面白く、何がコメディになるのか」を
ちゃんと考えて作ったのだろうな、と。

そして
妹役ジルのキャラがしっかり作られてもいるので
けっこうヒューマンなコメディにもなってる。

ジルはオーバー40で独身で
“イタい”暴走キャラ設定だけど憎めないし、

裏表のなさやその素直さで
ジャックの子どもたちに人気があったりして
わかる、わかる。

また演じるサンドラーが
自然すぎて、マジに女性にみえるのがスゴイ。

子役の使い方もうまかった。

まあ、まったく下品でないとは言わないけど(笑)
他国人にもウケるように
うまく作ってあると思います。

それに、なんとあのアル・パチーノが
本人としてバリバリ出演してるんですよ。
しかもかなり振り切れたキャラで(笑)。

これ、よく承諾したなあ、カッコイイなあと思いました。


ていうか、観ながら
もしかして、彼の扱いがワーストの理由なのか?
とか思ってしまった(苦笑)

でも実際には
ジルの女性像があまりにもひどいっていうのが、理由らしいんですよね。
もしかして、イタさがリアル過ぎたのかな。

ほか、
かなり豪華なカメオ出演もあり、
予想以上に、楽しめると思います。

★1/21(土)から全国で公開。

「ジャックとジル」公式サイト
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ALWAYS 三丁目の夕日’64

2012-01-15 23:15:11 | あ行

これさー
元旦公開にすれば
ファミリーみんなで観に行けてよかったのに。

「ALWAYS 三丁目の夕日'64」3D版 70点★★★☆


2005年に1作目、2007年に2作目と
いずれもヒットした人気シリーズ、5年ぶりの3作目です。

舞台は昭和39年(1964年)の東京。

東京オリンピックが開催されるこの年、
街は熱気と活気に満ちあふれていた。

茶川(吉岡秀隆)はヒロミ(小雪)と結婚し、
淳之介(須賀健太)は高校生に。

だが茶川は新人小説家の人気に押され、
毎度のスランプに陥っていた。

お向かいの鈴木オートの鈴木(堤真一)と
妻トモエ(薬師丸ひろ子)一家の暮らしは順調だ。

そんななかお年頃の六子(堀北真希)に
恋の予感が――?!


茶川の芥川賞騒動しか印象に残っていない「2」よりも
話が作りこまれており、
シリーズものとしては上出来の域だと感じました。

六ちゃんの恋に、茶川の父子確執と
各エピソードが描き込まれているし、

さらに堤真一氏がコミカルさを増して
ムードを盛り上げてくれます。


公開前のいま、テレビで「1」から放映中ですが
改めて「1」を見ると
「ほう~」という伏線があったり(笑)。

3Dも最初は
「東京タワーを見るためだけかな……」と思ったけど
見慣れてくると奥行き感があり、
セット自体が一つの楽しみである
三丁目のテーマパーク的世界によく合っている。

ジオラマ見て楽しむような感じでしょうかね。

それに一段と感じるのは“チーム愛”。

ホント笑っちゃうほどに美術が作り込まれていたり、
役者どおしも楽しそうで、微笑ましい。


「淳之介も、もう高校生か~」とか、
こうやってみんなが楽しめる
国民的映画も、いいんじゃない?と。

しかしこのまま続くと
自分の生まれ年が近づいていく感じで
それはそれで、ちょっと怖い……(笑)

★1/21(土)から全国東宝系で公開。

「ALWAYS 三丁目の夕日'64」公式サイト
コメント (4)
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果てなき路

2012-01-13 21:11:55 | は行

映画のなかで映画を作る
「入れ子構造」のスタイルって
大抵はつまんないんですが、

この作品は珍しく成功してました。


「果てなき路」71点★★★☆

タランティーノやヴィンセント・ギャロらが敬愛するという
モンテ・ヘルマン監督、
21年ぶり(!)の新作です。


若きアメリカ人映画監督(タイ・ルニャン)は
実際に起こったある事件をもとに、
映画を作ることになる。

主演女優を探していた彼は、
役にピッタリな女優ローレル(シャニン・ソサモン)に出会い、
運命的に恋に落ちる。

彼女と愛を育みながら、
順調に撮影を進める監督だったが

しかしローレルは役柄同様に、
謎を秘めた女性だった――。


すごく不思議なリズムのある映画で
まず冒頭で延々と長回しがあり、

退屈しかけたところで
バーン!と意表をつかれ、

なんともいえない緩急に
ズルズルと引きこまれました。


現実の事件、映画の中での事件、そして現実進行形の事件が絡み合う
ミステリアスな話で

でも完全な答えはなく、
次々に謎が膨らみ、後を引くようにできている。

かといって混乱させるだけではなく
ちゃんとオモシロイのがエライ。

事件も愛も、その行為のすべてを見せず、
余韻と緊張を最高潮に高めていくんですねえ。

色調にちょっと「ツインピークス」を感じたんですが、
ラストまできて
あら?意外にハズレてないかも?!なーんて。


モンテ・ヘルマン監督は
1971年に撮った「断絶」が興行的に失敗し、
その後は編集やプロデューサー業をしていたそう。

そんな監督自身を投影したような人物を主人公にし、
キャスティングや予算など
映画作りのノウハウが見られるのも興味深い。

特に主人公がキャスティング中に
ハリウッドの超大物俳優を
品定めするシーンに笑っちゃいました。

一見ツウ好みな映画にみえるのに
意外に普通に楽しめること、

さらに観た後
「あれって、こういうことだよね?」という
確認作業的会話が
楽しめるのがポイントですね。

★1/14(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムで公開。

「果てなき路」公式サイト

「断絶」ニュープリント版も同時に公開されるので、ぜひ☆
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デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-

