それでは、今年度のマイ・ベスト5作品の紹介。
1位はやはり、『あの頃、君を追いかけた』かな。
高校生の頃の、懐かしい感覚が一気に蘇った。
映画が始まって最初の20分くらいは、お下劣なシーンも多く辟易したのだが、短気を起こして席を立たなくてよかった。
青春時代は、決して輝くような思い出ばかりでなく、恥や後悔、自己嫌悪と共に振り返るような記憶もいっぱいある。
でも、この映画を見終わった後では、それらすべてを含めて、自分の昔の出来事たちを抱きしめてやりたくなるような思いに駆られる。
映画の最後の方に、コートンが妄想の中で花嫁姿のチアイーとキスするシーンがある。
それと共に、お互いの伝わらなかった思い、届かなかった言葉、実現していたかもしれないはずの過去が、次々に背景に流れる。
もし、過去にこれらが現実になっていたら、今二人は…などと考えるのは詮無いこと。
人間は常に、今の自分の現実をそれぞれ一生懸命に生きていくしかないのだ。
2位の『渾身 KON-SHIN』は、主演の伊藤歩の演技がすばらしかったのと、隠岐の雄大な自然、島の人々の生活や文化がよく描かれていたので、ぜひともお勧めしたい。
以前も書いたと思うが、日本人の心の琴線に触れる映画で、こんな良心的な作品を世に出してくれた方々に感謝している。
3位は、『百年の時計』。老芸術家のかつての道ならぬ恋が明らかになっていく中で、近代日本の歩みが郷愁とともに振り返られ、一方、現代アートとは何かという問題が正面から問われている。私の好きな高松の街や「ことでん」の魅力も伝えられており、見所の多い映画だった。
4位の『アンコール!!』は、テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴというイギリスの二大名優の演技もさることながら、脚本が優れていることを感じた。映画の中で歌われる「トゥルー・カラーズ」や「ララバイ」というかつての名曲の歌詞が、主人公たちの置かれた状況や心情にぴったり。改めて、歌や合唱はいいなあと思わせられる。
誰にも避けられない老いや死とどう向かい合うか、という問題は、それぞれが答えを見つけるしかないけれど、この映画は見終わった後で、明るい希望をわれわれの胸の中に残していってくれる。
5位は、『旅立ちの島唄~十五の春~』。
沖縄本島から360㎞も東の南大東島を舞台に、島を愛しその風土と共に生きる人々の姿だけでなく、離島暮らしの厳しい現実や悲哀も伝わってきた。
主演の三吉彩花は、島唄や三線(さんしん)は初めての経験だったが、指導した地元の民謡教室の先生も驚くほど上達が早かったそうで、映画の最後に「アバヨーイ」を歌う場面は涙を誘われた。
両親役の小林薫・大竹しのぶの演技も、余人をもって代え難いと思うほど、その役を生きており、新人の三吉彩花をしっかりと支えていたように思う。
今年も昨年同様、見逃して悔しい作品も多々あるけれど、期待以上に素晴らしい作品にもたくさん出会えた。
特に今年は、邦画に佳作が多かったように思われるのが嬉しい。
来年もまた、よい映画とのめぐり逢いがありますように。