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ごまめの歯ぎしり・まぐろのおなら

サンナシ小屋&京都から世界の愛する人たちへ

土佐の山里

2009-10-05 | 日記風
四国高知の龍馬空港に降り立つと、南国の風と突き刺すような太陽の光が降りかかる。さすがに南国だ。でもねっとりと肌にまつわるような蒸し暑さはない。熱いがさわやかな暑さだ。朝早く起きたので、眠気が覚めないまま飛行機に乗った。最近はいつも離陸するまもなく寝込んでしまうのだが、このフライトはわずか飛行時間が45分という短さで、とても眠る暇もない。新聞を一通り見出しだけを追いかけて、さて眠ろうとした頃には、座席を元の位置に戻せと言うアナウンスがあり、まもなく着陸態勢にはいる。

 高知県の真ん中を流れる仁淀川に沿って山へ分け入る。四国の山は急峻なので、もうすっかり奥山に入ってしまったような錯覚に陥るが、高度計を見るとまだ標高160mくらいだ。平家の落人のが集まったような山村が、川の渓谷沿いに点々と見られる。両側の山がそびえ立つので、昼を過ぎると早々に太陽が山に沈んでしまう。空はまだまだ明るいのに、村は日陰に沈んでいく。肌をなぶる風も、日が落ちると急激に冷たくなり、暑さを忘れる山里の夕暮れだ。

 池川の釣り宿の民宿に今夜の宿を取る。部屋は河原に突きだした造りで、部屋の下にはススキの穂がなびいている。すぐ前の川には、釣り人が体を半分水の中に潜ませて、じっと竿を流れにのばしている。流れに釣り針を流しながら、じっとアマゴが食いつくのを辛抱強く待っている。何度か竿を上流から下流へ流した後、急に水から体を持ち上げた。竿の先には20cmくらいのアマゴが銀鱗を輝かせて水面を叩いている。釣り師はすばやく魚を取り込み、腰に付けた魚籠に放り込み、再び水の中に体を潜めて、竿以外は動かなくなる。水の中の人になる。

 日が暮れてくると、草むらからは虫の声が聞こえ、とおくでくぐもった鳥の声が響く。川の流れの音は絶え間なく部屋の枕に着けた耳に響いてくる。川の音だけが聞こえ、山の小さな町の夜は更けていく。この日は、10月3日。中秋の名月だった。煌々と山道を照らす満月の光。酔っぱらいの乱れた足音が、夜のしじまに時折響く。こんな夜が昔はもっといろんなところにあったような気がする。こんな夜のしじまをなくして、私たちはいったい何を得ることが出来たのだろうか。