フェデラー伝説3-1


  もうずいぶん前の話になってしまいましたが、お正月に放映されたとんねるずの「スポーツ王は俺だ!」(テレビ朝日)のテニス編は面白かったです。

  石橋が対戦相手の松岡修造に対して「コタツでも除菌してろ!」(←松岡修造が「ファブリーズ」のTVCMに出てるので)と罵ると、松岡修造が「ちっくしょー、除菌してやる!」と怒鳴り返すなど、大人気ない不毛な応酬をしてました。

  石橋・木梨ペアの「助っ人」は、なんとレイトン・ヒューイット選手でした!!!ヒューイット選手、気さくでユーモアたっぷりな楽しい人でしたね。「作戦」なんて銘打って、自分や錦織圭選手のボールが当たったりしないよう、石橋や木梨や同じく助っ人の子どもたちにネットの前で一列にかがませたり(笑えたけどそれなりに成功してた)。

  錦織選手も、石橋たちには返球が無理なボールを返すときには、「レイトン!」と叫んでヒューイット選手に知らせてました。

  ヒューイット選手と錦織選手の「股抜きショット対決」も面白かったです。印象的だったのは、松岡修造が不思議そうに「(股抜きショットは)どうやったらできるの?」と聞くと、錦織選手が「簡単ですよ」とさらっと答えたシーンでした。

  松岡修造は90年代に活躍した選手ですが、たった10年の間に、テニスの技術はかなり進歩したのだなあ、と思いました。

  この「股抜きショット」はロジャー・フェデラーの得意技(笑)として有名です。"tweener"というらしいんですが、フェデラーは"the shot between my legs"と言ってます。フェデラーの「股抜きショット」は、日本のテレビのニュースでも、「スポーツ珍プレー」的に紹介されていたのを観た覚えがあります。

  しかし、これは「珍プレー」などではなく、ちゃんとした返球の技であり、決め球として確立させたのはフェデラーでしょう。今は大抵の選手がやるようになりました。

  フェデラー自身による「『股抜きショット』講座」の動画もあります。でもこれはお笑い目的のCM動画で、フェデラー先生のレクチャーは全然参考にならないです。

  「みなさんのために実演しましょう。ステップ1:対戦相手から目を離さないで下さい。ステップ2:球を打てるよう両脚を充分に広げ、そして力いっぱいに打ち抜きます。…でも、ここではくれぐれも、くれぐれも細心の注意を払いましょう(←誤って股間を打たないように、という冗談らしい。フェデラーにしては珍しいお下品ジョーク。言ったあとに照れて笑っているフェデラーが最高にキュート)。」 そして最後に「家の中でこれをやらないで下さいね。僕はプロだからできるんです(←ガキんちょのころ、実家の中でテニスをやって家具を破壊しまくっていたくせに)。」

  フェデラーが新たに定着させた技は他にもいろいろあるんでしょうけど、その中には「スマッシュ返し」も入りますね。これは決まった名前がないらしいです。"smash against smash"と名前をつけてる人もいますが。スマッシュは、相手が辛うじて返して高く浮いた緩い球を、上から強打して叩き込む決め技でした。

  スマッシュを打たれると、ほとんどの選手はあきらめていたのです。しかしフェデラーは、相手が打ってきたスマッシュの球が大きく跳ね返った瞬間に高くジャンプして、逆にスマッシュをラインぎりぎりに打ち返して自分の決め球にしてしまう、ということをしばしばやってのけました。

  フェデラーに「スマッシュ返し」をやられて呆然としている選手たち(アンディ・ロディック、ニコライ・ダビデンコ、アンディ・マレー、ノヴァク・ジョコヴィッチなど)の映像が多く残っています。

  やり方は異なるものの、この「スマッシュ返し」をやった選手はフェデラー以前にもいました。マルチナ・ヒンギスです。ヒンギスの場合は、相手が打ったスマッシュを直に、ボレーみたいな感じで打ち返しました。しかもネットのすぐ前でです。相手選手は誰だったか忘れましたが(パワー・ヒッター系の選手だったと思う)、やはり呆然としていました。

  スマッシュを打ち返すという発想はそれまでなかったように思います。私は「天才」といった表現には抵抗感があるのですが、ヒンギスといい、フェデラーといい、発想そのものが異なる、独特な選手は確かにいるようですね。

  余談。去年、2012年ウィンブルドン選手権準決勝ノヴァク・ジョコヴィッチ対フェデラー戦で、ジョコヴィッチ選手がスマッシュを凡ミスしたことが試合の流れを変えた、とNHKは言ってました。しかし、あの瞬間の映像をよく観ると、ネット際でスマッシュを打とうとしているジョコヴィッチ選手の正面、ベースラインのはるか後方に、しっかり体勢を整えて待ち構えているフェデラーの後ろ姿が映っています。

  位置的に見ると、ジョコヴィッチ選手のスマッシュが入ったとしても、フェデラーはフォア・ハンドで打ち返し、ジョコヴィッチ選手の左側に抜くつもりだったんじゃないのかな。ジョコヴィッチ選手にも、もちろんそんなフェデラーの姿が目に入ったはずです。だから、ジョコヴィッチ選手のスマッシュがアウトになったのは、決して「凡ミス」などではないと思います。

  というわけで、最近の選手はやたらと大げさなスマッシュを打つ印象がありますが、あれは仕方ないのでしょう。甘いスマッシュだと打ち返されてしまうことが今は多いからです。だから、スマッシュを決めるには、相手選手をコートから追い出して、空いたスペースに球を打ち込むか、もしくは相手選手が打ち返せないよう、跳ね返った球が観客席に飛び込むほど強く打たないといけなくなっちゃってるんだと思います。素人考えですが。


  ルネ・シュタウファー(Rene Stauffer)著『ロジャー・フェデラー(Roger Federer Quest for Perfection)』第3章(Chapter 3)その1。

  誤訳だらけでしょうが、なにとぞご容赦のほどを。


  ・1995年秋、14歳になったばかりのフェデラーは、エキュブランにあるスイス・ナショナル・テニス・センターの訓練生になった。フェデラーはバーゼル近郊のミュンヘンシュタインにある実家を離れ、エキュブランのクリスティーネ家に下宿することになった。
  ・クリスティーネ家は、スイス・ナショナル・テニス・センターの訓練生の下宿先として自宅を提供していた。クリスティーネ家にはもともと3人の子どもたちがいたが、上の2人はすでに自立して実家を出ており、末の息子のヴァンサンだけが残っていた。部屋が空いていたのに加え、クリスティーネ夫妻はヴァンサンを一人っ子状態にしておきたくなかったからである。
  ・やがて、センター側からクリスティーネ家に依頼があり、フェデラーはクリスティーネ家が受け入れた2番目の下宿生となった。

  ・エキュブランはフェデラーの実家があるミュンヘンシュタインから、列車でわずか3時間ほどの距離にあった。しかし、フェデラーは自分が異世界にいるかのように感じた。フェデラーはいまだに、エキュブランでの最初の5ヶ月間は、自分のこれまでの人生の中で最悪な時期の一つだったと話し、「地獄」という語まで使って表現した。


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