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沖縄→東京→竹野と流転する、bozzoの日々。

【aug_08】紀美野町立小川小学校

2012-08-10 | ART
多摩美校友会の「出前アート大学」撮影同行で
和歌山県紀美野町へ。

山と川と、大きい空と。
頭を垂れた稲穂の田園風景が広がる。

先週行った南相馬小高区の情景が思い起こされる。
田んぼという田んぼに繁茂するセイタカアワダチソウ…。

里山。自然と人間が共生するニッポンならではの自然信仰。

ああ、なんということか。

和歌山も福島も、足を踏み入れれば、
ニッポンの原風景が広がっているのだ。
ここに今、戻らずして、ニッポンは
どこに進もうとしているのだろう。

  ●

出前アート大学の講師は近藤晃子さん。
perchというインスタレーションの作品では、ボタンのついたゴムが空間に張り巡らされ、
観客もいっしょになって、そのボタンに切り刻んだフェルトをつけることで完成する。

作業を共有する、空間を共有することで、その媒介となった作品がさまざまな変化を遂げ、
観る者、参加した者の心になにかを残してくれる…そんな共有体験を大事にする作家だ。

今回の小川小学校全校生徒16人との授業でも子どもたちは、
ひとつの空間を先生といっしょになって試行錯誤することで、創ることの悦びを体感することが出来た。


なにより、一日どんなことをしても許される時間…というのが、
解放的でたまらなかったことだろう。

里山に囲まれた子どもたちであっても、
無意識に大人社会のルールに縛られている。

アートは、そういった社会的束縛が「かりそめ」のものであることを
創る行為を通じて体感することができる、格好の題材なのだ。

全校生徒2年生から6年生まで16人。
当然下級生も上級生もなく、お互いが相手の存在を敬って
それぞれの持ち味を尊重しながら、作業が進む。

時にはお兄ちゃんが弟を庇うように、
上級生が下級生の作業を手伝うこともあるが、
基本的にはそれぞれが思い思いに出来ることをしていた。
それは家族のような様態だった。
言わずとも相手の欲していること、求めていることを把握し、
やりやすいように先回りする…といった具合。

その「あうん」の呼吸がすばらしい。

思い思いにフェルトを刻み、空間を彩り、自分たちのお気に入りの場所に仕立てていく。
その作業の中で、創ることの新しさ、創造することの素晴らしさを心に刻む。

  ●

ニッポンの教育方針で大きく欠けているのが、この懐の深さだと思った。

なにをやっても許されるはずの子供の時代から、
大人たちは教育のあるべき姿、将来のあるべき姿を提示し、
そのベクトルへ向かっての授業を推し進める。
習得の度合いを5段階評価で与え、低評価はとどのつまり劣等であるとのレッテル。
一方向の明示されたベクトルから外れたことが、即人間未満、成熟未満につながるから、
本来は伸び伸び生を謳歌するはずの子供の時代から、
大人の顔色をうかがうような振る舞いが生まれてしまうのだ。

だから、教育現場はアートを扱うことができない。

何をやっても許される…じゃ、どう評価をつけていいか、わからない。
そんな曖昧模糊な分野は取扱が不便だから、割愛しちゃいましょ…と、
受験科目を必修、その他をオプションと線引きすることで、
子供の領域から、アート、音楽、家庭科といったものを低く見積もった。

その結果が、いまの世の中だと、ボクは痛感する。

ことのはじめに「何をやっても許される」前提がまずあれば、
ニッポン社会はもっともっと多様性を重んじ、それぞれの価値を敬う、
成熟した社会へと進むことができたのだと、悔やまれる。

いま、ホントに必要なのは、このアートの領域である。

社会人の大半が芸術へのルサンチマンに満ち、
自分が理解できないもの、理屈が通らないものへの不寛容に溢れているのは、
そもそもこのアート「何をやっても許される」領域を低く見積もったゆえの結果である。

芸術は元々、自然と人間とをとりもつ鎹(かすがい)の役割を果たしていた
…というその太古の事実を軽視したがゆえの、不寛容さ、受入なさは、結局人間至上主義の偏った社会を生む。

特にニッポンの風土は自然との共生なしにはありえない島国だ。
堅牢な岩に囲まれ、自然を拒絶することで生きらえた欧米とは訳が違う。

太古から自然を取り込み、霊を取り込み、現世だけでなく異次元までも取り込むことで
バランスを取っていた社会の成り立ちがあったのだ。

芸能芸術あっての人間社会であることを肝に銘じなければ、今後はならないと思う。


里山で快活に振る舞う紀美野町の子どもたちと触れあって、
その事実を再び心に刻んだ次第。

いま必要なのは、アートだ…と。












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