英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第73期名人戦第3局

2015-05-10 16:41:22 | 将棋
第73期名人戦第3局(5月7日、8日)は、116手で後手番の羽生善治名人が挑戦者の行方尚史八段(41)を破り、2勝1敗とリードした。

 辛勝と言って良いだろう。

 角換わり腰掛け銀で、後手の△2四銀に対して、先手が薄くなった4筋に▲4五歩と仕掛けた将棋。


 第1図で前例と離れた。△4七歩は羽生名人の新工夫だが、行方八段に▲5八金(封じ手)から▲4七金(第2図)と手厚く応じられ、逆用されてしまった感がある。


 羽生名人は△2七馬▲4八飛△4六歩▲同金△3七馬と動くが(△2七馬では△5九馬が正着らしい)、4六の歩の叩きで更に1歩を投入したので1歩損(先手が▲2五歩△同銀と突き捨てている分と4七の歩を取られた分とは相殺)になった。
 ▲4九飛に△4八歩と叩きたいが弾切れ。そこで、△9五歩▲同歩に△7五歩▲同歩と味を付けてから、△9五香▲同歩と強引に歩を入手して△4八歩を実現させた。

 しかし、局後、羽生名人も述べていたが“非常手段”の趣が強い。

 強引とは言え、これで金を取ることができれば後手良しなのだが、△4八歩に▲2九飛とかわした手が銀取りになっており、△4六馬▲2五飛で、結局、金銀の振り替わりとなり、後手の香損が残った。
 戻って第2図では、△5九馬▲2八飛△4六歩▲5六金△2六銀▲4八歩△3七銀不成と、もたれて指した方がよかったらしい。(局後の感想戦:棋譜中継解説より)

 ▲2五飛に△3六馬の飛車取りに対して、▲4三歩が絶好の利かしだった。

 ▲4三歩で単に▲3三歩だと、△2五馬▲3二歩成△同金と進むが、先に▲4三歩△同金直を利かせておけば、▲3三歩△2五馬▲3二歩成に、金が4三にいて△同金とできないという寸法だ。(▲3三歩に△同桂だと▲同桂成△同金▲3六角成と馬を素抜かれる。▲3三歩に△同金右でも▲同桂成△同桂▲3六角成△2五桂▲同馬で駒損が大きい)
 実戦は▲4三歩△2五馬としたが、▲4二歩成△同金と、やはり金が玉から離れてしまい、追撃の▲2七香が厳しい。もともと、この香は羽生名人が献上したものだ。
 この手に対し、羽生名人は△5八馬と先手陣に侵入。
 この△5八馬が微妙な一手だった。


 BS中継解説の森下九段は、「第一感は△6九馬。次に△6七金が厳しく、後手玉にはまだ詰めろが掛からないので、勝負である」と述べていたが、自身の解説で「△5八馬では先手陣に迫る手がなく“甘い手”だが、△6九馬には▲7九金といったん受ける手も見え、それが嫌なので△5八馬と妥協したのだろう」と付け足していた。
 検討陣も≪△5八馬は甘い≫と見て、△7六歩▲同銀△5八馬の変化を調べていた。行方八段も△7六歩を本線で考えていたようだ。
 直前の▲2七香に57分考えており、△7六歩や△6九馬などの変化を読み切って着手したはずだ。

 ところが、△5八馬だった。おそらく、行方八段はほとんど考えていなかったであろう。一目、≪ありがたい。甘い手なので▲4三歩△3二金▲4一銀(▲4二金)と攻め合って勝てそうだ≫と。
 しかし、行方八段が次の手を指さない。30分、40分……1時間1分、ピシっ!…ようやく指された手は▲6八金打。
 この手を見た解説の森下九段、
「へえぇぇ…▲6八金(打)ですか……ほおぉぉぉ、これは寄りがないと見たんですかねぇ。へえぇぇぇ…う~ん」
 この手に否定的な森下九段の感嘆ぶり。確かに、緩い手に対して受けるのは、手のやり取りとしては変。また、2手連続の約1時間の長考。これで、行方八段の残り考慮時間は32分となってしまった。
 形勢はともかく、手の流れ、時間の使い方、疲労度、残り時間と、羽生ファンの私としては、急に視界が良くなったような気がした。


 実際に、△5八馬の局面はどうなのか?

