夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

瑞穂の国の秋

2012-10-21 19:11:14 | 日記
夕方に総社の備中国分寺の近くを通ったら、稲がたわわに実った田んぼの景色がずっと続いていて、とてもきれいだった。

この辺りはきっと弥生時代の昔から稲作に適した土地で、穀倉地帯だったのだろうと思う。

そういえば、日本人が心の中に思い描く日本の原風景とは、秋の田に稲穂が輝いている景色だと聞いたことがある。

『古事記』にも、天照大御神が忍穂耳命(オシホミミノミコト)に、わが国の統治を委任するくだりがあるが、そこで日本のことを「豊葦原千秋長五百秋水穂国(とよあしはらのちあきのながいほあきのみづほのくに)」と呼んでいる。

小学館の日本古典文学全集の注では、

トヨはほめことば、「千秋長五百秋」は千年も五百年も収穫の時が長く続く意、「秋」は収穫の季節、「水穂の国」はみずみずしい稲穂のできる国の意。葦の豊かに茂る原の、いつまでも豊かな収穫が続く、みずみずしい稲のできる国として、稲を主食とする古代日本を祝福した国ほめの語である。

と書いてある。

そんなことも思い出しながら、思わず車を停めて、写真を撮っていたら、午後六時になり、備中国分寺から暮れ六つを告げる鐘の音が響いてきた。古代から変わらず続いてきた秋の夕暮の風景のように思えて、

  夕されば稲葉なびかせ吹く風に遠(をち)のみ寺の鐘ぞ聞こゆる