「ふるやのもり」 パネルシアターの物語(ネット)より
むかーし、むかしのこと、おじいさんとおばあさんが、仲良く暮らしていました。
家の中には何もなく、貧乏でした。あるものといえば、馬が一頭あるだけでした。
二人は、この馬をわが子のように、大事に大事に育てていました。
馬小屋はありませんでしたが、家族のように同じ屋根の下で生活をしていました。
ある夜のこと、二人の家に、馬泥棒がやってきました。
馬泥棒は、天井にするすると登ると、梁の裏に身をかくしました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」
馬泥棒は、おじいさんとおばさんが寝るのを見計らって、こっそり馬を盗む魂胆でした。
その夜、馬を盗もうとやってきたのは、馬泥棒だけではありませんでした。
腹をすかした狼が、戸口の隙間から中の様子をうかがっていました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」 狼も、馬泥棒と同じことを思っていました。
「おじいさんや、この世で一番恐ろしいものは、何かいのう」
「そりゃあ、泥棒じゃて。みんな持って行ってしまうんじゃからな」
天井に隠れていた馬泥棒は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。泥棒やよりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。狼のほうが恐ろしいぞ。命まで盗んでいくんだからのう」
戸口の裏に潜んでいた狼は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。狼よりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。ふるやのもりが一番恐ろしいぞ」
「そうそう、ふるやのもりがこの世で一番恐ろしい」
それを聞いていた馬泥棒と狼は、ふるやのもりというのはどんな恐ろしいやつかと思いました。
「おじいさん、今夜あたり、ふるやのもりがやってきそうですね」
「そうじゃのう。やってきたらどうしようかいなあ」
そのときでした。ぴかっ! と、稲光がして、ごろごろごろと雷の音がしました。
「恐ろしいふるやのもりが、今晩やって来るみたいでね」
「もうそうこまで、やってきておるぞ」
馬泥棒は、もう気が気ではありませんでした。狼より恐ろしいやつがやってくるのですから。
狼も、恐ろしいふるやのもりがどこからやってくるのか、きょろきょろして落ち着きませんでした。
そのとき、ざっざーっと激しい雨が降ってきました。
狼は、ふるやのもりがやってきたのかと思って、一瞬びくっとしましたが、
「なんだ、雨か。中に入ってやり過ごそう」 狼は、気付かれないように、戸口を開けて入ろうとしました。
「おじいさん、ふるやのもりが、とうとうやってきましたね」
「ああ、やっぱりやってきた。恐ろしや、恐ろしや」
狼は、音を立てないつもりでしたが、古い戸口だったから、ごとりごとりと音を立ててしまいました。
その音が、馬泥棒には、馬が逃げ出す音に聞こえて、逃がすものかと馬に飛び乗りました。
が、飛び乗ったのは、馬ではなく狼でした。
狼は、ふるやのもりが飛び乗ってきたのかと思い、戸口を蹴飛ばし外に駆け出しました。
馬泥棒は、振り落とされまいと、馬の耳を、いや狼の耳を力いっぱい握りました。
狼は、ふるやのもりに食べられるくらいなら、耳なんかちぎれてもいいと思いました。
山へ山へとどしゃ降りの雨の中を走りました。
馬泥棒が必死なら、狼も必死。狼は、真っ暗闇の中を走り続けました。
「手がしびれて、・・・。もう、だめだ」 馬泥棒は、狼の耳を離しました。
馬泥棒は、跳ね飛ばされた拍子に、野井戸に落ちてしまいました。
それでも狼は、一目散に山へ逃げていきました。
「昨夜は、本当に恐ろしい目にあった。ふるやのもりほど恐ろしいやつはいない」
