夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

2017年追懐

2017-12-31 22:44:48 | 日記
毎年大晦日には、自分にとってのその年の重大事件を振り返って感想を書くことにしているので、今年も同様に。

1番は、やはり地元のケーブルTVの番組に出演したことになるだろう。
今までまったく経験のない分野への挑戦になったので、悪戦苦闘の連続だったが、郷土の偉人を顕彰するという本来の目的はなんとか果たせたような気がしている。

2番目は秘密です。

3番目は、和歌をどう教えたらよいかについての理解が深まってきたこと。
一昨年の秋、和歌と古典教育についてのシンポジウムにパネリストとして参加したとき、そうした教育経験の不足から、質疑の際に満足な受け答えができず、悔しい思いをした。
昨年から、近代短歌、古典和歌についての教育実践を積み重ね、最近になってようやく、どういう授業、教材にすれば、自分の持っている知識や理解を学生に伝え、〈うた〉の世界に引き込むことができるのかがようやく見えてきた。
私が今の職場に来ることになったのは、結局、和歌を学び教えるということのためであったのだと改めて思う。

4番目は、学生の頃夢中になった源氏物語に、また新たな形で、しかも深く関わるようになってきたということ。
今年の前期の授業では〈源氏物語の和歌〉を取り上げ、そして昨年から続いている市民対象のカルチャー講座では、「朝顔」巻まで読み進めた。
源氏物語ゆかりの地を訪ねる旅は、長谷寺と伊勢斎宮跡とに行くことができた。

5番目は、2年前から手がけることになった〈鳥取 幕末の和歌〉の研究を通して、地域の方々との交流の機会がさらに増えたことだ。
1年間で講演会を3度、出前講師を1度し、資料調査で地域の図書館、資料館、旧家等を訪ね、幕末の国学と和歌について実地に理解を深める経験を積むことができた。


一方で、職場での教育と研究の両立には相変わらず苦慮しているし、趣味の短歌の上達の遅さは我ながらあきれるばかりである。
それでも、来年もやりたいことがまだたくさんあるのは、きっと幸せなことなのだろう。
総括らしい総括もできないまま新しい年を迎えることになるが、来年はもう少しゆとりのある暮らしを心がけることとしたい。

それでは、みなさまよいお年を。

われは歌よみ

2017-12-27 23:33:55 | 日記
昨日帰宅すると、今月の歌会の詠草が届いていた。(担当の方、ありがとうございます。)
今回、私が提出していた歌は、先日学生たちに近代短歌・俳句を授業で教えた感想を形にしただけで、あまり歌らしい歌ではない。

  授業にて俳句より短歌を多くするを人よ咎むなわれは歌よみ
  七七の差のみにはあれど別乾坤(けんこん)の如き感じぞ俳句といふは

近代短歌・俳句の単元は、短歌を6時間、俳句を3時間で行った。
贔屓といえばそれまでだが、正岡子規による短歌の革新や、与謝野晶子と明星派、斎藤茂吉とアララギ派、石川啄木、若山牧水、北原白秋とその後の近代短歌の歌人たち等についてはどうしても一言触れたくなり、歌だけの理解に終わってほしくないと思ってしまう。

一方、マンガ『あかぼし俳句帖』の影響で、最近は近代俳句の面白さにも目覚め、自分には作れなくても自然や人事の本質を抽象的・哲学的に表現する俳句の凄さは認めているため、授業で
  啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々(水原秋桜子)
  玫瑰(はまなす)や今も沖には未来あり(中村草田男)
といった句を取り上げながら、
「なんでこんなに短い言葉だけでこんなに豊かな内容を表現できるんだろう?」
「なんでここまで言葉を潔く削れるんだ?」
と、教えるより先に感心ばかりしていて、学生たちから呆れられた。


今回の二首の歌は一首目に先生の「○」が付いていたが、最初に私が詠んだ形は、
  授業にて教ふるときは俳句より短歌を多くす人よ咎むな
だった。
先生の添削で、私を「歌よみ」と認めてくださったようで、何だか嬉しかった。

Xmasプレゼント

2017-12-25 23:00:15 | 日記
クリスチャンでない私には、聖夜の奇跡など無縁だと思っているが、今朝、思いがけない贈り物と思えることがあった。

身支度を整えて自家用車で通勤する途中、信号待ちの間に別のCDをかけようとして、ケースから取り出すときに、中身を落としてしまった。
運悪く、シートクッションとアームレストの隙間に落ち込んでしまったため、次の信号待ちの時に手を突っ込んでCDを抜き取ろうとすると、それよりやや厚く重い感触があったが、そのまま引っ張り出した。

