上海マスターズを観に行く-4


  観客のほとんどは、なんと10代の子どもばかりだったんです。中高、大学生あたりね。20代半ば~30代初めの観客もいましたが全然少ない。年配の観客に至ってはごくたま~にいるくらい。

  これらの10代の子どもたちがさ、選手の国の旗や応援プラカードを持って、「ロージャ!ロージャ!」、「レッツゴーロージーレッツゴー!」(←フェデラーへの応援)とか、「ゴー!ラファー!」(←ナダルへの応援)とか、「ノーレ!ノーレ!」(←ジョコヴィッチへの応援)とか声揃えてやってるわけ。

  テレビに客席が映っただろうけど、それぞれの選手の国旗振って応援してた観客は、ほぼ全員が中国の青少年たちですよ。

  3回戦のフェデラー対ガエル・モンフィス戦では、中国の子どもたちによる「フェデラー応援隊」がほぼ1ブロックの席を占めていて、声を揃えて賑やかに応援しておりました。100人近くはいたんじゃないかな。ひとかたまりに固まって座り、スイスの旗や応援プラカードを振ってフェデラーを応援してた。

  フェデラーはこの3回戦で敗退しました。翌日の準々決勝にはジョー・ウィルフライ・ツォンガ、ファン・マルティン・デル・ポトロ、ジョコヴィッチ、ナダル、スタニスラス・ワウリンカという錚々たる面子が登場しましたが、この「フェデラー応援隊」ほど大規模な応援隊はいませんでした。フェデラーが最も人気があるってのは、こういうとこからも察せられるわけです。

  ちなみに、この「フェデラー応援隊」の3分の1ほどは、準々決勝で「ワウリンカ応援隊」に変貌して再登場しました。こうなるとフェデラーを応援してるのか、スイスを応援してるのか、基準がよく分かりません。

  ナダルの応援隊もいたけど少数。10~20人くらいのかたまり。あとはバラけてあちこちに座り、個々で、または2、3人単位で、スペイン国旗振ってナダルに声援を送っていました。ジョコヴィッチの応援隊もいました。10人くらい。3回戦ではセルビアの旗を持ってかたまりで応援してましたが、不思議なことに、準々決勝では彼らの姿が見えませんでした。3回戦での試合でちょっと騒々しすぎたんで、準々決勝では騒がないよう公安に注意されたのかもしれません。

  面白かったのが、なにせ子どもでしょ?ファン同士で敵視しあってるの。フェデラー対モンフィス戦では、私の近くに高校生か大学生くらいのきれいな女の子がいました。この子はモンフィスのファンらしくて、「アレ!ガエール!」とひっきりなしに声援してましたが、この子、「フェデラー応援隊」がフェデラーに声援を送るたびに、フェデラー応援隊が座っている方向をガチでキッと睨みつけるんですよ。

  フェデラー対モンフィス戦はフルセットの試合になり、第2セットあたりからフェデラーがどんどん調子を上げてきました。試合が白熱し始めると同時に、気分が盛り上がった観客のほとんどがフェデラーの応援に回り、会場は「ロージャ!ロージャ!」の大合唱(←私も便乗した)。モンフィスのファンの少女はもう周囲を睨みつけるので大忙し、更に負けじと「アレ!ガエール!」と絶叫しまくり。

  前に書いたように、上海マスターズのチケット代は非常に高いのです。でも学生割引のチケットが売り出されていましたから、というより、学生向けの安価なチケットのほうが、一般向けの高価なチケットより多く売り出されていたのだと思います。彼らは学生向けのチケットで観に来たものでしょう。

  観客の大部分が子どもであることに気づいて、去年の「フェデラー暗殺予告騒動」も理解できました。あの騒動を起こした「藍猫」というネットユーザーも10代の学生で、フェデラー嫌い、且つ熱烈なナダル・ファンだそうです。

  しかし、「藍猫」君があんなことをした動機は、ナダルがジョコヴィッチに連敗してた時期があって(←2011年のことらしい)、それが面白くなかったから、という理解不能なもの。その怒りがジョコヴィッチにではなくフェデラーに向けられたのは甚だ不可解ですが、子どもは時おり理屈の通らないバカをしでかすものです。

  「藍猫」君の「フェデラー暗殺予告」を、大会側とフェデラー側に言いつけたフェデラーのファンたちも、やはり「藍猫」君と同じような年齢の子どもたちでしょう。だから後先考えず軽率に事を大きくし、マスコミに事の次第をペラペラしゃべりまくり、当のフェデラー本人と家族に無意味な恐怖心を与え、大きな迷惑をかけてしまったのです。

  中国のテニス・ファンのほとんどが10代の子どもなのは、テニスはほんの10数年くらい前にやっと中国に入ってきた、比較的新しいスポーツだというのが最も大きな理由だと思います。テニスは金持ちのスポーツですから、90年代後半あたりから始まる中国の急速な経済発展と同時に普及してきて、そのせいで主に「90後」(90年代生まれ)と呼ばれる青少年の間での人気が特に高いのでしょう。

  「フェデラー暗殺予告」事件は本来ネット上での口論に過ぎず、それが現実世界での騒動に発展したのは例外中の例外です。上海マスターズの観客の大部分が、上海に居住する学生たちであることは、治安維持の面からいって非常に好都合です。学生たちは素直で従順で頭がいい知識分子ですから、客席でファン同士のほほえましい応援合戦や睨み合いはやっても、暴動を起こすことはまずありえません。これは中国当局が反日・反米デモを学生にやらせることと同じ理屈です。

  要は、反日デモで日本の国旗や日本の首相の写真を燃やしてはしゃいでいた連中が、同じノリで上海マスターズではスイス、スペイン、セルビアなどの国旗と選手の名前を書いたプラカードを振ってはしゃいでいると思われるわけです。

  観客ウォッチングをしながらこんなことを考えていましたが、スポーツは元来、選手やチームを応援することを通じて、群れなしてはしゃいで楽しむことも面白さと醍醐味の一つだと思うので、まあいいんじゃないすか。それに、中国の観客がみな「良い子」だったおかげで、私も安心して観戦を楽しむことができましたし。

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