夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

たやすみなさい

2020-08-20 23:53:58 | 短歌
今年も毎回、近代短歌の授業で実施している「穴埋め短歌」、今回は岡野大嗣の歌集『たやすみなさい』(書肆侃侃房)からの出題。

アイスだけ 買うつもりだった スーパーの 帰りに■■■■■■■■■■
元の歌「猫にやるかつおぶし」 

学生の解答 (カッコ内は私のコメント)
・「たこ焼きの誘惑に負ける」(スーパーの店先に屋台が出てるとつい…。)
・「あらら衝動買いを」(「あらら」、という感動詞のはまり方が絶妙。)
・「見かけた僕の元カノ」(私は以前、このシチュエーションを経験したことがある。)
・「寄った懐かしい母校」(そして、昔の懐かしい思い出に浸りに母校に立ち寄った。)

好きだった 曲を好きなまま 歳とって ■■■■■■■ ■■■■■■■
元の歌「おんなじ歌詞に なんどでも泣く」 

学生の解答
・「同期に言われた 中学生か」(尾崎豊を聴いていたと見た。)
・「記憶の中も 今も独り身」(サザンの「Ya Ya(あの時代 (とき)を忘れない)」を聴いていたと見た。)
・「気付けばその歌 懐メロだった」(中身は変わらないまま、歳だけとっていることを思い知らされる。)
・「時代遅れと 娘に言われる」(かつて一世を風靡したTKサウンドも今や…。)
・「歌い出したが 歌詞が出て来ず」(老化現象。)
・「聴く度想う 初恋の人」(村下孝蔵「初恋」を聴く度、私もそんな感じになる。)
・「更新されない カラオケの十八番」(逆にこれが正解。無理に若者の歌を歌おうとするおっさんはカッコ悪い。)

赤ちゃんが マスクの僕を じっと見る ■■■■■■■ ■■■■■■■
元の歌「できるだけ目で 笑ってあげる」 

学生の解答
・「隠れてるけど 笑顔を作る」(元の歌と同じような発想です。)
・「目だけでいない いないばぁした」(句またがりの使い方がうまい。)
・「澄んだ瞳に 吸い込まれそう」(お願いだ、そんな無垢な目で見つめないでくれ。汚れっちまったオレを。)
・「僕がパパなんだ 信じてくれよ」(むっちゃ警戒されとる。(笑))

感想 
岡野大嗣(おかの・だいじ)は1980年生まれ、大阪府豊中市在住の歌人で、主にインターネット上で活動しているそうである。
歌集のタイトル「たやすみなさい」は作者の造語で、
  たやすみ、は自分のためのおやすみで「たやすく眠れますように」の意
という歌が、本の最初に出てくる。
私も、眠られぬ夜を過ごすことはあるので、この祈るような気分はとてもよく分かる。

岡野さんの歌は、「この気持ち、この状況、わかる…。」といちいち共感できることばかりで、学生たちにもきっとすんなり受け入れられると思っていた。
彼らの解答を見ながら、私以上に岡野ワールドで想像の羽を広げて楽しんでいる姿が伝わり、嬉しくなった。

歌合 下

2016-09-07 22:21:34 | 短歌
小休憩の間に、各班の班長に前に出てきてもらい、対戦相手を決めるあみだくじを引かせる。
8班まであるので、歌合の対戦は4組で、各組が紅白に分かれて歌の優劣を競う。
自分たちの代表歌をアピールするプレゼンは、黒板を使ってもよいこととし、黒板を左右に二分割し、紅・白それぞれのスペースに、3分間で歌と、説明に必要であれば絵や図、言葉などを書かせる。

その後、各班2人ずつが前に出て、紅組・白組の順に、それぞれ3分間でプレゼンを行い、終了後、どちらの歌のプレゼンがよかったか、会場(当該班以外の学生全体をこう呼ぶ)に挙手でジャッジしてもらった。

もともとこの授業に出ている学生はみな優秀なので、仕掛けさえよければ後は自分たちで積極的に取り組んで楽しんでくれ、私はただ進行役さえしていればよい状態であった。(その代わり事前の準備は大変だったが。)
大盛り上がりだったので、私は授業の記録用に写真機だけ持ってきて、ビデオカメラを用意するのを忘れたことを悔やんだ。

学生たちが自分たちの代表歌の良さをアピールする言葉は、まさに流れるごとしで、メモを取る手も追いつかず、途中からあきらめてただその説明に耳を傾けることにだけ専念することにした。

面白かったのは、歌の詠まれた状況や、伝えたかった心情を説明するだけでなく、それを表現するのに直喩を用いていますよ、オノマトペを使ってみました、リズムを意識したなどと、表現上の工夫を主張する発表がいくつかあったことだ。
たとえば、

  友達といるのにあの子スマホ見て気づいてあげてさびしげな顔

は、自分が偶然目にした光景から浮かんだ思いをそのまま言葉で写し取った印象になるように言葉を配置し、三句、四句で細かく切れてリズムを生む効果を狙った、とのことだった。
これは授業の中で、短歌のルールや表現技法について学習させていたことが生きたという感じがした。

