ごまめの歯ぎしり・まぐろのおなら

サンナシ小屋&京都から世界の愛する人たちへ

ナラ枯れ

2009-10-30 | 日記風
旅に出ることは多いが、どこも仕事で行くことがほとんどなのでゆっくりといろんな土地の自然を眺める余裕があまりない。仕事と個人的理由で、山へ行く余裕もなくなってきたので、日頃は緑を求めて近くの散歩道を歩くことにしている。

 京都の仕事場の近くに、吉田山という低い丘があり、麓には吉田神社がある。三高寮歌「紅萌ゆる」で歌われる吉田山だ。ときどき気分転換に吉田山に登る。登ると言っても、登り口から一気に登れば、頂上地点までわずか6-7分で到着する。

 頂上からは周りの木々のこずえ越しに大文字山の大文字が真正面に見える。周りが暗いため、送り火のときや、お月見や流星雨を見るときなどは格好の場所だ。頂上広場(といっても5坪くらいの広さだが)からは、あちこちに向かって散策路が延びているので、適当に選んで散歩をすることができる。といっても、どちらに歩いていっても麓まではほんの少しだ。

 この吉田山は少しだけ杉林があるが、天然林が多く残っていて、緑に囲まれた散歩道なので、歩いていてもほっとする。照葉樹と落葉樹が半々くらいで、落葉樹もまだまだ葉を落としていないから、林床は暗い。あまり林床に花もなく、歩いていても花は楽しめない。でも蝶や甲虫など虫はいろいろなものが現れる。当然蚊も多い。ようやく蚊が減ってきたというところ。

 この林の中に、コナラやカシの類が多いのだが、太い楢や樫の木の多くに楊子のようなものが刺さっている。最初はだれかがいたずらでもしたのかなと思っていたが、どうもそうではないらしい。細いプラスチックのチューブが木の幹にいっぱい差し込まれて、ときにはそのチューブの先にプラスチックの試験管がかぶせてある。どうやら誰かが研究をしているらしい。その一本の木に小さな紙切れがつけられており、そこに「ナラ枯れの研究中」と書かれてあった。

 「松枯れ」というのは良く聞くが、「ナラ枯れ」というのは、あまり聞いたことがなかった。注意してみるとコナラやシラカシなどの木の下に細かい木の粉がつもっている。カシノナガキクイムシという小さな甲虫がこの木の幹に穴を開けて棲んでいるらしい。このキクイムシは、ナラ菌という菌類を巣穴の中で培養して、それを餌にすると言うかなり高等な生活をしているらしい。そのナラ菌がナラやカシの木を殺しているという。

 確かによく見てみると、吉田山に生えているコナラの8割くらいがこのカシノナガキクイムシに穴を開けられているようだ。木の根元に木の粉がまるでおが屑のように積もっている。マツノキクイムシのように松を全滅させるほどの被害は出ていないようだが、被害は急激に全国に広がっているらしい。カシノナガキクイムシは昔から日本にいたようなのに、ほとんど被害は知られていなかった。突然、被害が出るようになった原因はよくわかっていないようだが、一説には外国から浸入した別のグループが急激に広がっているのではないかと言われている。そうすると、これも松枯れと同じように、人間が持ち込んだ厄災なのかもしれない。それとも、人間が壊してしまった自然環境がそれまで無害だった動物や菌類を有害化させたのかもしれない。どちらにしても人間の所業が原因であることは、おそらく間違いない。もっと私たちは自然のシステムを大事にし、私たちの行為が自然のシステムを壊していないかもっと慎重になる必要があるのではないだろうか。短い散歩をしながらそんなことを考えた。