英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020 A級順位戦 羽生九段-糸谷八段 その1

2020-09-04 15:45:35 | 将棋
 う~ん,あそこで考えるのが羽生将棋なのだが……
 ……でも、夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがないんだよなあ……


…………これは「2020王座戦 挑戦者決定トーナメント 羽生九段-飯島七段 その8」の括りの言葉。
 対飯島七段戦、本局の糸谷八段戦に限らず、近年、こう感じることが多々ある………

「2020 A級順位戦 羽生九段-佐藤天九段 その1」の続きを書けないままですが、本局を優先します。私の場合、悔しさが執筆のエネルギーなので、時間の経過とともにエネルギーが減少してしまいます。でも、対佐藤天戦も書きます…たぶん)


 さて、本局の進行は、その飯島戦と同じような経緯で第1図に進んだ(参考:「2020王座戦 挑戦者決定トーナメント 羽生九段-飯島七段 その1」)。

 第1図は先手が▲2四歩と垂らしたところ。この直前の手順は△8六歩(突いたのではなく打った)▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛。後手の飛車の位置は8四だったので、これは純粋に1手パス(手渡し)。さらに、後手玉は4二を経由しての5二に移動しているので、二手損していることになる。
 横歩取り戦の後手番の主張は、先手に横歩を取らす間に手を進め攻撃態勢を整え主導権を握ることにあるが、その主張を手放してしまっている。それにより、先手の利(歩得)が残り、その利を行使したのが図の▲2四歩である。

 この1図から、糸谷八段は、飯島七段と同様に△7五歩と突き捨て▲同歩に△6五桂と跳ねだす。


 第2図での有力手は①▲3三角成と②▲7六飛。(他には▲6六歩も考えられる)
 ①の▲3三角成は、後手からいつでも△7七歩があって一瞬ではあるが▲7七同桂の悪形を強いられる嫌味があるので、その前に角をさばいてしまおうという手で(もちろん、角を手持ちにして攻め筋を増やす意味もある)、第一感の手と言える。ただし、手順に2一の桂を跳ねさせるマイナスもある。
 これに対し、②の▲7六飛は非常に指しづらい手だ。直前に打った2四の歩を△2四飛と払われてしまう手が生じるからだ(しかも、飛車成りを見ての先手)。

 ①は人間の手、②はPCの手と言えよう。
 飯島戦での羽生九段の指し手は①▲3三角成。 
 △3三同桂に▲5六角。桂取りと▲2三歩成を見た角打ちに対し、飯島七段も飛車香両取りの△4四角と打ち返している。

 この後も激しい攻防が続いたが、飯島七段が主導権を握っていた印象がある(参考:「2020王座戦 挑戦者決定トーナメント 羽生九段-飯島七段 その2」)。

 本局、羽生九段は②▲7六飛を選択。以下、△2四飛▲2五歩△5四飛▲6八銀△2八歩▲同金△8八角成▲同金△3三桂▲7七桂△同桂成▲同金△6五桂▲6六金△8四飛と進む。

 角交換の際、8八の閑地に追いやられた金を▲7七桂△同桂成▲同金と手順に活用した羽生九段。さらに、それを逆用し△6五桂と打ち▲6六金と引っ張り出し、△8四飛と空いた8筋をに成り込みを見せる糸谷八段。虚々実々の応酬だ。6六の金が引っ張り出された存在になるか、中央に厚みを加える存在になるかが焦点とありそうだが、羽生九段としては8九の桂を手持ちにできたことはプラス要素と見ることができる。

 第3図での応手が悩ましい。
 『棋譜速報』の解説では「(1)▲8六歩は△8七角の飛車取りがある。8七の地点を守るなら(2)▲7九桂(3)▲8六桂か。
あるいは、思いきって(4)▲6五金と取り、飛車の侵入を許してしまう順もあるかもしれない」。
 『ABEMA』AIは▲7四歩で先手優勢を示していたと記憶している。

 羽生九段の第一感も▲7四歩であろう。本筋の手で《これで勝てるはず》だ。

 以下△8七飛成▲7三歩成は必然だが、この局面は先手にとっては非常に不安を感じる。▲7三歩成は後手陣の急所を突いているという感触はあるが、それ以上に先手玉のひっ迫感が強く感じられる。
 後手の手段は△7七角。先手は▲7二とと銀を取るよりないが、以下△6八角成▲同玉に△7七銀が強烈(に思える)。▲5九玉に△6六銀成(金の補充と先手の飛車の守りの利きをそらす)▲同飛(▲同歩は飛車がタダ)に△7八龍が想定される(生きた心地がしない図)

 図より龍に当てつつ玉の周辺を守る▲6九銀で受かっているように見える。以下△7二龍とと金を払う手なら▲6五飛と桂を取り去れば、後手の攻めは切れ模様となるが、△5七桂成という強烈な手がある。

