夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

丸谷才一さんのこと

2012-10-16 21:26:38 | 日記
一昨日実家にいるときに、新聞で、小説家・批評家の丸谷才一さんの訃報に接した。母親が、「この丸谷才一さんて、おまえの好きな作家じゃなかったっけ?」と話しかけてくれたが、私は「うん…。」と言ったまま、次の言葉が出てこなかった。

私が丸谷さんの文章を読むようになってから、二十年以上にもなる。尊敬する予備校の先生から勧められて、最初に読んだのが、写真の『日本語のために』だった。戦後の国語国字改革がいかに無思慮な蛮行であったか、国語教育や大学入試問題の批判すべき点、国語の問題はそのまま一国の文化と国民精神の問題であるため、ゆるがせにしてはならないこと、などを大学に入る前に教わったことの意義は大きい。

丸谷さんといえば、一般にはまず小説家として知られ、『女ざかり』(1993)はベストセラーにもなり、吉永小百合主演で映画化(1994)もされている。小説・評論・エッセイ・対談・翻訳などの著書・訳書多数で、近年は文壇の大御所的存在であった。私は丸谷さんの文章の妙と博学ぶり、文学や学問に対する情熱に惹かれて次々にその著作を読んでいった。そして、彼を通して、日本語や日本古典文学への目を開かれていくことになった。

高校の頃からもともと、国語より英語の方が成績がよかった私が国文科を選んだのも、後年、大学院で研究テーマを後鳥羽院の和歌にしたのも、彼を尊敬し、その文章や文体に惹かれていたからだと思う。写真の『後鳥羽院』(1973)は、読売文学賞を受賞した評論で、私はこの本によって、和歌への関心を抱くようになった。

私の人生の節目節目の決定に、大きな影響を与えていただいていたことを思うと、お会いしたことはないけれど、言い尽くせぬ感謝の念がこみ上げてくる。ご冥福をお祈りします。