ロメオとジュリエット

  牧阿佐美バレヱ団の「ロメオとジュリエット」を観にいってきました。このバレエ団の公演ははじめて観ましたが、ダンサーのレベルがみな高くて驚きました。もっと早くから観にいっておけばよかった、と後悔しました。

  ダンサーたちの踊りには共通した特徴があるんですね。みなさん、すっきりとキレよく踊ります。きれいな踊り方だなあ、というのが第一印象です。

  この「ロメオとジュリエット」は、なんと牧阿佐美バレエ団が特注した作品で、振付者はアザーリ・M・プリセッキーです。プリセッキーは、あのマイヤ・プリセッカの実弟だそうです。

  私は最初によりによってケネス・マクミラン版「ロミオとジュリエット」を観てしまったので、その刷り込みがすごいのです。それで他の版の「ロミオとジュリエット」を観るときには、なるべく頭を空っぽにして観るよう努めています。それでもあの音楽を聴くと、ついマクミラン版のイメージが浮かんできてしまうのですが。

  プリセッキーの「ロメオとジュリエット」を観て、ロシアの振付家が考えるところのバレエ全幕作品はこうなんだな、と思いました。私はジョン・クランコ版を観たときにはあまり違和感を抱かなかったのですが、プリセッキー版はクランコ版やマクミラン版とは明らかに違いました。

  何が違うのかというと、あくまで踊りをメインに据えているところです(いや、バレエはそもそも踊りがメインで当たり前なんですが)。クランコ版やマクミラン版には、もちろん振付が非常に言語的であるという共通点がありますが、その他に、演劇的要素を重視しているという点でも両者は一致しています。基本的に踊りそのものによって物語を進め、また踊らずに演技のみで進行させるシーンもかなりあります。

  でも、プリセッキー版はとにかく踊りが主体です。ジュリエットはバルコニーでひとり佇んでいるシーンでも踊るし、ロレンツォ神父とも踊るし、ついでにキャピュレット卿やキャピュレット夫人と3人一緒に踊るし(パリスも入れて4人一緒だっけか?)、ティボルトはロミオやマキューシオにインネンをつけるために詰め寄りながら踊るし、「なんでここでいきなり踊るの」というシーンで踊ります。

  音楽を無駄にせず踊りを入れる、というのが、ロシアの振付家の傾向なのかもしれません。プリセッキーの振付はクラシカルでとてもきれいでした。このバレエ団のダンサーの特徴に合った、すっきりとした清潔感の溢れる踊りとなっていました。男女ともに、ダンサーの長い四肢を存分に生かしたポーズや動きが美しかったです。また、近年の振付作品なのに、クラシック・マイムが用いられているのも興味深いです。でも登場人物のキャラクター設定が浅いのが物足りなかったです。

  ジュリエットを踊った伊藤友季子は体がすっごい細くて、とにかくスタイル抜群でした。手足が細くて長くて、特に折り曲げた脚をゆっくりと伸ばすところは非常に美しかったです。まだ若いのでしょうが、手足の動きは細かくきびきびとしていてジャンプも軽かったです。演技については、日本人だし、ジュリエットは初役だというし、あんなもんかな、という感じです。でも、ロミオを愛して強い女に変貌したジュリエットの演技はすばらしかったです。

  ロメオを踊った逸見智彦は、・・・特に印象に残ってないですね。次に言いますが、他にすごい男性ダンサーが出演していたので、逸見智彦は私の脳内ですっかりかすんじゃったんです。でも王子っぽい雰囲気を持っている人で、生真面目で優しそうな感じがロミオによく似合っていました。踊りもよかったですよ、もちろん。

  マキューシオを踊ったのは小嶋直也で、さっき書いた「すごい男性ダンサー」とはこの人のことです。他の男性ダンサーたちとは明らかに別格で、日本にこんなにも踊れる男性ダンサーがいるとは思いもよりませんでした。マキューシオはテクニックを駆使した踊りが多いですが、小嶋直也はとにかくすごかったです。

  テクニックがすごいだけじゃなくて、とてもきれいにキレよく踊るのです。踊っている最中のポーズも美しく、手足がしかるべき位置に常に収まっています。特に小嶋直也の脚と足は絶品です。動きも形もすごいきれいでした。ヘンな衣装(片脚がド派手なターコイズ・ブルーでもう片脚が白のタイツ)が気になりません。

  ただ単に私が無知なのかもしれませんが、なんでこれほど踊れる人がメジャーでないのか!?と不思議でなりません。きっと本人に出世欲がないのでしょう。いろんなことに手を出して・・・いや、活動の範囲を広げて、知名度を上げているバレエ・ダンサーも多い中、こういう隠れた天才がいるんですね~。今日は運がよかったです(明日のマキューシオは違うキャストなので)。

  ティボルト役の菊池研は、メイクのせいで要潤みたいになってました。この人も優れたダンサーだと思います。特に死に方がとても上手でした。

  プリセッキー版は、ロメオとジュリエットが死んで終わり、ではないのです。また、毒を飲んだロメオが死ぬ直前にジュリエットが目を覚まします。だから、ふたりは最後に生きて(もうすぐ死ぬけど)再会します。死にそうなロメオがジュリエットを担ぎ上げて踊っていて、苦しいだろうに気の毒だなあ、と思いました。

  ジュリエットがロミオに続いて死んだ後、重なり合ったふたりの死体を前にして、キャピュレット家とモンタギュー家の人々が現れて静かに和解し、ふたりに祈りを捧げるシーンで幕となります。

  また明日も観に行きます。今度はどんな発見があるかな~♪ 
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