 △5七桂成に▲7八銀と龍を取るのは△5八金で詰む。また▲4九銀と守備駒を足しても△6八金で詰みなので、▲5七同銀と取るよりないが、△2八龍と金を抜かれてしまう(しかも、次に△6八金の詰めろ)。
 しかし、△2八龍に▲4九銀と打っておけば、不思議と先手玉は生命力があり、こう進めば先手が有望のようだ。


 ただし、上記は変化のほんの一例で、変化図2より△8七飛成▲7三歩成以下の手順後の変化は多岐に亘り、踏み込むのには相当の読みと覚悟がいる。
 △8四飛(第3図)の局面になったのは午後5時22分。羽生九段は熟考に沈む……。

 夕食休憩前の長考……嫌な予感しかしない。  「その2」に続く

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4 コメント

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Unknown (通り菅井)
2020-09-04 19:09:11
記事を書いていただきありがとうございます。
そもそもリアルで将棋ファンの知り合いがいない僕は、
羽生さんの勝ちも負けも英さんと分かち合うぐらいしか、
喜びを高めたり悲しみを供養したりできないので
需要しかありません。

英さんが何度も書いている近年ちらほら見る負けパターンですよね。 羽生さんは悪い勝負をひっくり返すのが得意なだけに、勝ちの一局を取りこぼすのを見ると悲しいです。
返信する
観てました… (zoran)
2020-09-04 21:17:06
英さん、こんばんは。

やっぱり書いてくれましたね。
この将棋、私もABEMAで観ていました。
終盤、AIの評価で羽生さんが80%になり、
勝ったか、と思ったら疑問手から負けました。
心に浮かんだのは、英さんの「夕食休憩を挟んでの
長考はロクなことがないんだよなあ」でした。

とにかく、順位戦は残りを頑張って、
最低、A級にとどまってほしい。
当面の目標は、竜王挑戦です。
頑張れ、羽生さん!
返信する
通り菅井さんへ ()
2020-09-05 09:24:05
通り菅井さん、こんにちは。

>そもそもリアルで将棋ファンの知り合いがいない僕は、羽生さんの勝ちも負けも英さんと分かち合うぐらいしか、喜びを高めたり悲しみを供養したりできない

 最近、羽生ファンは肩身が狭いですね。
 変なことを書いてしまいますが……「通り菅井」というハンドルネームですが、語感的に「通りすがり」を連想します。私見ですが、「通りすがり」というハンドルネームは、《たまたま通りかかった(覗いてみた)訪問者で、《記事に気になることがあるのでコメントした》という方が多いような気がします。もちろん、善意で書き込んでくださる方も多いのですが、時折、そうでない方もいらっしゃいます。
 それと、「菅井」ですが、言わずと知れた「菅井八段」ですよね。菅井八段と言えば、王位戦で羽生九段がひどい目にあったことを強烈に覚えています。
 なので、「通り菅井」というハンドルネームを最初拝見した時には、ドキッとしました。
 ちなみに、菅井八段については、彼が小学校名人で2年連続ベスト4(2年目は準優勝)に入った時からのファンです。

 非常に変なことを書いてしまいましたが、あなたの人となりを信頼してのコメントです(ご容赦していただけるだろうと)。

>英さんが何度も書いている近年ちらほら見る負けパターンですよね。 羽生さんは悪い勝負をひっくり返すのが得意なだけに、勝ちの一局を取りこぼすのを見ると悲しいです。

 そうですね。
 でも、(また菅井八段を引き合いに出してしまいますが)菅井八段に連勝して将棋はとても素晴らしく、羽生九段の棋力はトップクラスだと思います。
 多少残念な敗局が増えていますが、今後の展望は暗くないです。そのあたりのことを、本記事シリーズの最後に書けたらいいなあと思います。
 対菅井戦についても、できれば書きたいです。
返信する
zoranさんへ ()
2020-09-05 09:30:14
zoranさん、こんにちは。

>終盤、AIの評価で羽生さんが80%になり、勝ったか、と思ったら疑問手から負けました。
>心に浮かんだのは、英さんの「夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがないんだよなあ」でした。

 そうなんですよ、夕食挟んでの長考はロクなことがありません。ただ、今回の長考は、考える要素が多いので、仕方がない気がします。
 これまでの夕食付近の長考は、《決め手を見いだせず、あれこれ迷って変な手を指す》というパターンでしたから。と言っても、今回の夕食休憩後の一着も、感覚的には変な手でしたが。

>とにかく、順位戦は残りを頑張って、最低、A級にとどまってほしい。
>当面の目標は、竜王挑戦です。頑張れ、羽生さん!

 同感です。
 特に、竜王戦の挑戦者決定戦は勝ってほしいです。
返信する

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