狼は、森の仲間の猿にそう言いました。
「ふるやのもりって、誰だい?」
博識の猿も、初めて聞く名前でした。
「ふるやのもりってのは、熊のように力強くて、猿のようにすばしっこく、この俺様より恐ろしいやつだ」
「そんな獣がこの世にいるなんで、聞いたことがない」
「だったら、これから、そいつが落ちた野井戸に行ってみようじゃないか」
狼と猿は連れだって、野井戸に行くことにしました。
「この野井戸だ」 狼が指差す野井戸を、猿は覗き込みました。
「気をつけろよ。相手はふるやのもりだぞ」
「誰もいないようだけど」 猿は、長いしっぽをたらして、野井戸の中を探りました。
野井戸の中では、馬泥棒はくたびれていました。そこへ猿のしっぽがたれてきたものですから、
「こ、これは、天の助け。縄がおりてきた」
馬泥棒は、その縄を、いや猿のしっぽを、しっかり握り引っ張りました。
「わっ、誰か俺のしっぽを引っ張る」
「そりゃあ、ふるやのもりに違いない。俺も耳がちぎれるくらい引っ張られた」
「わああ、中に引きずり込まれる。た、助けてくれ!」
「俺に捕まれ!」 狼は、猿の引っ張りました。猿も足を踏ん張りました。
「うーん! もっと強く引っ張ってくれ!」 狼は、ありったけの力で猿を引っ張りました。 ぶつりっ!
「そら、逃げろー!」 狼と猿は、後ろも振り向かず山へ逃げていきました。
やっと、森に逃げ帰った狼は、後ろを振り向きました。
「ここまでくれば、もう追ってはこれまい」 猿も後ろを振り向きました。
「ありゃ、ありゃりゃ。しっぽがない」 猿のしっぽはちぎれてなくなっていました。
それに、力を入れたものですから、お尻と顔は真っ赤になっていました。
「おじいさんや、古い家はいやですね」
「そうじゃのう。昨夜の激しい雨で、雨は漏るし。古い家の雨漏り、古家の漏りは、本当に嫌じゃのう」
「それに、風もきつかったので、戸口が飛んでしまいました。おじいさん、何とかしてくださいね」
「はい、はい」
むかーし、むかしのこと、おじいさんとおばあさんが、仲良く暮らしていました。
家の中には何もなく、貧乏でした。あるものといえば、馬が一頭あるだけでした。
二人は、この馬をわが子のように、大事に大事に育てていました。
馬小屋はありませんでしたが、家族のように同じ屋根の下で生活をしていました。
ある夜のこと、二人の家に、馬泥棒がやってきました。
馬泥棒は、天井にするすると登ると、梁の裏に身をかくしました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」
馬泥棒は、おじいさんとおばさんが寝るのを見計らって、こっそり馬を盗む魂胆でした。
その夜、馬を盗もうとやってきたのは、馬泥棒だけではありませんでした。
腹をすかした狼が、戸口の隙間から中の様子をうかがっていました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」 狼も、馬泥棒と同じことを思っていました。
「おじいさんや、この世で一番恐ろしいものは、何かいのう」
「そりゃあ、泥棒じゃて。みんな持って行ってしまうんじゃからな」
天井に隠れていた馬泥棒は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。泥棒やよりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。狼のほうが恐ろしいぞ。命まで盗んでいくんだからのう」
戸口の裏に潜んでいた狼は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。狼よりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。ふるやのもりが一番恐ろしいぞ」
「そうそう、ふるやのもりがこの世で一番恐ろしい」
