元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「最初の人間」

2013-01-18 06:34:53 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Le Premier Homme)あまりにも淡々としたタッチなので前半は眠気を催してしまったが(笑)、終わってみれば丁寧な佳編であるという印象を持った。ジャンニ・アメリオの演出は以前観た「家の鍵」と同じく、実に丁寧だ。

 アルベール・カミュの未完の遺作の映画化。1957年夏、母に会うためフランスから故郷のアルジェリアのアルジェに帰省した著名な小説家コルムリは、少年時代を回想する。彼が子供だった1910年代は、アルジェリアの独立運動が勃発していた時期だ。

 若くして死んだ父。懸命に働いて彼を育て上げた母。厳格だった祖母。頭は多少弱いが彼を人一倍可愛がってくれた叔父。アルジェリア人の幼馴染み。そして勉学を勧めてくれた恩師。しかし追想に浸る間もなく、アルジェリア戦争前夜のこの時期において、両国にルーツを持つ彼の立場は完全なアウトサイダーでいることを許されない。

 言うまでもなくカミュはアルジェリアの出身で、コルムリは彼の分身である。作家としては名を成したが、故郷を席巻しつつある暴力の嵐の前では無力感を禁じ得ない。アルジェリアの大学で講演した彼は、その言い分が多分に理想主義的だとして非難される。

 だが、それ以外に何が出来るのだろうか。一方の側に立ってアジテーションを試みたところで、思慮の無さを指弾されるだけだ。昔は幼友達だったアルジェリア人のクラスメートは、息子がテロ容疑で逮捕され、苦悩のただ中にいる。それに対してコルムリが出来るのは、せいぜい親子の面会をセッティングさせることぐらいだ。事態の解決には何ら関与できない。

 それでも、母親に対する暴力だけは許さないという姿勢を明確に示すあたりに、この地に生まれた人間としてのプライドと覚悟を垣間見せる。だが、彼の祈りも虚しく、アルジェリアは長い混迷の時代へと突入する。このアルジェリア戦争はフランスにとって今でもタブーであるらしく、この映画も本国では公開されていないという。

 折も折、アルジェリアの天然ガス関連施設で多数の外国人がイスラム武装勢力に拘束されたというニュースが飛び込んできた。犯人グループは隣国マリにおけるフランスの軍事介入の中止を訴えているらしいが、いずれにしても北アフリカの激動の近代史は現在においても暗い影を落としていると言えよう。主演のジャック・ガンブランをはじめ、キャストは皆好演。美しい映像も含めて、観る価値はあると思う。
コメント
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