上海マスターズを観に行く-3


  A+席エリアの入り口で公安の兄ちゃんにチケットを見せて入り、自分の席を探しました。ここの会場さー、席番が分かりにくいのなんの。が、なんとか見つけました。私の席はA+5列目で、これはA+席の最後列でした。

  しかし、私が460元もはたいて購入した席は、なんとすでに別の観客によって実効支配されていたのである!これは許しがたい行為であり、その席は当方が正当な領有権を所有していることを強く主張するものである!(←洪磊の口調で)

  というのはもちろん冗談で、日本人にとって、これは軽いパニックに陥りやすい状況です。自分が買った席に他人がちゃっかり座っているという事態には、日本ではあまり遭遇しませんから。ああ、次のゲームが始まっちゃう、早く座らなきゃ、と私は焦りまくり、公安の兄ちゃんに詰め寄って「私の席に誰か座ってる~!!!」と必死に訴えました。

  公安の兄ちゃんは私の席がある列を見渡すと、たちまち困ったような顔になりました。後で分かったのですが、自分の席に他人が座ってる、と訴えた私のほうがある意味間違っていたのです。「ターイム!」と主審のコールが聞こえました。公安の兄ちゃんはA+席エリアの前列を指さし、「前のほうが空いているから座れ」と急いで言いました。

  ワケが分からないままに、私は空いていた最前列の席にあわてて座りました。目の前をさえぎるものはなく、眼下に青いコートが広がり、フェデラーとモンフィスが次のゲームを始めています。それが目に入ったとたん、私の奥ゆかしい、慎み深い、遠慮がちな日本人モードが自動的に終了、最後列だったのが最前列にアップグレードか、超ラッキー♪と得した気分(実際に得したんだけど)になりました。

  つまり、こういうことらしいです。いちおう席番は決まっているけれども、A+席のエリア内であれば、空いている席に好きに座ってよいのです。もちろん、その席の本来の持ち主が来たら他に移らなくてはなりませんが。A、B、C席に至っては、エリアをさえぎる柵もないし、チケットをチェックする公安もいないので、たとえばB席やC席のチケットでも、空いていればA席に座ることができます。大陸的寛容さが感じられる良い慣習ですね。

  ただ、これはせいぜい3回戦くらいまで許されることのようです。翌日の準々決勝からは観客が多くなるしチケット代も高額になるためか、ほとんどの観客が自分の席番どおりに座っていました。

  そして、生フェデラー。淡いグレーのシャツに赤いズボンというウェアでした。この日は晴天で日中の最高温度が27~8度、湿度も80%近くと蒸し暑い日で、フェデラーは2、3回もシャツを着替えていました。いつもはせいぜい1回着替えるだけなのにめずらしいな、と思いました。

 

  これが、私が初めて撮ったフェデラー様生写真。着替え中、しかも顔が写ってないってどうよ(笑)。まったくアホな話で、せっかく試合を生で観られるっていうのに、いいカメラを持ってこうという発想が全然なかったんですね。私が持ってた撮影アイテムは、ガラケーと10年前に買った古いデジカメのみ。

  周囲の中国人観客たちは、スマホ、タブレット、プロのカメラマンが持つようなでっかいカメラでバンバン撮ってました。ほー、スマホって、私が持ってる10年前のデジカメよりはるかにアップで、しかも鮮明に撮れるのね、タブレットって動画もこんなきれいに撮影できるのか、と感心。

  一方、私が持ってた古いデジカメではこれ↓が精一杯。

 

  失敗したなあ。次はちゃんとしたカメラを持ってこよう。それにしてもモンフィス、アフロヘアーがデカいなあ。

  中国の観客の観戦マナーは非常に良いんじゃないでしょうか?比較する対象がないからよく分かんないけど。ゲームの最中はみな静かに観ているし、選手に声援を送るタイミングも自然です。

  たまに試合の進行に差しつかえるほど騒ぐ人がいると、あるいは選手のプレーを妨害するような声を故意に立てる人がいると、周囲から自然と「シーッ」という声が沸き起こり、騒ぐ人々に静かにするよう注意していました。3回戦と準々決勝の両日を通して、カメラのフラッシュの光も1回しか見ませんでした。

  あと、客席の雰囲気も明るいっちゅ~かお気楽っちゅ~か、とても楽しい気分で観戦できました。中国の観客は陽気でタチが良いと思いますよ。それに公平。

  大部分の観客はフェデラーかモンフィスかのどちらか一方を応援しているというわけではなく、どちらの選手でも良いプレーをすれば拍手して称賛の声を送っていました。また、選手がダブル・フォールトやミスをしても、「ああ~」とため息はつくものの、「わあ、残念だったね、でもしょうがないよ、はい、次!次!」的な感じで、なんか明るいんです。

  中国ではフェデラーが最も人気があるとは聞いていましたが、本当にフェデラー人気は絶大ですよ。観客の大部分は、特にフェデラーのファンではないかもしれないけれど、フェデラー目当てで観に来たのは確かです。

  最初、私はなんでこんなに観客がいないんだろうと思ったんですが、あれでも観客の入りは良かったのです。フェデラーの試合が終わると、潮が引くように観客の多くがぞろぞろと帰ってしまいました。次はノヴァク・ジョコヴィッチ対ファビオ・フォニーニの試合だったというのに(その後にはラファエル・ナダルの試合もあったはず)。

  この試合でのフェデラーはミスがめちゃめちゃ多くて、返したボールがとんでもない方向にぶっ飛んで行く、線から大きくはみ出る、ネットに引っかかる、おまけにファースト・サーブもなかなか入らない、と不調だったんですが、観客はフェデラーがいくらミスしようが、決して苛立ったり怒ったりしません。

  それどころか、最後にはゲラゲラ笑いだす始末。といってもバカにした笑いじゃないですよ。「も~、ロジャーったら、しょうがねえなあ、あはは」とひたすら陽気。深刻な雰囲気は全然ナッシング。

  中国の観客って、すぐ興奮して激しやすくて怖いんじゃないか、と思っていたのですが、マナーが良く(席番もいざとなるとちゃんと守る)、公平で、さっぱり、からりとしていて、概して質の良い人々でした。ただこれ、中国のテニスのファン層が独特だという背景によるところが大きいと思います。

  観戦してはじめて、中国のテニス・ファンの特徴について気づいた点が多々ありました。

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