結果、先日来行方不明となっていたスマートフォンが出て来た。


紛失したことに気づいてから、あれだけ必死に捜索し、車内もくまなく探したはずなのに、こんな形で出て来て、嬉しいやら呆れるやら。

そろそろ携帯ショップに紛失届を出して、新しい機種を買うことも考えていただけに、思いがけずクリスマスプレゼントをもらったような気分になった。

うれしき夢は

2017-12-24 16:54:52 | 日記
『百人一首』講座で毎回行っている穴埋め短歌の小テストは、先日から「穴埋め和歌」に切り替えた。やはり、和歌を学習するからには、学生たちに鑑賞だけでなく創作する側にも回り、より理解を深めてほしいという思いがある。

今まで口語短歌ばかりだったので(文語は少なめ)、出題が古典和歌になったらついていけるか不安もあったが、現代語訳を添え(これは必須)、適切な歌を選べば結構答えてくるものだと分かったのは大きな収穫だった。

ただし、その「適切な」歌を選ぶのが難しく、これから毎回出題のたびに歌集類と首っ引きで探すことになりそうだ。


①道もなく 積もれる雪に 跡たえて ■■■■いかに さびしかるらん
                 (堀河百首・冬・雪・九五八・肥後)
  (道も見えないくらいに積もっている雪のために人の往来も途絶えてしまって、ふるさとはどんなにさびしいことだろうか。)

元の歌「ふるさと」 正解が四人いた。
学生の解答(括弧内は、私のコメント)
・「イエティ」(ディズニー映画『モンスターズ・インク』にも出ていた雪男。ヤツも寂しいのか…。)/「村人」(いいセンスです。)/「信号」(雪国の寂しい情景が浮かびます。)/「草木は」(雪に埋もれて日の目を見ない草木の寂しさを思いやっていてよい。)/「逢へずは」(予想外の解答に驚き。「もし逢えないならば」の意味。すばらしい!!)

②わりなしや 思ふ心の ■■ならば これぞそれとも 見せましものを
               (堀河百首・恋・初恋・一一三六・河内)
  (どうしようもなくつらいことよ。あの人を思う心がもし色であったならば、これがそれですよと見せることもできようものを。) 

元の歌「色」 正解が一人いた。
学生の解答
・「玉」(宝石のことですね。いつか、彼女に宝石を贈るときが来たら、この歌を添えてやるといいと思います。)/「花」(いいですね。どんな花でしょうか?)/「泉」(滾々(こんこん)と湧き出ずる思い。)/「和歌」(これは歌の本質をとらえた解答かもしれません。形のない心(特に恋の思い)に、五七五七七の定型や修辞技巧によって形を与え、他人との心の交流を可能にする道具(ツール)とするところに、古代の和歌の存在理由があったと見られています。)/「水」「涙」(昔、KANの「まゆみ」という曲の最後に、「まゆみ 一番すき透ってて 美しい水って何か知ってるかい まゆみ 恋をして切なくて 我慢して 我慢して こぼれた涙がきっとそうだよ」とあったのを思い出しました。)/「泥沼」(本人注、「思い出す六条御息所の恐怖。矜持が高すぎる故に素直になれず、生き霊に変貌した彼女の思い。→六条御息所は生き霊になる直前に、「袖濡るるこひぢ(「恋路」と「泥(こひぢ)」を掛ける)とかつは知りながら下り立つ田子(たご)のみづからぞ憂き」という歌を詠んでいます。年甲斐もなく若い男に夢中になり恋愛の泥沼にはまった自分を、技巧を凝らしつつ自虐的に詠んだコワイ歌です。)

③わくらばに 恋しき人に 逢ふと見る うれしき夢は ■■■■■■■
              (堀河百首・雑・夢・一五四〇・源師頼)
  (たまたま恋しい人に逢うと見る嬉しい夢は覚めずにいてほしい。)