それを聞いていた馬泥棒と狼は、ふるやのもりというのはどんな恐ろしいやつかと思いました。
「おじいさん、今夜あたり、ふるやのもりがやってきそうですね」
「そうじゃのう。やってきたらどうしようかいなあ」
そのときでした。ぴかっ! と、稲光がして、ごろごろごろと雷の音がしました。
「恐ろしいふるやのもりが、今晩やって来るみたいでね」
「もうそうこまで、やってきておるぞ」
馬泥棒は、もう気が気ではありませんでした。狼より恐ろしいやつがやってくるのですから。
狼も、恐ろしいふるやのもりがどこからやってくるのか、きょろきょろして落ち着きませんでした。
そのとき、ざっざーっと激しい雨が降ってきました。
狼は、ふるやのもりがやってきたのかと思って、一瞬びくっとしましたが、
「なんだ、雨か。中に入ってやり過ごそう」 狼は、気付かれないように、戸口を開けて入ろうとしました。
「おじいさん、ふるやのもりが、とうとうやってきましたね」
「ああ、やっぱりやってきた。恐ろしや、恐ろしや」
狼は、音を立てないつもりでしたが、古い戸口だったから、ごとりごとりと音を立ててしまいました。
その音が、馬泥棒には、馬が逃げ出す音に聞こえて、逃がすものかと馬に飛び乗りました。
が、飛び乗ったのは、馬ではなく狼でした。
狼は、ふるやのもりが飛び乗ってきたのかと思い、戸口を蹴飛ばし外に駆け出しました。
馬泥棒は、振り落とされまいと、馬の耳を、いや狼の耳を力いっぱい握りました。
狼は、ふるやのもりに食べられるくらいなら、耳なんかちぎれてもいいと思いました。
山へ山へとどしゃ降りの雨の中を走りました。
馬泥棒が必死なら、狼も必死。狼は、真っ暗闇の中を走り続けました。
「手がしびれて、・・・。もう、だめだ」 馬泥棒は、狼の耳を離しました。
馬泥棒は、跳ね飛ばされた拍子に、野井戸に落ちてしまいました。
それでも狼は、一目散に山へ逃げていきました。
「昨夜は、本当に恐ろしい目にあった。ふるやのもりほど恐ろしいやつはいない」
狼は、森の仲間の猿にそう言いました。
「ふるやのもりって、誰だい?」
博識の猿も、初めて聞く名前でした。
「ふるやのもりってのは、熊のように力強くて、猿のようにすばしっこく、この俺様より恐ろしいやつだ」
「そんな獣がこの世にいるなんで、聞いたことがない」
「だったら、これから、そいつが落ちた野井戸に行ってみようじゃないか」
狼と猿は連れだって、野井戸に行くことにしました。
「この野井戸だ」 狼が指差す野井戸を、猿は覗き込みました。
「気をつけろよ。相手はふるやのもりだぞ」
「誰もいないようだけど」 猿は、長いしっぽをたらして、野井戸の中を探りました。
野井戸の中では、馬泥棒はくたびれていました。そこへ猿のしっぽがたれてきたものですから、
「こ、これは、天の助け。縄がおりてきた」
馬泥棒は、その縄を、いや猿のしっぽを、しっかり握り引っ張りました。
「わっ、誰か俺のしっぽを引っ張る」
「そりゃあ、ふるやのもりに違いない。俺も耳がちぎれるくらい引っ張られた」
「わああ、中に引きずり込まれる。た、助けてくれ!」
「俺に捕まれ!」 狼は、猿の引っ張りました。猿も足を踏ん張りました。
「うーん! もっと強く引っ張ってくれ!」 狼は、ありったけの力で猿を引っ張りました。 ぶつりっ!
「そら、逃げろー!」 狼と猿は、後ろも振り向かず山へ逃げていきました。
やっと、森に逃げ帰った狼は、後ろを振り向きました。
「ここまでくれば、もう追ってはこれまい」 猿も後ろを振り向きました。
「ありゃ、ありゃりゃ。しっぽがない」 猿のしっぽはちぎれてなくなっていました。
それに、力を入れたものですから、お尻と顔は真っ赤になっていました。
「おじいさんや、古い家はいやですね」
「そうじゃのう。昨夜の激しい雨で、雨は漏るし。古い家の雨漏り、古家の漏りは、本当に嫌じゃのう」
「それに、風もきつかったので、戸口が飛んでしまいました。おじいさん、何とかしてくださいね」
「はい、はい」