今回の『百人一首』講座は、権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)の、
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬瀬(せぜ)のあじろ木
の歌について。
この歌は、『千載和歌集』冬では、「宇治にまかりて侍りけるときよめる」という詞書で採られている。
夜明け方、空がほのかに明るくなるにつれて、宇治川のほとりにたちこめた霧が次第に晴れていき、霧の間から途切れ途切れに、川瀬にかけられた網代(氷魚(ひお=鮎の稚魚)を捕る仕掛け)が姿を見せはじめた…。
先生は、この歌はあっさりしてなかなかよい歌だと評価しておられた。「非常に有名な歌だが、単なる叙景歌と見ても、また、そこにこめられた意味があると見てもよい。」
この歌は、『百人一首』の諸注で、定家が『源氏物語』の宇治十帖の世界と重ねて享受していることが指摘されているが、先生は、作者の定頼にそこまでの意図があったかはわからないにせよ、やはり宇治十帖との関わりも考えてみたくなると言われていた。
先生は、『源氏物語』の登場人物では、特に浮舟に興味があるようで、
「浮舟という女性はすごい。紫式部の創作ではあるけれど、〈性の地獄〉のような愛欲の世界が描かれている。そうしたテーマは、近代小説になればいくらでもあるが、この時代には他にない。」
と言われていた。
「朝ぼらけ」の歌の本歌といわれる、柿本人麻呂の、
もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへしらずも(万葉集・巻三)
についても、これも名歌だと絶賛していた。
先生は、宇治という土地が『源氏物語』の悲恋の舞台となったことや、藤原頼通によって極楽浄土を模して創建された平等院のこと、また源三位頼政が以仁王の令旨を得て平氏討滅のため挙兵しようとしたが、事が漏れて宇治平等院の戦いで敗死したことなどを語り、ご自身が平等院を訪れたときの思い出なども話しておられた。「今は修復でごちゃごちゃした感じになったが、昔はシンプルでよかった」そうだ。
歌会の話題については、また次回に。
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬瀬(せぜ)のあじろ木
の歌について。
この歌は、『千載和歌集』冬では、「宇治にまかりて侍りけるときよめる」という詞書で採られている。
夜明け方、空がほのかに明るくなるにつれて、宇治川のほとりにたちこめた霧が次第に晴れていき、霧の間から途切れ途切れに、川瀬にかけられた網代(氷魚(ひお=鮎の稚魚)を捕る仕掛け)が姿を見せはじめた…。
先生は、この歌はあっさりしてなかなかよい歌だと評価しておられた。「非常に有名な歌だが、単なる叙景歌と見ても、また、そこにこめられた意味があると見てもよい。」
この歌は、『百人一首』の諸注で、定家が『源氏物語』の宇治十帖の世界と重ねて享受していることが指摘されているが、先生は、作者の定頼にそこまでの意図があったかはわからないにせよ、やはり宇治十帖との関わりも考えてみたくなると言われていた。
先生は、『源氏物語』の登場人物では、特に浮舟に興味があるようで、
「浮舟という女性はすごい。紫式部の創作ではあるけれど、〈性の地獄〉のような愛欲の世界が描かれている。そうしたテーマは、近代小説になればいくらでもあるが、この時代には他にない。」
と言われていた。
「朝ぼらけ」の歌の本歌といわれる、柿本人麻呂の、
もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへしらずも(万葉集・巻三)
についても、これも名歌だと絶賛していた。
先生は、宇治という土地が『源氏物語』の悲恋の舞台となったことや、藤原頼通によって極楽浄土を模して創建された平等院のこと、また源三位頼政が以仁王の令旨を得て平氏討滅のため挙兵しようとしたが、事が漏れて宇治平等院の戦いで敗死したことなどを語り、ご自身が平等院を訪れたときの思い出なども話しておられた。「今は修復でごちゃごちゃした感じになったが、昔はシンプルでよかった」そうだ。
歌会の話題については、また次回に。