コンタクト(1)

  14日(水)の夜に劇団四季のミュージカル「コンタクト」を観に行きました。席運のよくない私にしては珍しく、最前列センターの席でした。おかげで出演者の顔がはっきりとよく見え、ダンスも演技もすごい迫力でした。

  まず「上演に先立っての場内アナウンス」が面白かったです。役者さんの一人(男性)がやっているらしくて、「携帯電話、アラーム付き時計、キッチンタイマー、ウソ発見器をお持ちのお客様は、電源を切って下さいね♪」と言うので客席は大爆笑、また「上演中に飴を召し上がるお客様、飴が一つ一つ袋に入っていて、こういう音(ここで「カシャカシャ」という音が入る)を立てる袋の場合は、今のうちに飴を口に放り込んじゃって下さい!」という言葉でみな爆笑しました。

  劇団四季の「コンタクト」は、もちろんブロードウェイやウエストエンドで上演されたのと同じです。演出と振付はスーザン・ストローマン、脚本はジョン・ワイドマン、装置はトーマス・リンチ、衣装はウィリアム・アイビー・ロング。ただしもちろん、セリフはほとんどが日本語に翻訳されています。

  「コンタクト」に歌はいっさいありません。セリフとダンスのみです。また全幕物(ミュージカルでもこういうの?)ではなく、3話によるオムニバスでした。

  第1部は“SWINGING”で、舞台は18世紀のおフランス、登場人物は貴族の男女、そして男の召使です。女性はピンクのドレスを着て、召使の揺らすブランコに乗ってはしゃいでいます。彼女はブランコの前にいる男性に向かって股をおっぴろげたり、スカートをめくってフトモモを見せたりとかなり大胆です。召使はその様子を複雑な表情で見つめています。やがて貴族の男性と女性はワインで乾杯しますが、女性はワインの瓶の中身をこっそりと捨てて、男性に代わりのワインを取りに行かせます。

  女性はまたブランコに乗り始めますが、彼女は男の召使を誘うようにブランコの片方に寄ります。すると、それまでじっと耐え忍んでいた(?)召使は、吊り輪体操のように、ブランコに逆さまになって飛び移ります。女性は嬌声を上げます。

  それからがすごかったでしょ、ここなっつさん(笑)。貴族の女性と男の召使は揺れるブランコの上でくんずほぐれつ、アクロバティックな体○でS○○しまくり、最後にお互いに身をのけぞらせて叫び声を上げて絶○を迎えます。

  女性が何食わぬ顔で身じまいを整えると、貴族の男性が戻ってきます。するとなぜか貴族の男性は自分の上着を男の召使に着させて、今度は自分がブランコを押します。男性貴族が座っていた場所に召使が座り、彼は叫びます。“One play!”なるほど、そーいうことだったんですね~。

  この第1部はセリフがまったくないし、ブランコの上の妙技(笑)も、ダンスというよりはアクロバット的な演技ですね。召使役の満寧君がすっごいかっこよかったです。でも貴族二人の衣装については、なにせ映画「マリー・アントワネット」を観たばっかりなだけに、ちょっと安っぽいなあ、と思いました(比べるほうがおかしいか)。  

  第2部は“DID YOU MOVE?”です。ニューヨークのとあるビュッフェ式のイタリアン・レストランに、夫婦が食事に訪れます。夫はガラの悪いヤクザな中年男で、妻はスカートがフレアータイプのブルーのワンピースを着て、おとなしそうな感じです。

  夫婦は食事を始めますが、夫はむっつりと黙ったまま、料理を口につめこむだけです。妻は必死に夫に話しかけますが、まったく相手にされません。おまけに、夫は料理を取りに席を立つたびに、妻を「しゃべるな、動くな、笑うな!」と脅しつけます。

  夫がいなくなると、妻は夢見るような表情になります。そして彼女は妄想の中で踊りだします。それを何回も繰り返し、彼女はついに色男のウェイター長とロマンティックに踊ります。

  この“DID YOU MOVE?”は、まず妻が妄想と現実の間を行き来する演出が実に巧妙でした。よくこんなにスムーズな舞台転換を考えつくな~、と感心しました。踊りは驚いたことにほとんどクラシック・バレエなんです。オフ・ポワントですけどね。ウエストエンドでの上演では、クーパー君の奥さん、サラ・ウィルドーが妻を演じました。なるほど、ぴったりだわ、と納得しました。

  それに劇団四季の人たちはみなマルチな能力の持ち主です。演技、セリフ、数種類のタイプの踊り(そしてもちろんたぶん歌も)をみんなこなします。もちろんミュージカルでのバレエとバレエでのバレエは違うわけですが、妻を演じた団こと葉、ウェイター長を演じた吉元和彦の踊りはとてもすばらしかったです。

  ウエストエンドだと、歌メイン、踊りメイン、演技メイン、踊りでもコマーシャル・ダンスがメイン、バレエがメイン、とほぼ分業化していると思うのですが、それに比べると劇団四季の人たちはすごいですわ。

  特に演技には感動しました。とにかくみな表情が豊かで、たとえ現実の人間はこんなに表情が豊かではない、と分かっていても、生き生きしてるなあ、と感動しました。日本人や中国人だって、訓練すればこんなに表情に変化をつけることができるし、目つきや視線に意味を持たせることができるんですね。

  そうそう、気づいたことがあって、牧阿佐美バレヱ団「ロメオとジュリエット」でティボルト役だった菊池研の踊りがよく分からない、と書いたでしょう。本人が聞いたら怒るかもしれないけど、菊池研のバレエは、バレエでのバレエというよりは、ミュージカルでのバレエによく似ていると思うんです。

  妄想に浸っている妻を夫が見咎めて激怒し、「動いたな!?」と言うなり、懐から銃を取り出して彼女に銃口を向けます。レストランの人々は慌てふためいて夫を止め、人々が入り乱れての大騒ぎとなります。騒ぎの中で落とした銃を必死に探す夫を、妻は撃ち殺します。妻はそれからレストランの人々とともに、勝利と独立の踊り(笑)を踊り、さながらグラン・パのコーダのような様を呈します。彼女が椅子に座ったころ、夫が料理の皿を持って席に戻ってきます(←分かりますね)。

  この妻は、いずれ現実でも夫を撃ち殺すんじゃないかなー、かわいそうだなー、とふと思いました。

  第1部も第2部も面白かったですが、これらがはるかに及ばないほど、脚本も演出も振付もよくできていたのが第3部の“CONTACT”です。もともとはこの第3部だけの小品だったのに、上演時間の関係で後から第1部と第2部を足したらしいですね。だから第1・2部と第3部の間に、作品としての仕上がり度という点ですごい差があって、第3部を観ると第1部と第2部がかすんでしまうのです。これはこの「コンタクト」の欠点だな、と思いました。

  第1部と第2部は休憩時間なしで上演されて合計50分くらい、休憩時間を挟んで第3部が上演されます。第3部はそれだけで50分くらいあります。長いのでまた明日書きます。   
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