夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

除夜

2012-12-31 23:08:06 | 日記



私にとっては今日が仕事納め。

いちおう公式には3日前の28日に終わったことになっているのだが、新学期早々に実力テストがあったり、模試の案内やら毎朝の小テストの予定表やらを始業式に配布しないといけないので、気になる雑用は今年のうちに済ませておこうと思い、夕方までかかってやっつけた。

今日は一日、冷たい風が強く吹きつけ、日中も少しも温かくならなかったが、そのせいで大気が澄み、車で帰る途中は、美しい夕焼けが見られた。そのまま思い立って、岡山市街北の半田山(150㍍)麓にある法界院へ。

除夜の鐘をつくのは11時半かららしいが、今のうちにお詣りをすませておこう。
境内にはまだ誰もおらず、心静かにお祈りすることができた。

寺の敷地内に佇んでいると、今年あった様々な出来事が頭の中をよぎっていく。大きかったのはやはり、祖母が亡くなったこと。幼い頃からかわいがってもらっただけに、改めて冥福を祈った。

(2番目は内緒です。)

学会誌に論文を投稿して採用していただいたこと。院生時代からご迷惑ばかりおかけしていた恩師に、やっと喜びのご報告ができた。

春休みに父母と四国旅行に行ったこと。道後温泉やこんぴらさんに一緒に訪れることができたのは嬉しかった。

ブログを始めたこと。今はとても便利なものができたと思う。そのおかげで、遠く離れた家族や友人たちにも、自分の近況を伝えたりすることができる。

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を母と見に行ったこと。8年前に神戸で「画家のアトリエ」を見て以来、4年前の東京都美術館でのフェルメール展、昨年渋谷で「地理学者」、京都で「フェルメールからのラブレター」展などを見てきたので、今回は絶対外したくない気持ちがあった。一生一度かもしれない経験ができた幸運を思う。

今春の入試で多くの生徒を合格させることができたこと。自分の全知全能を発揮して、サンクフル・ジョブができた喜びというのは、何にも代え難い。特に私が直接指導した生徒たちは、よくついてきてくれた。(大学生となった彼らは今頃、どんな大晦日を過ごしているかな?)

一方で、仕事と勉強のバランスがうまくとれず、学会・例会には多めに参加するようにしたが、本を読んだり調べたりという時間があまりとれなかった。また、教科教育の研修には出たけれど、教育用の情報機器の使い方を積極的に学んだりはしなかったし、研究授業できちんと学習指導案を作れなかった。また、もう若くはないことを自覚しながら、睡眠・食事・運動に気を遣うことができていない。このあたりは、来年の課題とする。



もうしばらくすると、澄み切った冬の夜空に、除夜の鐘が響いてくるだろう。

  百八つの迷ひ悩みをかぞへつつ二年(ふたとせ)かけて過ぐす夜半かな
  もろ人の闇路に深き迷ひをばみなつきねとて鐘ぞ打つなる
  月さゆる空に響ける鐘の音に今年かぎりの夜半ぞふけゆく

それではみなさん、よいお年を。

日本酒紀行(1) 洗心・くどき上手

2012-12-30 20:08:43 | 日本酒紀行



昨夜、中央郵便局に、ゆうぱっくを取りに行ったついでに、近くのよく行くうどん屋で夕食をとった。
ここはうどん屋だが、居酒屋的な使い方もできる。

いつものようにカウンターに座り、お勧めの日本酒はないかと尋ねると、お店の店長(ちなみに短髪が似合うイケメン)が「洗心 純米大吟醸」というお酒を取っておいてくれていた。

「久保田」で有名な朝日酒造(新潟・長岡)が作っているお酒で、なかなかの値段らしい。「お店で買ってお出しするとなると高くついてしまうので、私のポケットマネーで買って、常連の日本酒の好きなお客さんにだけ、少しずつ飲んでいただいているんですよ」とのことだった。常連というほどでもないのに悪いなあ。でもいただくけど。

