元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「真夜中の虹」

2016-03-14 06:26:21 | 映画の感想(ま行)
 (原題:ARIEL )88年フィンランド作品。アキ・カウリスマキ監督のストイックな作風が如実に出た映画だ。もっとも近年は少しはテイストを変えてきている同監督だが、その原点を確認する上で要チェックの映画だし、何より観ていて面白い。

 住所不定で無職の中年男カスリネンに唯一残された財産は、亡き父が遺したキャデラックだけだった。その車に乗って彼はヘルシンキへ向かうが、途中のドライヴ・インで有り金を奪われてしまう。窮状を救ってくれたのは婦人警官のイルメリで、カスリネンは彼女とその息子リキと仲良くなる。それでも生活に困っていることには変わりなく、キャデラックまで売ってしまうが、偶然金を奪った犯人を見つけて揉み合いになる。だが逆に警官に逮捕されて収監される。それでもめげない彼は、同室のミッコネンと協力して脱獄。一度は手放した車を取り戻し、イルメリとリキを同乗させて南を目指す。



 とにかく、登場人物全員が無愛想で無口であるのには驚く。彼らの生い立ちも現在の生活も、決して恵まれてはおらず、もちろん笑顔なんかは見せない。皆、北欧の厳しい寒さの中にあって、口を開くのも億劫だと言わんばかりだ。

 しかし、これは決して暗い映画ではないのである。人と人との触れ合い、諦念と希望が入り交じった複雑な心情が横溢し、かなり饒舌なドラマ運びだと見ることも出来る。ただ、向こう受けを狙ったハリウッド大作の“明るさ”とは表現が対極にあるだけだ。74分という短い上映時間の中で、必要最小限のモチーフだけを練り上げられた形で提示する。しかも、ロードムービーと犯罪ドラマという娯楽映画の定番も押さえている。これはまさしく“プロの仕事”であろう。

 主演のトゥロ・パヤラはカウリスマキ映画にふさわしい強面で、不器用な主人公像を上手く表現していた。イルメリに扮するスサンナ・ハーヴィストも、まるで色気も愛想も無いが、何とも言えない人の良さがにじみ出ている妙演だ。原題の“アリエル”とは、主人公達が終盤に乗り込む船の名前だ。フィンランドを離れて新天地を目指す彼らの未来に幸多かれと願わずにはいられない。
コメント
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