元の歌「覚めずもあらなむ」
学生の解答
・「覚めてくれるな」(ほぼ正解。)/「正夢になれ」(気持ち、分かる。)/「せつなの幻」(本人注、「刹那」に「切なし」を掛ける。)/「明日への活力」(本人注、「恋してなきゃ生きていけない系人間の心情」→いますね、こういう人。)/「けっこうすごい」(本人注、「少しえっちな夢が多い気がする。統計学的に。」→男子が喜びそうな報告だな…。)/「現実ならず」(以前、私が見た夢。好きな人に夢の中で会っていて、「これ、夢じゃないよね?」「こうして会ってるじゃない。(笑)」……夢だった。(泣))


感想
②は、「恋する心」は目に見えず手にとることもできないため、逆に形のある「モノ」を答える問題なのだが、自分が相手を思う気持ちを何にたとえるかで、その恋とどう向き合っているかが伝わる。学生たちの答えを見ていて、「最近の若者」に少し安心した。思う人にうまく気持ちを伝えられなくて、悶々としている者も結構いるのだと。

③の、恋しい人にせめて夢の中でだけでも逢いたいという気持ちへの様々な解答も、時代は変わっても存外人間の心情は変わらないものだと分かって興味深かった。

就職は

2017-12-07 21:47:08 | 日記
『百人一首』の講座で毎回行っている穴埋め短歌。
次回からは「穴埋め和歌」になるので、短歌での出題は今回が最後。

①朝の道 「おはよ! 元気?」と 尋ねられ ■■■■■■■ 四月一日

元の歌「もう嘘ついた」 
学生の解答
・「るのを夢見た」(まさかの夢オチ+句またがり、お見事です。)/「いやもう夜や!!」(関西ノリ(笑)。)

②履歴書に ■■■■■■■ ■■■■と 進路指導の 先生は言う

元の歌「濁った嘘を 連ねよ」
学生の解答
・「テンプレ写すな やめとけ」(指導する側としては、こう言いたくなる。)/「自己アピールは 二割増し」(就活では、謙譲は必ずしも美徳ならず。)/「バカ正直に 書くなよ」(自分を採用すればどんなメリットがあるかを示すのが正しい。)/「全力の美文字 したためよ」(自分史上、最高の美文字で。)/「書けない君の よさがある」(物は言い様。)/「英検5級は 書けない」(3級でも恥ずかしい…。)

③就職は ■■■■■■■ ■■■■■ ■■■■■■と 交わす約束

元の歌「数十年後も 生きていて 働きます」
学生の解答
・「自分を一から 見直して 成長する」(いい意味で自分をいったんリセットして、その企業の色に染まるのです。)/「3年間は やめないと 未来の自分」(新卒の三年離職率は三割を超えるそうで。)/「君を追うから それまでは 別れずいよう」(彼女が先に就職、彼氏は進学、というパターンでしょうか。)/「したら負けだと 思ってる 魂友(ソウルメイト)」(「妥協して就職しても何になる?」わが友親のスネかじり言う お粗末。)/「地元でしようね? うんわかった。 絶対だよ?」(本人注、どうせ別れるのに…。→確かに別れる可能性大なパターンです。)/「都会に行く君 残る僕 染まらないで」(太田裕美の名曲「木綿のハンカチーフ」を思い出しました。)


今回の出題は、来年就職・進学を控えた受講者の学生たちが②③でどう表現するかに関心があったが、予想以上に面白い解答が多くて驚いた。やはり、学生にとっては、非常に切実な問題なのだなあと思う。

今回の歌はすべて、「セーラー服の歌人」・鳥居の歌集『キリンの子』から選んだ。

鳥居さんは幼い頃に両親が離婚、引き取った母親も自殺したため、祖母の家、児童養護施設、精神病院などを転々として育ち、義務教育は形の上でしか卒業していない。
施設では虐待に遭い、小中学校とも不登校になった。文字も、拾った新聞で覚えたという。その過酷な人生経験から、複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)となり、常に不安と緊張と戦っているため、副作用に苦しみながらも薬を服用しなければならない日常を送っていいる。就業にもドクターストップがかかるほどであるが、短歌との出会いを通じて自分を表現することの素晴らしさを知り、作歌活動を続けている。

その後、鳥居歌集『キリンの子』は私の研究室の前の本棚に置いていつでも手に取ってもらえるようにし、彼女のTwitter(「セーラー服の歌人《 鳥居 》キリンの子 (@torii0515) | Twitter」)も授業で学生に紹介した。
若者には、色々な形で短歌に触れ、表現することの大切さ、楽しさを知ってもらえたらと思っている。