英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

ピョンチャン五輪雑感 その2「競技成立への疑問・スピードスケート1000m」

2018-02-28 22:32:39 | スポーツ
 スピードスケートは、文字通りの速度感、コーナーワーク、持久力など魅力的要素が多く、エキサイティングな競技である。特に500mにおいては、スタートダッシュ、スピードと遠心力を制御する高度なコーナーワーク、最後の直線では筋持久力を極限まで絞り切るなど、40秒弱の中にさまざまな要素が集約される。
 また、腰をかがめ、足を外に向けて動かす運動パターンは人間本来の動きに比べて、“特異”な動作と言っていいだろう。想像であるが、「有酸素運動・無酸素運動」の括りで言うと、500mは陸上競技の200m~400m走、1000mは600~800m走に相当するのではないだろうか。

 そして、もう一つの著しい特徴として、≪インコース・アウトコースの2レーン使用の「ダブルトラック」方式のタイムレースである≫ということ。
 ウインタースポーツはタイムレース形式が多いが、ノルディック競技やスノーボードやフリースタイルスキーなどはマススタート方式(一斉スタート)が取り入れられている(ノルディックはタイムレースと混在)。しかし、スピードスケートは2人の競技者が同走するという点で、一般のタイムレースとも趣きを異にしている。

 そんなエキサイティングな競技であるが、この「ダブルトラック」方式がレースの公平性に大きく関わっている
 その問題の事例として、≪イン・アウト各1回の2回滑るというレース形式で行われていた≫がある。500mではスピードが乗っている最終コーナーが緩やかなカーブになるイン・スタートの方が有利だとされ、公平性を保つためイン・アウトスタートの2回合計で競うことになった。
 確かに2回レース方式に変更された頃は、インスタートの方が記録が速かった。2回レース方式が行われた五輪でも各選手の記録を検証すると、インスタート方が記録が良かった。

 この2回レース形式には1998年長野五輪から変更されたが、2017年に国際スケート連盟はピョンチャン五輪では従来の1回方式で行うと決定した。スケート靴の進歩やコーナリング技術の進化、更にバックストレートでインスタートの選手を後ろから追え、心理的効果と風の抵抗の軽減という利点も生かされ、現在ではインスタートもアウトスタートの差がなくなってきたという現状を考慮しての決定だった。


 しかし、1000mに於いては、その公平性に疑問があるようである。
 その理由として
・アウトスタートは、スタート地点からコーナーまでの直線部分が短く、充分な加速ができない。
・インスタートは、苦しくなる700~800m付近のバックストレートで前の選手を追える(心理的効果+風よけ)
が主な理由。
 NHK解説者の三宮氏は、「アウトスタートはインスタートに比べて0.3秒のハンデがある」と述べていた。

 えっ!それなら競技としておかしいんじゃないの?
 インスタートの方が0.3秒分有利なんて、競技として成立しないのではないか?



 それが事実か気になったので、男子1000mの後半の9レースを検証してみた。
 検証結果は、インスタート5勝、アウトスタート4勝とほぼ拮抗。
 最初の200mでもインスタートが速かったのは5レース。ちなみに、200m地点でリードしていた選手がすべて同走の選手に先着してゴールしていた。(標本数が少なすぎるので、結論は出せません)

 私見であるが、中距離要素が500mに比べ大きい1000mでは、スタートダッシュはそれほど重要ではない。むしろ、スタートで力を使いすぎると後半失速してしまう。特に、1500mを得意とするタイプなら、スタートでやや抑えた方がレースに適したペース配分に思える。
 選手側もアウトスタートになった場合も想定して、スタートダッシュを押さえ、その分、効率よいカーブワークの熟練を目指すとかの対応策があるはずだ。

 また、本論の考察とはやや離れるが、スピードスケートは組み合わせによる同窓の選手の当たり外れが大きい。同走選手が遅いと、本来バックストレートで目標にすべき位置におらず、既に後ろに居て、利を得ることができない。場合によっては、交錯してしまうことがある。
 さらに、インコースの選手が転倒して、それに巻き込まれてしまう不運に見舞われることさえある。

 それはともかく、三宮氏(他の解説者も述べていた気がする)の言う「アウトコーススタートが不利」が事実なら、競技として成立するかが危ぶまれる大問題であり、迂闊に口にすることではないであろう。
 スケート連盟もしっかり検証する必要がある。
 もし、有利不利があるのなら、「シングルレーンで行う」とか、「2回レース方式にする」とか、「スタート地点とゴール地点をずらす」などの改善策が求められる。
(シングルレーンだと試合時間が長くなり、氷の状態に変化が生じ、公平でなくなる怖れもある。また、2回レース方式だと、日程や体力面に問題が生じそう)


その1「カーリングに関する疑問」
その2「競技成立への疑問・スピードスケート1000m」
その3「競技成立への疑問・スピードスケート マススタート」
その4「競技成立への疑問・ショートトラック」
その5「感動シーン①“メダル獲れて良かったね”」
その6「感動シーン②“格好良すぎるコメント”」
その7「バレリーナと女優」
その8「感動シーン③“ピョンチャン五輪でベストシーン”」

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6 コメント

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2回の合計タイムで… (zoran)
2018-03-03 13:31:19
こんにちは。

