英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第65期王将戦第2局 その4「名人の飛車」

2016-02-12 21:32:26 | 将棋
第65期王将戦第2局 その1「深謀遠慮の▲1八香」
第65期王将戦第2局 その2「手順前後の周辺」
第65期王将戦第2局 その3「郷田九段、驚愕の辛抱」の続きです。


 第5図の△3一玉はあのあの森下九段に「この手は指せない」と言わしめた驚愕の辛抱。▲3四歩に△2二銀と下がらされるのは相当な屈服。後手を引きながら壁銀になる後手に対し、先手は歩を取りながら3四に歩の拠点を作る。このプラスマイナスはとてつもなく大きいと思える。
 郷田王将がここまでの辛抱したのは、桂得と馬の存在に期待しての事だろう。

 しかし、次の一手が厳しかった。▲9四歩!
 △9四同歩なら▲9二歩△同香▲9三歩が厳しい。6五を攻められると当たりの強い6六から角を打ったのは、このためだったのだ。
 ▲9四歩にかまってられない後手は、△3九馬と頼みの馬を働かす。

 先手の飛車を封じることができれば、壁銀のマイナスも相殺される。さらに、この馬寄りには、郷田王将の秘めた希望が込められていた。

 先手の羽生名人、できれば飛車は4筋で頑張らせたい。しかし、4七や4六だと飛車が馬に苛められる手が嫌味なので、▲6八飛と穏便に指し、9筋突破の利で優位を確保する手も見える。
 羽生名人の飛車、縦に動くか、横に動くか……
 ……縦に動いた。しかし、行き先は4七や4六ではなく、もっと上だった。▲4四飛!
 先ほどの郷田王将の辛抱に驚いた森下九段であったが、この▲4四飛にはもっと驚いたという。
 ▲4四飛以下、△4三歩▲4六飛△2八馬▲4八飛△3七馬(第7図)と進む。

 ▲4四飛で4六に逃げても、△2八馬▲4八飛△3七馬と進む。羽生名人は▲4四飛として敢えて先手で4三に歩を打たせたことになる。(第6図と第7図の違いは、4三の歩の存在と後手の馬の位置)
 4三に歩がなければ、▲4四桂の厳しい手が残る(後に桂馬が手に入る可能性大)……傍目には、「飛車が逃げ回り、後手玉を固めさせた挙句、6筋に退却する羽目になった」ように見えるが、郷田王将の秘めた希望を打ち砕く動きだったのである。
 9筋に火の手が上がっている現状、その火の手が飛車にも及ぶことが目に見えている。郷田王将の秘めたる狙いは、先手の手に乗じて、飛車を4一に転回し成り込みを計ることだったのだ。しかし、自らの4三の歩が、それを阻止している。

 ここまで羽生名人の飛車は、▲4七同飛(△3八角を打たれてもかまわない)、▲4八飛(手順に桂馬を取らせる)、そして、▲4四飛を含めた飛車の逃げ方など、実に精密な指し回し。
 私などは「馬で追い回される飛車」は嫌いだ。飛車側は先まで読んで、慎重に1手目から飛車の逃げ場所を精査しなければならない。対する馬側は、飛車の逃げ場所を見てからその後の手を決めればよい。(プロは違うと思うが)

 まさに“名人の飛車”だ
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする