元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「私は二歳」

2016-03-01 06:29:53 | 映画の感想(わ行)
 昭和37年大映作品。原作は松田道雄による育児書だが、これを良く出来たホームコメディに仕立て上げた和田夏十の脚色と市川崑の演出に手腕に感服する一編。鑑賞後の満足感も高い。

 都内の団地に住む若夫婦、五郎と千代の間に一人息子の太郎が生まれる。両親は太郎を育てるのに毎日大わらわで、太郎が笑ったといっては喜び、歩いたといっては歓声をあげる。一方で、勝手に団地の階段を這い上がった太郎に肝を冷やす。ある日一家は事情により団地を出て、祖母の住む郊外の平屋に引っ越すことになる。当然のことながら、嫁と姑との間に太郎の育て方に関する確執が発生。さらには父の勤務先のゴタゴタや、それによる母親のいらつきも生じ、気の休まる日は無い。それでも太郎は大人達の言動をクールに見つめ、成長していく。



 育児書を元にしていながら、教条的な部分はほとんど見当たらない。子育ての苦労と、それに付随する幸福感。どんなに時代が移っても変わることがない普遍性を、的確にすくい取る。母親は弱音を吐き、父親はおっちょこちょい。祖母は頑固だ。しかし彼らは自分たちに与えられた環境の中で、精一杯に太郎に尽くそうとする。そんな底抜けの善意が横溢し、家族のあるべき姿をとらえる作者のポジティヴさが嬉しい。

 団地の佇まいや、古い平屋の造形は見事。特に団地の隣近所との関係性を、数人の住人を登場させただけで丸ごと描出してしまう展開は見事だ。時折挿入されるアニメーションも抜群の効果を上げている。

 船越英二と山本富士子、そして浦辺粂子という主要キャストのアンサンブルも見応えがある。山本と浦辺との丁々発止の掛け合い、それに右往左往するチャラい船越の存在感は、観ていて笑いながらも納得してしまう。また映画製作に当たっては森永乳業が協賛しており、劇中に森永牛乳が頻繁に登場。牛乳配達員がヒーロー的な活躍をする場面もあって、実に楽しい。

 なお、山本はこの作品の後、フリーを主張。大映の社長の永田雅一と対立して袂を分かち、それ以来活躍の場を舞台に移し、映画に出られなくなったのは残念だ。何とかまだ元気なうちに銀幕に復帰してほしいものである。
コメント
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