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「くっつく顔」 

2013年08月08日 00時39分59秒 | 民話(昔話)
 「くっつく顔」 「角館昔話集」 全国昔話資料集成 12 「昔話の旅 語りの旅」 野村 純一

 むがし あったぞん。

 ある村に 爺ちゃと婆ちゃと いてあった。
家が貧乏なので、林へ行って木を伐っては それどて町へ売りに行って、暮らしをたてていた。
ところが、運の悪い時は悪いもんで、その婆ちゃがふとした病気にかかったと思ったら、
まもなく死んでしまった。

 爺ちゃは大そう悲しんで、三日三晩泣き通したが、泣いても泣いても、婆ちゃの生き返る道理がない。
ようやく諦めて、婆ちゃの屍骸(しにがら)どて片付けて、荼毘の用意をしようと思ったが、
家には一文の貯えもない。
仕方がないのでその屍体を家の前へブラ下げて置いた。
そうして置いたら、誰か片付けてくれると思ったからである。

 ある日のこと、町へ物を売りに行くため、入り口を出ようとしたら、婆ちゃの屍体へ触ったので、
ハッと思って顔へ手を当てたら、これはまたなんと、不思議、自分の顔の上に死んだ婆ちゃの顔が、
ぴったり付着いているではないか。
いくら取ろうとしても、絶対取れないので、仕方なくそのまま町へ出かけた。
町の人々は、みな不思議な人間が来たものだと思って、立ち止まって見ていた。
爺ちゃは売る物も売らずに、家へ飛んで帰って、そのままオエンオエンと泣き崩れた。

 そのうちに気を取り直して、頭巾を一つこしらえ、それどて頭からすっぽりかぶった。
しかし、もはや、村の人々はみな知ってしまったので、
「爺ちゃ面(つら)の上に婆ちゃの面の皮ある。アヤおかしでや」
どて卑(や)しめるので、とうとう村にもいられなくなって、家を飛び出して、
長い長い旅をすることになった。

 そして日の暮れ方に一軒の旅籠屋へ泊まって、ご飯を食べる段になった時、
爺ちゃが一人前のお膳をもらって食べようとしたら、婆ちゃの顔が、
「おれの分と二人前取り寄せろ」とせがむ。
なんでもそうして、二人前、二人前と駄々をこねるので爺ちゃも真実に困ってしまって、泣きたくなった。

 ところがある晩のことであった。
爺ちゃが寝ていると、婆ちゃの顔が、今朝食ったボタ餅どて、もっと食いたいと言い出した。
爺ちゃは眠いも眠いし、面倒くさいと思って、
「台所の戸棚にあるだろうから、食いたいんなら、自分で勝手に食べろ」と怒鳴った。
すると、その婆ちゃの顔は、なんぼボタ餅どて食いたかったか、爺ちゃの面から離れて、
ベタベタと台所の方へ行った。
爺ちゃはこの時とばかり、どんどん逃げ出してしまったど。

 綾重々 錦更々 五葉の松原、トッピンパラリのプゥ。