昔,1回勝負だった頃,500mでは「イン・スタートが有利」という解説を耳にしました。理由は英さんが書いていらっしゃる通り,スピードに乗った第2カーブではアウトコースの大きいカーブを回る方がスピードを保ったまま回れるからです。今オリンピックのレースを見ても,インコースを回る選手は膨らんでアウトコースまではみ出てしまうことがよくありました。実際はアウト・スタートだとバック・ストレートで前走者を追えるので有利な点もあり,いくらかは相殺されると思いますが,やはり用具の改善と技術の向上がなされた現在でも,私はイン・スタートの方が有利ではないかと思います。
さて,1000mですが,昔は1000mに関しては,スタートコースによる有利不利を耳にした記憶がありません。私の記憶が悪いせいかもしれませんが。私としては,今オリンピックでの解説で初めて耳にした感がありましたので,理由を聞いて「そうなのかぁ。確かになぁ。」って思いました。
結論としては,競技日程の問題を脇に置けば,500mも1000mも2回滑ってタイムの合計で順位を決めるやり方を支持します。理由は2つ。
1つ目は「公平性」です。仮にどっちスタートでもタイムに差がなくなったとしても(実際は1000mでは0.3秒も差があるんでしょう?),選手の気持ちとしてはイン・スタート,アウト・スタートの両方を滑って決着をつける方が結果に納得できるのではないか,と思うこと。
2つ目は,見る側の「わくわく感」です。倍のレースを見られるし,1回目のタイム差を考えながら見ることで2回目は「より」わくわくドキドキできる,ことです。
ちなみに,日程的には,500mは1日2レースで。1000mは2日に分けて,がいいと思います。短距離種目に出場する選手は両方にエントリーすると思いますから,500mと1000mは中1日は空ける方がいいと思います。
長くなってすみません。
返信する
体力的な問題も ()
2018-03-03 16:27:24
zoranさん、こんにちは。

>やはり用具の改善と技術の向上がなされた現在でも,私はイン・スタートの方が有利ではないかと思います。

 検証していないので、きちんとしたことは言えませんが、500mに関しては、以前ほどインアウトの差はないように思います。

>競技日程の問題を脇に置けば,500mも1000mも2回滑ってタイムの合計で順位を決めるやり方を支持します。

 確かに公平性を重視すれば、インアウト1回ずつの2回滑るのが良いと思いますが、体力的にきついような気がします。
 しかし、陸上競技は予選、準決勝、決勝と3レースをこなすので、無理ではないかもしれません(少し前まで2次予選もあった)。
 ただ、小平選手は500m、1000m、1500mの3種目、高木美帆選手は1000m、1500m、3000m、パシュートの4種目などと複数種目に参加するので、できればレース数は少ない方がいいという選手が多い気がします。

 あと「わくわく感」ですが、合計タイムで競う場合、1レース目のタイムが良い選手が2レース目で同走選手に遅れを取っても、優勝するケースが出てきます。
 私は、それでも、構わないし、ドキドキしますが、テレビの画的には歓迎されないような気がします。


 いろいろ難しい要素がありますが とにかく、現状のレース形式で、インスタート、アウトスタートの有利不利をしっかり検証すべきだと思います。
返信する
お久しぶりです。 (かみしろ)
2018-03-13 09:48:24
対角スタートでいいのでは、と思いますが、それだと不都合あるんですかね? 角ではないが。
レースとTTの悪いところ取り状態な気が。

返信する
視覚的に ()
2018-03-13 12:52:25
かみしろさん、こんにちは。お久しぶりです。

 対角スタートだと視覚的に勝敗(形勢)の判断が難しいです。選手の立場でも、自分が把握しにくい同走の選手に負けるのは、納得し難いように思います(前走者(前レース)まではタイムが把握できる)。
 まあ、その後の走者については未知なので、同走者云々の理屈は重要ではないのかもしれませんが。

 とにかく、現状のレース形式が公平かどうかを検証するのが第一だと思います。
返信する
本気で変える気がなさそう。 (かみしろ)
2018-03-16 03:09:40
なんとなくですけど、経緯を見てもあの形式は変えないというのが大前提なのかなと思います。
スキージャンプの風補正もそうですが、本番の結果だけでもあれだけのサンプル数があれば、もっと妥当な補正値は当然算出できる筈です。
ただ、長年向かい風が有利という状況でやってきたので、向かい風と追い風が互角になる状況は心理的に認めがたいのだと思います。
有利な状況でも遠くに飛んだ方が勝ちの方がいい、というのがかなり大きなウェイトを締めているんじゃないかと。
スケートもあの形式をなんとなく変えたくないというのがかなりあるんじゃないかな。
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確かにそうですね ()
2018-03-16 12:52:46
かみしろさん、こんにちは。

 確かに、ジャンプ競技における風補正は適正ではないように思います。

>遠くに飛んだ方が勝ちの方がいい

 その意識がつよいからですか…なるほど。

>スケートもあの形式をなんとなく変えたくないというのがかなりあるんじゃないかな

 そうかもしれませんね。
 とにかくこの記事の主旨は
「まずインアウトスタートの公平性の検証」
「軽々しく競技としての不公平さを公の場で言った三宮氏の責任(不公平と思うのなら、きっちり検証して、連盟(協会)に問題提起すべき」
です。
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