次に興味深かったのは、勝敗は必ずしも歌のよしあしが決め手になるとは限らないことだ。
たとえば、

  告白する勇気の持てない君の背をそっと押すのが君との友情

という歌は、一見、歌の作者と「君」は男同士に見える。しかし実は「君」は女友達、しかも歌の作者はその女友達に恋心を抱いており、その気持ちを隠して、別の男に告白する彼女の背を押してやる、という切ない歌だった。
この歌を詠むに至った入り組んだ事情を、図を使いながらわかりやすく、興味を引くように説明したこの班のプレゼンは、圧倒的な評価を得た。

最後に、プレゼンでは内容の良さはもちろんだが、ユーモアも大切な要素だなあということを強く感じた。

  ケータイが洗濯機から出てきたよ汚れと一緒にデータもデリート

という歌の説明では、発表者が自分の「悲劇的な」体験を面白おかしく語ってくれたので、満場の笑いを誘っていた。

こんなわけで、学生に現代短歌版の歌合をさせてみて、短歌の国語教育における可能性を強く感じた。創作、鑑賞・批評を学び楽しむだけでなく、表現力を高め相互交流のツールにもなる短歌を、来年度もまた授業で取り上げてみたいと思っている。

歌合 上

2016-09-02 21:46:14 | 短歌
7月に松江で、現代歌人集会春季大会があったとき、懇親会で知り合った方に、短歌の授業をしている話をしたら、
「学生に創作だけでなく、ぜひ歌合もやらせてみてください。私たちの結社では、歌合もしていますよ。」
と勧められた。

確かに、短歌において創作と鑑賞・批評は車の両輪であり、他人の歌を評価する立場を経験することで、自分の短歌創作のあり方も変わってくることは、私も経験している。
そこで、最後の短歌の授業では、歌合をすると学生に予告し、そのための準備を調えて当日に臨んだ。

学生が中間試験で創作した短歌2首を、氏名を伏せて班ごとに初句五十音順に配列した詠草プリントと、「歌合準備シート」を作成し、授業の初めに学生に配布。
その後、班ごとに自分たちの班の代表歌一首を選出してもらい、次にプレゼンの準備をさせる。
「準備シート」に書き込む形で、歌の意味、この歌がどんな状況・心情を詠んだものかの説明を考え、さらに、自分たちの班がなぜこの歌を選んだのか、この歌はどんなところが素晴らしいのか、魅力的なアピールの仕方を考えてもらった。


ここまでが授業の前半で、小休憩をとってから、歌合をすることにした。
その報告はまた次回に。

続 月次の会・八月

2016-08-29 22:04:08 | 短歌
今回の月次の会も詠草のみの参加。
当日は夕方から夜にかけて、岡山は大雨となったため、電車が不通となって先生が来られず、歌会の詠歌は、先生のお宅へFAXを送って添削していただいたとのこと。

(提出歌)
  望月の照らせる庭に夕顔の花は揺れをり風にあふられ
(添削後)
 望月の光に濡れて夕顔の花が揺れをり風のあるらし

(提出歌)
  群青の夏の夜空を見上ぐれば望月ひとつわが前にあり
(添削後)
  いまだ青き夏の夜空を見上ぐれば望月皓(かう)とわが前にあり

一昨日、用事で歌会の方と電話で話したときに言われたのだが、この一首目の歌が、先生の添削で格調高くなったと、みなさん感心しきりだったそうだ。
確かに、添削後はまるで別の作品で、夕顔で歌を詠むならかくあれかし、という先生の叱咤の声が聞こえてきたような気がした。

二首目も、先生が第四句で「望月皓と」と、夏にもかかわらず白く冷たい光を放つ月のさまを描く表現にしてくださったことで、歌に生命が宿ったように思う。
詠むべき対象の美的本性をそれにふさわしい表現で詠むこと、歌に必ず眼目をつくること、分かっていてもなかなか難しく、だからこそ歌の精神や姿勢を伝授してくださる師が必要なのだと改めて思った。

なぜか気になる

2016-07-08 23:37:27 | 短歌
先日の短歌講座のとき、毎回小テストで行っている穴埋め短歌に、

  青春と いう字を書いて ■■■■■ ■■■■■■■ なぜか気になる

という歌を出題した。
俵万智『サラダ記念日』の歌で、元歌の第三~四句は「横線の多いことのみ」である。

ここにどんな言葉が入るか、学生に考えさせたら、なかなか面白い解答が次々に出てきた。
(読者のみなさんも、ちょっと考えてみてください。)


「本棚の 古い日記が」
「空を見る 雲の行方が」
「すぐに消す 何で書いたか」

というように、この歌の主人公の心情を想像して書いたものが多かったが、若干名、元歌と同じように、文字面に着目して答えたものがあった。

「見てみると 日と月があるのが」
「月と日が 隣り合わせで」

もよかったが、

「こっそりといる 三月三日が」

という解答には、思わず噴き出してしまった。 

なるほど、「青春」という字をよく見ると、「三月三日」が隠れている。
この解答は、授業のときにみんなの前で紹介し、着眼点の面白さで俵万智を超えた、と絶賛してしまった。