『兵士の物語』9月15日(書き直し編)

  というわけで、『兵士の物語』東京公演9月15日の感想をあらためて(←そもそも書いてない)書きます~。

  私はアダム・クーパーのファンなので、彼について毎回書かないと気が済みません。

  アダム・クーパーの調子はうなぎのぼりで、動きから重たさがほぼ(まったくというわけではないが)消えて、彼本来のキレの良い動きが復活してきました。ただ、彼の比類ない音楽性に、身体のほうがまだついていけていないな、という印象はあります。

  前にも書きましたが、今のアダム・クーパーは基本的に体力不足です。その原因はおそらく、この4月から7月にかけて、彼が急激に痩せてしまったことにあります。

  この数日で彼の踊りが見違えるように良くなったのは、いわゆる「昔の勘を取り戻した」というやつだと思います。アダム・クーパーの優れた適応力はロイヤル・バレエ時代から有名ですが、そういった彼の凄さは、わずか2、3日という短い時間で、しかも舞台の回数をこなすごとに、数年のブランクを埋めてしまうことにも表れているといえます。

  でも、体力不足は物理的な問題なので、適応力の高さでは補いきれません。数日の公演で元に戻るなんてあり得ないことです。このことは長い目で見るしかありません。少なくとも数ヶ月から半年ほどの時間をかけなくてはならないでしょう。

  ですから、彼にはこれからも今のペースで踊り続けていってほしいのですが、現時点で決まっている彼の活動予定からみれば、それはなかなか難しいと思います。そうである以上は、彼の自覚に任せるしかないですね。

  どのみち、キャストには今回の公演映像が渡されるでしょうし、彼も自分の踊りにパワーが足りないことくらいは分かるでしょう。アダム・クーパーは人間的にバランスが良いというか、冷静に先々まで見据えて、じっくりと事を練るところがある感じがします。ひょっとしたら、今の自分が体力不足なことはとうに承知で、今は自分にできる範囲で、と割り切っているのかもしれません。

  彼がこれからじっくりと元の体力を取り戻すことに取り組んでくれることを祈ります。ゆっくりでいいから、どうか頑張ってね、クーパー君!

  さて、今日は肝心なシーンでとんでもないアクシデントが起きました。

  が、キャストたちのその重大なアクシデントへの対処が実にすばらしかった! 

  第2部、兵士は悪魔を誘ってカード・ゲームをし、その都度わざと負けます。兵士が悪魔からもらった金を悪魔に返していくとともに、悪魔は徐々に力を失い、兵士はそれに乗じて語り手とともに悪魔と格闘します。

  そうして悪魔をやっつけた兵士は王女と結ばれます。が、その後に悪魔が復活し、再び兵士の前に現れます。兵士、語り手、王女は一致団結して再び悪魔と戦い、兵士はついに悪魔の息の根を止めます。

  これら二つの悪魔との格闘シーンでは、かなり激しい殺陣っぽい動きと踊りがあります。その一つめ、カード・ゲームが終わった後に、兵士が語り手と一緒に悪魔と戦うシーンの途中で、なんとヴァイオリンの柄が根元からぽっきりと折れてしまいました。

  ですが、アダム・クーパー、ウィル・ケンプ、マシュー・ハートは顔色ひとつ変えません。クーパーはヴァイオリンの折れた部分を強くつかんで、そのまま弾く仕草をし、また振り回していました。私は心中「これは面白いことになったぞ」と思い(ごめんなさい)、キャストたちがどうやってこのアクシデントを処理するのか、と興味津々でした。

  悪魔が倒れると、語り手は兵士に「君は自由だ!」と叫び、兵士はヴァイオリンを持ちながら、第1部と同じ振りで踊ります。

  クーパーはヴァイオリンの折れた部分をつかんで、ヴァイオリンを無理矢理真っ直ぐの形に保ちながら踊りました。少し不自然な体勢になったはずです。でも、クーパーの踊りにもまったくアクシデントの影響は見られません。

  その後は王女のソロ、王女・兵士・王様の踊りになります。この間はヴァイオリンは用いられません。この隙に予備のヴァイオリンに変えるのかな、と私は思いましたが、それはありませんでした。

  ヴァイオリンが変えられないまま、悪魔が復活してしまいました。兵士役のクーパー、王様役のケンプ、王女役のゼナイダ・ヤノウスキーは、折れたヴァイオリンを投げ合って、ヴァイオリンを悪魔に奪われまいとします。