精米歩合28%ということで、実物も見せてもらったが、もとのお米の7割も削って、ほとんど芯の部分しか残っていない。これだけ磨いて醸した酒なので、雑味がなくきれいな味だった。口に含むと、ふわりとした口当たりで、日本酒特有のあの、のどに引っかかる感じがまったくない。穏やかな酔い心地は、まさに官能的である。…ちなみに、これをお店で飲むと、知らぬ間にくいくい飲んでしまい、御勘定を見てびっくり、ということに相成るらしい。

お猪口一杯分をありがたく頂戴した後で勧められたのが、「くどき上手 無濾過しぼりたて 純米大吟醸」。なんでも、コアな日本酒ファンの、ある常連さんが最近気に入っていて、いつも燗で飲んでいるお酒だそうだ。「ばくれん」を作っている亀の井酒造(山形・鶴岡)、「くどき上手」の名前は知っていたが、飲むのは初めて。

「超辛口ですよ」と言われたが、燗映えする酒で、熱燗にピッタリだった。香りのよいお酒だが、酸味が心地よく、アテに出してもらった天ぷら料理ともよく合う。

日本酒は好きだけれど、酔うほどは飲まないし(日本酒はハードリカーなので、「今日は酔っ払っても構わない」という覚悟のある時以外は敬遠するようになった)、少しだけど飲みたいという希望をかなえてくれる店なので、私にはありがたい存在である。

今年観た映画から(2)

2012-12-29 00:21:55 | 映画
さて、今年のベスト5を選ぶとすると、1位はやっぱり『ワン・デイ~23年のラブストーリー~』かな。

雑誌などでの評価はあまり高くなかったけれど、今の自分の興味関心には合っていたので、2度も見に行ってしまった。エジンバラの美しい風景、セリフの面白さ、主役2人を初めとする配役と演技のよさ、細かいところまでその時代を再現した舞台設定(ファッション、インテリア、音楽など…)を作り込んでいることなど、単なる恋愛ものに終わらない映画だったと思う。



お互いに好きなはずなのに、大学卒業から20年もすれ違い続けてようやく結ばれて、というやきもきさせる話だった。映画では1988年から2011年まで23年間の、2人の7月15日を毎年律儀に追っていくので、どうしても間延びした感じが否めないのだが、そのあたりはたぶん原作に忠実に脚本を作っているのだろう。パリでの場面で、なぜエマが今彼を捨ててデクスターを選ぶのかがわかりにくいとか、エマに訪れる悲劇がやりきれないとか、不満ももちろんあるけれど、現在の邦画ではなかなかこういう、しっかり作られた作品がないように思う。

以下、2位は『アンネの追憶』。少女を見舞った境遇の変転と、あまりの運命の苛酷さは、涙なしには見られなかった。しかし、人間はどんな絶望的な状況にあっても、希望を持ちうることには感動したし、人は死んでも、書かれたものを通して永遠に生き続けることもあるということに勇気を与えられた。私も強制収容所に入れられて、人間の尊厳も認められない扱いを受けるばかりか、鉛筆とノートもなく、書くことができない生活を送らされれば、死ぬよりつらい思いをするだろう。事務員のミープが言った、「アンネは日記の中に生きています」という言葉が印象的だった。アンネにとっては、現実に生きている日常生活での不全感の代償として、日記を書くという行為があり、言葉の世界で自分の魂を解放させ、より十全に生きていたのだろうという気がする。単なる反戦の映画ではなく、戦争とは、善悪とは、人間とは…といった本質的な問いを考えさせる作品だったと思う。

残りの3作品は、順位など関係なく(やはり、格付けは苦手だ)、まず『サニー 永遠の仲間たち』。鈴木杏さんが「今年1番のお勧め」と言っていたが、女子校時代のおバカな仲間たちが巻き起こす騒動に大笑いして、現在の彼女たちの境遇との落差に身につまされたりして、でも今ではおばさんになった彼女たちのしたたかなパワーに元気をもらえる。ヒロインが、昔の失恋した自分を抱きしめてやりたくなるところなどは、思わずホロッときた。

『ファミリー・ツリー』は見ていて何度も泣いた。人生には悲しいことも、つらく理不尽なことも多いけれど、真剣にそれらと顔つきあわせ、向かい合っていけば、人生は生きるに値するとわかってくるということが、じわじわと伝わってくる。『幸せへのキセキ』は、今でもタイトルがどうかと思うし、ご都合主義的な展開という感は否めないが、最後のシーンで、主人公のベンが子どもたちに、「お父さんとお母さんは、ここでこうして出会ったんだよ」と話してやっているところがとてもよかったので、お勧めに加えたい。
この2作も、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」も、母(父)の死とその後の家族の絆の再生というテーマが共通していた。今年はそういうものが求められていたということだろうか?


