ごまめの歯ぎしり・まぐろのおなら

サンナシ小屋&京都から世界の愛する人たちへ

カニと温泉と海

2009-11-13 | 日記風
日本海のズワイガニ漁がいっせいに始まった。カニが特別好きなわけではないが、なんとなく日本海の冬のズワイガニ(マツバガニ)の風景が見たくなり、また久しぶりに温泉に入りたくなって、そろそろ冬が近くなった北陸を訪れた。冬の日本海は大荒れが続くと聞いているが、まだそんな冬の日本海を知らない。でも好きこのんでそんな日本海を見たいとは思わないので、日本海側に行くなら、冬のさなかには行きたくない。

 志賀直哉の小説「城ノ崎にて」で有名な城崎温泉は、昔ながらの情緒あふれる温泉街で知られており、そのせいか、若い女性の観光客が街にあふれている。関西地方の温泉場として定番のようだ。宿に落ち着いて、まず宿の温泉(内湯)に入る。無色透明のお湯で、暖かいがなんとなく温泉という感じがしない。やはり温泉は湯ノ花が湧くような濁ったお湯がいかにもそれらしい。それからおもむろに夕食のカニ料理に向かう。

 北海道にいる頃は、カニ料理には縁が深かった。宴会にはかならずと言っていいくらいカニが並んだ。道東では花咲ガニがよく食べられる。道東でしか採れないカニなので、他の場所ではあまり食べる機会がない。東京あたりで食べると目玉が飛び出るほど高いが、道東なら宴会で出てくる花咲ガニは一人まるまる一匹だ。十分食べがいがある量だ。最初の頃は物珍しいこともあって、一生懸命食べていたが、そのうち宴会でカニが出ても手をつけることはしなくなった。なにしろカニを食べるのは大変面倒だ。きれいに身が外れてくれればそれでも食べようと思うが、なかなか身がきれいに食べられない。すすったり、かみついたり、悪戦苦闘し、食べ終わった頃は口の中が傷ついていて痛い。それでも完全に身を食べきれないので、なんとなく満足感がない。しかもカニを食べ始めると話しをしなくなり、みんな黙々と食べていることになる。宴会では、多くの人がカニに手を出さないで話をしており、そのまま残すことが多かった。カニは値段が高いが、値段に値するほどおいしいものとも思えなかった。

 北海道を離れてはや2年半が過ぎた。カニも久しく食べていないなあと思いながら、マツバガニ料理に向かった。カニの刺身、カニのゆでたもの、カニの煮付け、カニの天ぷら、カニの酢もの、カニの吸い物と、カニだらけ。やはり同じようにみんな黙々と食べている。一本のカニの脚を食べるのにもかなりの時間がかかる。それでもなんとかすべての料理を食べ終わった。注意して食べたが、口の中があちこちちくちくする。お腹いっぱいになった。われわれのコースは普通の料理コース。カニの特別コースを頼んだ人はさらにこれにカニの脚がいっぱい入った籠がつく。そんなに食べられるのだろうかと心配になった。カニコースの人はおそらく簡単に食べて、殻に残った身はきれいに食べずに捨ててしまっているに違いない。しかし、こんなにカニを食べて良いのだろうかと疑問に思った。

 ズワイガニの資源が獲りすぎでかなり減少していると聞いている。ハコガニと称する小型のカニは、卵を持った雌のズワイガニだ。お腹にいっぱい卵を抱いて、店先に山盛りにして売られている。雄のカニに比べて半値以下だ。宿で大量に出てくるカニの脚は、この雌が多いのだろう。しかし、彼女たちのお腹に抱えている卵のことを考えると、われわれはズワイガニを食べ過ぎていないだろうか。せめて雌のカニは獲らないようにできないものだろうか。昔はズワイガニは冬だけのものだったが、冷凍設備が完備した今ではカニ食べ放題という宿のサービスで、一年中毎日のように多くの観光客がやってきている。カニの消費量はものすごい。これだけカニを食べて日本海のズワイガニがいなくならない方がおかしい。