  その間に、ケンプがヴァイオリンの柄を本体に差し込んで、ヴァイオリンはいったん直りました。でも、すぐにまたぽっきりと折れてしまいました。弦だけでつながっているヴァイオリンを、クーパー、ケンプ、ヤノウスキーがトスし合うのですが、さすがに投げるわけにいかないらしく、ほとんど手渡しという感じになっていました。

  舞台上に更に設けられた小さな舞台の上に登場人物たちが集まったとき、クーパーが再びヴァイオリンの柄を本体に差し込もうとしました。その間に、悪魔役のマシュー・ハートが、クーパーの姿を隠す形で大きくジャンプしたのです。これはいつもの決められた振りではありません。ハートはヴァイオリンを直そうとするクーパーを見て、観客の目をクーパーからそらすため、とっさの判断でやったのでしょう。大したもんです。

  ですが、ヴァイオリンは直りません。それから、事態はいよいよ緊迫してきました。兵士、王女、王様が一列に並び、悪魔は誰がヴァイオリンを持っているのか、一人ずつチェックするシーンになってしまいました。いつもなら、ヴァイオリンを持っている王様は、ヴァイオリンの柄をズボンの後ろに突っ込み、持っていないフリをして悪魔を騙すのです。でもヴァイオリンの柄が折れてしまっていては、この演技はできません。

  さあどうする、と思ってワクワクしながら(ほんとにごめんなさい)見ていたら、ケンプとハートが見事な連携アドリブをやってのけました。ケンプの王様は折れたヴァイオリンを脇に抱えて、「私ですう~」と半泣きの観念した表情をします。すると、ハートの悪魔は「お前だー!」というふうに、王様をびっ、と指さします。いうまでもなく、両人とも打ち合わせなしでやったのです。

  王様からヴァイオリンを受け取ったクーパーの兵士は、折れた部分をつかんで悪魔を殴ります。そして、最も深刻な事態になりました。兵士はヴァイオリンの本体を両手で逆さに持ち、柄を悪魔の胸に突き刺して悪魔を殺さなくてはなりません。

  このとき、兵士は悪魔を追いつめて舞台の左脇に移動します。ここで兵士役のクーパーのスーパー・プレーが出ました。

  仰向けに倒れたハートの悪魔の上にまたがる寸前に、クーパーは舞台の左袖に腕を伸ばし、壊れたヴァイオリンを床をすべらすように舞台の脇に放り投げ、待機していたのであろうスタッフ(←装置のせいで姿は見えない)から予備のヴァイオリンをすかさず受け取ると、間髪いれずにヴァイオリンを両手で持って振り上げ、悪魔の胸に突き立てました。

  この、クーパーが予備のヴァイオリンを受け取るのが実に素早くて、ほんとに0.何秒の世界でした。しかも、いかにも「受け取りました」という、もたもたした感じはせず、悪魔の上にまたがるために身をかがめた瞬間を利用して、さっ、と腕を横に伸ばしてヴァイオリンを受け取り、そのまま演技に移りました。本当に目にもとまらぬ速さでした。

  舞台袖、セットの陰に予備のヴァイオリンを持って待ちかまえているスタッフの姿が見えていたのだろうけど、あの素早いスムーズな受け取り方には、さすがはクーパー君、と妙なことですがすごく感心しました。今日の公演を観ていた友人たちも、「あれはすごいよ~!!」と言っていました。

  かくして、「よりによって大事なシーンでヴァイオリンの柄が折れちゃったよアクシデント」は、キャストたちの見事なアドリブ連係プレーによって解決されたわけです。

  顔色ひとつ変えず、冷静に対応していたかのように見えたキャストたちですが、ウィル・ケンプによれば、このときは4人ともすごくあわてていて必死だったのだそうです。

  しかし、アクシデントに心中では焦っていても表面には出さず、とっさの機転とアドリブで協力し合って乗り越える、舞台人ならば当たり前のことなのでしょうけど、今さらながらにクーパー、ケンプ、ハート、ヤノウスキーのチームワークの良さに感じ入りました。
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『兵士の物語』東京公演最終日

  終わりました~。すばらしい日々でした~。キャスト、スタッフのみなさん、どうもありがとうございました~。

  私は虚脱状態です~。詳しくはまた後ほど~~~。
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