中継解説によると
①▲4三歩は
(1)△3二金▲4二金△9七歩▲9九歩△9六飛(変化図1)
 後手にもう1枚金があれば先手玉は詰む。その1枚の金は4二に落ちている。なので、有望そうだが、図から▲6八金で先手が残している。
(2)△3二金▲4二金に△6七金(変化図2)。これは“有力”とのこと。
 

(第5図より)②▲3一銀は
△同玉▲2三香成△3二金打▲2四歩△2二歩▲4三歩△2三歩▲4二歩成△同玉(変化図3)

 これは“難解”とのこと。

③▲4三銀は
△同金▲4一角成△3二銀▲3一銀△1三玉▲2二金△2五金▲3二金△2四玉(変化図4)

 これは“後手が残している”とのこと。

 また、▲4三歩△3二金に▲4二金ではなく▲4一銀も有力であるし、この他にも▲2四歩から玉頭を攻める手も考えたい。
 いろいろ読んで、指せそうだが成算が持てずに踏み込めず、▲6八金打と自陣に手を戻したようだ。
(「△5八馬(80手目)の瞬間に攻めていかなければおかしいんですけど、どれも成算が持てなかった」……by『朝日新聞DIGITAL「将棋名人戦 第3局2日目ダイジェスト」より)
 
 先述したように、また、行方八段自身も語ったように、▲6八金打は手の流れと変で、考慮時間的にも変調であったが、実際には、この後、△7六歩▲5八金△7七歩成(第5図)で

「▲7七同玉と取った手が敗着(ポカ)で、▲7七同金と取っておけば先手が良かったらしい。
 以下、以下△4五銀▲同角成△9六桂▲7八玉△7六歩▲同金(変化図5)と進めて、


(1)△9八飛なら▲6七玉△5四銀(5四金)▲3四馬△3三金▲6一馬。
(2)△8八飛なら▲6九玉△4九歩成▲2四歩△同歩▲2三歩△同玉▲7八角で、いずれも先手良し」とのこと(棋譜中継解説より)。


 実戦は▲7七同玉に△6九飛で

逆転した。行方八段は▲7七同玉としたあと、△6九飛に気がつき、呆れたとのこと。

 しかし、手の調子、行方八段の消耗度、残り時間を考えると、▲6八金打が実質の敗着だったように思う。


 さて、ここで疑問が浮かび上がる。

 この第5図から、【疑問1】「先手が攻め合って勝てなかったのだろうか?」
 また、【疑問2】「この△5八馬の前に、△7六歩を利かせた方が良かったのではないだろうか?」の2点。
 疑問1については、≪先手が勝つはず≫、
 疑問2については、≪△7六歩を利かした方が得≫が私の答えであるが、確かな読みの裏付けがあるわけでなく、“勘”である。(誰か教えてください)

 疑問2については、△7六歩に手抜きで▲2五香と馬を取ってしまう手が成立するかもしれなかったこと。
 羽生名人は▲2五香を警戒して単に▲5八馬とした。また、行方八段は▲7六歩には▲2五香で大丈夫と読み切り、確信して▲2七香を打ったような気がする。
 とにかく、△4七歩を逆用され、香を犠牲に1歩手にし手を作った強引さなど、後手の苦しい展開で、もっと先手が楽に勝てる流れのはず。後手が悪いながらも思ったより微差であったのは、不思議だ。

 そして、更なる疑問が……
【疑問3】「△6九飛(第7図)は本当に決め手?」

 7図の直前の▲7七同玉が敗着とされたが、『ニコニコ生放送』で、中村太地六段は「△6九飛や△9八飛、△7六歩など色々な手段があります。形勢判断は、駒の損得は先手が香得、駒の働きは先手が良い、玉の堅さは互角、手番は後手。挙げてみると互角な気もしますが、後手が良さそうに見えます。手番が大きい局面なのかもしれません」と(棋譜中継解説より)
 中村六段が挙げた手以外にも△6九銀もあり、どちらかというと△6九飛は意外だった。
 実は、この時間帯、いちご(猫)と散歩しており、携帯で2ちゃんねるの実況版を覗いていたが、この△6九飛は不評で、ソフトの形勢判定値が先手に大きく傾いたらしい。
 読みの射程距離内で判断を下すソフトの判定値が正しいとは限らず、鵜呑みにすべきではない。そんな訳で、棋譜中継などの解説、ソフトの判定値を思考から除外して、あれこれ、盤に並べて調べるが、難解でよく分からない。
 △6九飛が悪手とは思えないが、決め手とも思えない。他の候補手を含めて、▲7七同玉の局面は形勢不明の範疇のように思える。
 実戦の▲2四歩からの継ぎ歩攻めが効果がなくて、形勢が傾いたように思える。(▲2四歩に代えて、▲3一銀△同玉▲2三香成と迫る手が有力)

 最後の疑問
【疑問4】「2七香と2八香の違いは?」
 これは、BS中継の解説の森下九段が、しきりに気にしていた疑問。
 あれだけこだわっていたのだから、感想戦で森下九段が訊ねて、深夜の放送で謎を明かしてほしかった。
コメント (4)
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