というわけで、お気に入り映画というにはあまりにも地味なラインアップとなってしまったが(普通、「アヴェンジャーズ」とか「テルマエ・ロマエ」とか「るろ剣」を挙げる人が多いのだろうな。授業中の雑談で時々映画の話もするのだが、生徒からは「マニアックなジャンル」と認識されている)、来年もまたよい映画に出会えることを期待している。


今年観た映画から(1)

2012-12-28 22:54:52 | 映画
評論家もすなる番付けといふものを、ど素人もしてみむとてするなり。

まず、準備作業として、今年観た映画から、☆(とてもよかった)、☆☆(すごくよかった)ものをノミネート。評価は完全に私個人の主観なので、そういう目で見ていただければ。

1月 『けいおん!』(☆)
2月 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(☆)
3月 『サラの鍵』(☆☆) 『マリリン 7日間の恋』(☆)
4月 『アーティスト』(☆) 『ブライズメイズ』(☆) 『マーガレット・サッチャー』(☆) 『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(☆☆)
5月 『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言』(☆)
6月 『ファミリー・ツリー』(☆☆) 『ミッドナイト・イン・パリ』(☆☆) 『幸せへのキセキ』(☆☆)
7月 『サニー 永遠の仲間たち』(☆☆) 『アンネの追憶』(☆☆) 『ル・アーブルの靴みがき』(☆) 『ブラック・ブレッド』(☆)
8月 『ロボット』(☆) 『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』(☆☆) 『ワン・デイ~23年のラブストーリー~』(☆☆) 『ジェーン・エア』(☆)
9月 『おおかみこどものあめとゆき』(☆) 『ベティ・ブルー』(☆☆)
10月 『オレンジと太陽』(☆)
11月 ……忙しくて1本も観に行けなかった(涙)……
12月 『コッホ先生と僕らの革命』(☆)

ほとんど記憶に頼って書いているので、観た月が前後したり、タイトルが多少違うかも知れないが、ご容赦を。

こうして書き出していくと、観たいと思いながら見逃した映画が、今になって悔やまれる。
『ゴーストライター』『少年と自転車』『ザ・マペッツ』『別離』『夢売るふたり』『トガニ』『テイク・ディス・ワルツ』『星の旅人たち』『人生の特等席』etc……。
逃がした魚は大きく感じられるというが、その通りだ。

また、今年観たのは洋画が多く、もっと邦画にも目を向けておけばよかったと思った。

…今日はもう遅くなってしまったので、続きはまた明日。

夕暮の月

2012-12-27 22:47:18 | 日記



今朝はとても冷え込みが厳しく、出勤するときの外気温は-2℃(!)。
職場の先生が、明け方の寒さで目が覚めてしまい、そのまま眠れなかったとこぼしていた。
よく晴れていたので、日中はやや暖かかったものの、夕方から冷たい風が吹き始めた。
空気が澄んでいるせいか、今日は夕焼けの美しさがひときわ身にしみるように感じられた。

夕方、まだ残って勉強している生徒の様子を見に、教室に行くと、窓から山の端にのぼったばかりの月が、残照の空に浮かんでいるのが見えた。思わずカメラを持ってきて、写真に撮ってしまった。(こういうとき、生徒は何も言わずに放っておいてくれる)。岡山は、市街地から近いところでも、自然が豊かでいいところだと思う。



夕暮れの時分に、山の端にかかる月を見ていると、なぜか物思いを誘われてしまう。

  夕暮にしのぶるとしもなけれども昔おぼゆる山の端の月