元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レ・ミゼラブル」

2013-01-16 06:37:07 | 映画の感想(ら行)

 (原題:LES MISERABLES)観ていて疲れた。とにかく、出てくる連中すべてが肩に力が入り、気張りまくって歌っている。全編フォルテの印象で一息つけるところがない。これは撮影と同時に歌を録音するという、ライヴ方式の弊害が出ていると思う。

 この方式は作り手にとっては“臨場感が出て良い”ということになるのだろうが、演じる側としては早い話が“一発録り”だ。キャストがここぞとばかり気合いと情感を込めたパフォーマンスに徹したつもりでも、観る方としては一本調子でメリハリのない展開に映る。しかも、当然の事ながら歌いながら演技をするのは難しい。歌に気を取られると演技がおろそかになる。その逆も然りだ。

 ここで“舞台版は皆歌いながら演技しているじゃないか!”という突っ込みが入るのかもしれないが、本来歌と演技とを別々に収録できるはずの映画と比べるのはナンセンスだ。どうして万全な状態での歌声をスタジオで録らなかったのか。ライヴ方式なんて、作り手の独善に過ぎないと思う。

 さらに、本作はセリフのほとんどが歌で表現されるという、いわゆるオペラ形式の作劇を採用しているが、これも大いに疑問だ。このスタイルのミュージカル映画で成功した例としては、私が思いつく限りではジャック・ドゥミの「シェルブールの雨傘」とケン・ラッセルの「トミー」ぐらいしかない。

 通常のミュージカル映画はドラマ部分と歌及び踊りのシーンとが分かれているのだが、ドラマ進行の途上で非日常的なミュージカル場面が挿入されることにより、映画全体が良い意味での“絵空事”になり(笑)、観客はそれを承知した上でストーリーが少々破綻していようと楽しめるのだと思う。

 しかしオペラ形式だと、セリフが歌に変わっただけの“普通のドラマ”として最初から受け取られてしまう。歌と踊りがいつ現れるかという、ワクワク感がない。だからオペラ形式のミュージカル映画としては、ドラマ部分も“非ミュージカル映画(?)”と同程度に練り上げるようなアプローチをしないと絵空事になってしまう。

 ひるがえってこの映画はどうかというと、そのあたりがまるでダメである。長大な原作、しかも決して単純ではない内容を2時間余りに収めることは至難の業だが、それを勘案してもこれは実に下手な脚色であり、話の辻褄が合っていない。ここで“元ネタの舞台版がそうだから仕方が無い”という意見は却下する。舞台版が映画化に向いていないのならば、この企画は取りやめた方が良かった。

 舞台セットやカメラワークも洗練されておらず、大作感は意外なほど希薄だ。ヒュー・ジャックマンやラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド(正式な発音はサイフリッドらしい)などの出演陣は頑張っていることは認めるが、トム・フーパーの演出が精彩を欠いていることもあり、いずれもあまり印象に残らない。世評は高いものの、個人的には面白い映画とは思えなかった。
コメント (2)
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