2012-01-12 23:39:16 | た行

おもしろそうなネタじゃん!って
期待したんですけどねえ。

「デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-」46点★★☆

フセインの長男の影武者(ダブル)だった
実在の人物の手記を基にした作品です。


1980年代後半のイラク。

イラク軍中尉のラティフ(ドミニク・クーパー)は、
突然、前線から呼び戻される。

彼を呼んだのは
大統領フセインの長男、ウダイ(ドミニク・クーパーの二役)。

ウダイは自分と顔がそっくりなラティフに
影武者になれというのだ。

無理矢理、影武者にさせられたラティフは
暴力とセックスに明け暮れる“狂気のプリンス”の姿を
間近に見ることになる。

そんななか、ラティフは
ウダイのお気に入りの美女(リュディヴィーヌ・サニエ)と出会うが――?!


フセインの息子の影武者?!

もし、こんなネタ
週刊誌に売り込まれたら
「おもしろそうじゃん!」と間違いなく
自分、食いつくだろうなと(笑)

なもんで、期待したんですが


うーん残念ながら
期待ほどじゃなかった。

ニュース映像から始まる冒頭からして
なんーか普通というか、
期待がしぼんでいく感がしたんだよなあ。


なによりかにより
内部に潜入し「すべてをミタ!」ってのが
この影武者さんの売りなわけですが、

ミタ中身というのが
父親ももて余すほど“ヤバい長男”が

どんなに贅沢三昧で
セックスとクスリまみれの狂乱の日々を送っていたか、というだけで
あとはこれといって話すネタもないって感じ。


結局、長男本人が
政治などに関われるレベルの人じゃなかったので、
話の中身が薄いんですよ。

実際、フセインはウダイよりも
弟のクサイを後継者に考えていたわけで、
ニュースなどでもクサイの知名度のほうが高いですもんね。

かといって、じゃあどんなもんだ、という
残酷描写もさほどではなく
さらにエロ描写も期待ハズレ。←これが一番ガッカリ要素か?!

ただ、見る前は
「影武者の映画で一人二役じゃつまらないじゃん?」
と、思ってたんですが
ドミニク・クーパーがかなり微妙な違いを演じわけてて、上手かったですね。

二役ということを、フッと忘れるほどでした。

しかし、正直なところ
サニエが出る映画は最近ハズレが多い……。

けっこう好きなタイプなんで
単に脱ぎっぷりいいだけの印象にならないでね、と
願っております。

あ、ちなみに実在の影武者の写真は、こんな感じ。

似てる……か?(笑)

★1/13(金)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国で公開。

「デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-」公式サイト
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ヒミズ

2012-01-10 23:12:06 | は行

前作「恋の罪」も
うーんと困ったけど、
これまた輪をかけて、うーん……。

「ヒミズ」50点★★☆

ちなみに原作マンガは未読であります。


主人公の住田(染谷将太)は
ビミョーに大人びた中3男子。

父と母に見捨てられ、
実家の貸しボート屋を、ほぼ一人で仕切っている。

ボート屋には
震災で家をなくした男(吹越満)たちが集い、

彼らには
「スミダさん」「スミダさん」と慕われ、
なにかと頼りにもされていた。

同級生の茶沢(二階堂ふみ)は、
そんな住田に恋をしていた。

そんなある日。
父親の借金を取り立てに
ボート屋にガラの悪い男(でんでん)たちがやってくる。

その後、現れた父親に、
ついに住田はブチ切れてしまい――?!


古谷実の原作マンガを
園子温監督が実写化。

現代の閉塞を生きる若者の
絶望と衝動を描いており、

監督らしいというか、
青春バイオレンス・オペレッタという感じ。

前作「恋の罪」と同じく
詩の朗読や、言葉の繰り返しが多様され、

染谷氏と、二階堂氏の絶叫のやりとりや、
ぶつかり合いをほとばしるままに
見せられた、という。

ある程度の衝撃はあるけれど、
ストーリーや感情を丁寧に追うタイプではないし、

好みは分かれるかもなあ。


というか、まったくもって
もう
観客との対話なんて望んでいない、という体なんで(笑)。


しかし
撮影準備中に「震災」が起き、
急きょ舞台を“震災後”にしたという
そのへんのフットワークはすごい。

生々しい震災後の風景が、
初めて“劇映画”の舞台として
スクリーンに映し出された衝撃は大きかった。


また
普通はみなが決して口にしない本音が
ボロンと言葉にされて出てきて、
観る人の心にトゲを刺すんですねえ。

「それ、言ったらダメでしょ」という
本音を息子にいう父親。

ささいなことにカッとなりナイフを取り出す若者。

「壊れた世界」は、舞台と相まって
救いようなくリアル。


ただ、番長的には
もっと日常的な
“閉塞”とか”恐怖”とかに肉薄できる
要素が満載に見えるのに、

出てくるのが
借金取りとか、ヤクザもんとか、
ありきたりなバイオレンス要素っていうのが
もっとも残念だったところでした。

ともあれ
若い主演二人の熱演には、拍手!でした。


★1/14(土)から新宿バルト9、シネクイントほか全国で公開。

「ヒミズ」公式サイト
コメント (2)
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