 それなりに食欲は満足したが、なんとなく気持ちに引っ掛かるものがあって、満足感からはほど遠い。また、カニのにおいが体にまとわりついて、頭の髪の毛までカニのにおいがしているようで、気持ち悪い。今度来るときは、カニのあまり入っていない料理を頼みたいと思ったが、この宿のコースは、カニのコースと但馬牛のコースしかない。ベジタリアンの私が選べるのはカニしかない。これは困った。みんなそんなにカニが好きなのだろうか。きっとそうでない人もいるに違いないと思うのだが、冬の日本海と言えばカニしか考えない人が(宿の人を含めて)多いのかもしれない。日本人は個性を重んじないところだというのはいろんなところで感じる。



 カニのにおいを消すためにも、城崎温泉名物の外湯のはしごに出かけた。宿の宿泊客は宿の浴衣を着ていけば外湯の入浴料はただになる。そこで浴衣を着て宿の名前が書かれた下駄を履いて、カラコロカラコロと湯の町を歩く。あちこちの宿から出てきた浴衣の観光客で湯の町はいっぱい。それが作り出す湯の町の風情がまた観光客を呼び込むのだろう。みんなその風情を楽しんでいる。温泉街には昔懐かしい射的場などもあって、かつての美人おねえさんが昔のままの風情で客の相手をしている。何十年ぶりかでスマートボールも見つけた。パチンコのような台を斜めにおいて、ピンポン球のような玉をはじく。子供の頃にお祭りの夜店でよく遊んだ記憶がある。

 城崎温泉は歴史のある古い温泉だが、外湯はみんな改装してきれいだ。近代的な温泉に生まれ変わっている。有名でこれだけ観光客が押し寄せるところだから、改装費用は惜しまないのだろうが、古い温泉地の共同湯の風情は無くなってしまったと感じる。若い人にはこの方がきっと受け入れられるのだろうが、ちょっと残念な気もする。そういえば、温泉街を歩いている浴衣姿の観光客は、若い女性が圧倒的に多い。温泉街は金持ちのおじさんか新婚さんの時代だったころから見ると、時代は変わったなと思う。良い方向なのだろうが。でも城崎温泉は、旅館がどこも高額で、外湯に入るだけでも銭湯よりはかなり高い。それでも客が来るという強気なのだろうか。



 翌日は快晴。日本海側はいつも天候が悪いという印象が強いので、この晴れた空はうれしかった。海岸の砂浜に座って真っ青な空の下に、穏やかなあおい海を見つめていると、日頃の勤めのストレスがすうっと抜けていくのがわかる。前々日のストレスのある会合を無事済ませたあとの良い休みだった。

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2 コメント

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青い海 (mmadoka)
2009-11-16 18:10:13
 日本海のイメージとは全く違った海ですね。
山も里も好きですが、こんな景色を見ながら生活出来れば・・・と思ってしまいます。

 カニも堪能出来てうらやましいです。
確かに貴重な自然の生き物、食べ放題で適当に食べるなんてカニに失礼ですね!
 我が家では、カニは買ってもちょっとなので、隅々まで食べた後、翌日お味噌汁の出汁にします。もちろん海老の頭を捨ててしまう人とか信じられません^^;。
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海はやっぱりいいです (比呂志)
2009-11-17 09:34:29
暗い日本海のイメージしかなかったのですが、本当に良い日に恵まれました。

でも、カニはもういりません。旅館の食事は多すぎますし、料金の大部分は夕食料金なのですね。宿代が高いのは、夕食の押し売りのせいです。もっと適度の食事で宿代を安くすれば、利用客も増えるんじゃないかと思うのですが、利用者も高い方を喜ぶ人たちがいるようで、ちょっと信じられません。
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