近藤から報告を受けて内容を把握した松島社長は、しばらく言葉が出ないくらい憔悴してしまったが、この事態が本当のことなのか否かは当事者に聞かなければ即断はできないと考えた。
制作部の女性管理者は創業直後からの社員で、統率力もあるので社員たちからの信頼も厚く、取引先からも高く評価されている人物なので、松島社長としても間違いであって欲しいという気持ちがあったのだが、この問題は自分が直接本人から聞くしかないと腹を決めていた。
気を取り直した松島社長は会議室に制作部の女性管理者を呼び、二人で話し合うことにした。
松島社長からソフトウエアーの開発経緯の問題点の指摘をし、その結論によってアモイには残りの50%を支払うことを決めたと伝えた。
そして、女性管理者がアモイに私用で出向き、その際アモイの社長に接遇を強要していたと聞いているが間違いないかと質問をした。
松島社長は会社を設立した直後から、再三会社内においてパワハラやセクハラは絶対に起こさせないし許さないと公言してきた。
そのことは社員であれば知らない人はいないので、この報告が正しいならこの両方を犯している事態を許すわけにはいかないと強く言った。
セクハラは男性が女性に対して行うものだけではなく、女性が男性に行うものも当然含まれるからとも言った。
女性管理者は松島社長の話を黙って聞いていた。
そして「社長のおっしゃる内容に間違いはありません!」
「私はどうすれば良いですか?」と言う。
松島社長は「会社を辞めてもらうしかないと思っている」と答えた。
「いつ辞めましょうか、今でも良いですか?」
女性管理者はそう言うなり「失礼します」と言って席を立ち、そのまま総務部長の席に向かい「今日辞めるので書類をご用意いただいて自宅に送って下さい」と宣言、自席に戻って手荷物をまとめ、一時間たたないうちに会社を去っていった。
まったく言い訳もしない、ある意味で潔さを感じる態度を示したのであった。
松島社長にとっても思いがけない結末であったが、貴重な戦力を突然失うという面もあったので、そのあとの手当てに苦労することになる。
(終わり)