元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パレードへようこそ」

2015-06-13 06:15:20 | 映画の感想(は行)

 (原題:PRIDE )楽しめた。驚きの実話を取り上げつつも単に物珍しさでは無く、イギリス社会の構図の描出はもちろん異なるカルチャーを持つ者達同士でも価値観を共有し連帯出来ることを的確に示し、観た後の満足感はけっこう大きなものがある。

 84年、時のサッチャー政権は炭坑の閉鎖案を打ち出し、これに対して全国の炭鉱労働者達はストライキに突入する。そんな中、ロンドンで権利を訴えてデモ活動していた同性愛者の団体は、政府や警察から圧力を掛けられていた炭鉱の労働組合員を“自分達と同じ立場だ”と思い、勝手に支援の募金を始める。ところが集めた金を送ろうにも、彼らがゲイやレズビアンであることを理由に、各炭坑組合はことごとく拒絶。わずかにウェールズの奥地にある組合事務所が“受付担当者の勘違い”によって申し出を受諾する。

 こうして普段交わるはずもない二つの団体の付き合いが始まるのだが、趣味嗜好はもちろん生活環境も違う双方のメンバーがそう簡単に打ち解けるはずがない。すったもんだの挙句ようやく“共闘”の約束を取り付けた両者は、資金集めのコンサートを企画する。しかし容赦ない当局側の締め付けによって、炭鉱労働者の立場は厳しくなる一方だった。2014年のカンヌ国際映画祭の監督週間でクィア・パルムを受賞、第72回ゴールデングローブ賞の作品賞(ミュージカル/コメディ部門)にもノミネートされた話題作だ。

 当初労働組合がゲイ団体を受け入れなかったのには、同性愛者に対する偏見があったのは間違いない。だがそれ以外に大きく立ち塞がったのは、ウェールズの住民のロンドン市民に対する確執だ。元々この地はイングランドとは別個の国であり、民族も違えば言語も異なる。ロンドンからやってきた得体のしれない連中を最初から温かく迎え入れることは、まず考えにくい。

 しかしながら、そのギャップを乗り越えさせたのが“自分達の権利を守る”という共に相通じる心意気、そして歌とダンスだった。腹を割って話し合えば克服できない障害なんかないと言わんばかりの楽天性は、観ていて気持ちが良い。イングランドとウェールズとを繋ぐ巨大なセヴァーン・ブリッジが、両者の架け橋の象徴のように思える。

 マシュー・ウォーカスの演出は好調。ビル・ナイやイメルダ・スタウントン、ベン・シュネッツァー、パディ・コンシダインといったキャストも芸達者揃いだ。それにしても、サッチャー政権が推進したような新自由主義的な経済政策が現在でも暗い影を落としていることは、まことに憂慮すべき事態だ。経済は需要と供給によって成り立っているという基本事項を捨象し、格差拡大と景気低迷を是認する風潮は、サッチャリズム以後も世界中に蔓延し続けている。
コメント
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