民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「かしこいモリー」 イギリスの昔話

2012年11月21日 01時04分02秒 | 民話(おとぎ話・創作)
 「かしこいモリー」  イギリスの昔話  参考  松岡 享子 訳

 むかし、あるところに、子供がたくさんいる 夫婦が いたと。
この夫婦は 一生懸命 働いていたが、貧乏な生活から 脱け出すことができなくて、
(もう これ以上 子供を育てることはできない)
心を鬼にして、三人の女の子を 森に捨てにいったと。

 捨てられた 三人の女の子は 森の中を とぼとぼ 歩いていたと。
「おなかがすいたなぁ」
「どこか 泊めてくれる家は ないかなぁ」
あたりは だんだん 暗くなり 心細くなってきた時、ピッカラ ピッカラ 家のあかりが 見えてきたと。

 三人の女の子は 元気が出て 走って その家に行き「トン トン」戸を叩いたと。
すると、おかみさんが出てきて、「なんか 用かい」って、言うので、
「おなかが ぺこぺこなんです。なにか 食べるものを いただけませんか?」って、お願いすると、
「おあいにくさま。うちには 見ず知らずのもんにあげる 食べものなんて ないよ。・・・
それより うちの亭主は 人を食う大男なんだ。見つかったら、食われっちまうよ」
 それでも、三人は おなかがすいて 動けないほどだったので、
「せめて 水だけでも、・・・それに ほんのちょっとでいいから、休ませてもらえませんか。
だんなさんが 帰ってくるまでには きっと 出ていきますから」って、一生懸命 頼むと、
ようやく、おかみさんは 三人を中へ入れてくれて、パンとミルクを 出してくれたと。

 ところが、三人が パンを食べていると、ドスン ドスン 大男が 帰ってきて、
「クン クン、なんだっ、人間のにおいがするぞ。・・・おーい、人間がいるんじゃねぇのか?」
って、言いながら 部屋に入ってきたと。
「ああ、ちっこい娘っこが 三人 迷いこんできて、おなかがすいたっていうから、 
パンとミルクを あげていたとこさ。・・・食べ終わったら すぐ出て行くとさ」
大男は 三人を ちらっと見ると「泊まっていくがいいさ」って、言ったと。
三人は こわくて ブルブル 震えていたが、ほかに当てもなくて、泊まっていくことにしたと。

 ところで、三人の女の子のうち、一番年下の子は、モリーという名前の とても かしこい子だったと。 

 大男には、モリーたちと同じ年頃の娘が 三人いて、
モリーたち 三人は、それぞれ 大男の同じ年頃の娘と 同じベッドで 寝ることになったと。
 モリーは、大男から目を離さなかったから、大男が モリーと二人の姉さんの首には ワラのなわを巻き、
大男の娘の首には 金の鎖を巻いたのを、見逃さなかったと。

 それで、モリーは みんなが ぐっすり 寝込むまで 眠らずにいて、
みんなが寝込むと ふとんからはい出し、モリーと二人の姉さんの首から ワラのなわをはずして、
大男の娘たちの首に巻き、モリーと二人の姉さんの首には 大男の娘たちからはずした 金の鎖を巻いたと。

 真夜中になると、大男が 手に太いこん棒を握りしめ、娘たちのベッドまでやって来たと。
そして、手探りで、ワラのなわを巻いてある 娘の首をさがし、ベッドから 引きずり下ろすと、
こん棒で ぶっ叩いて 殺してしまったと。

 モリーは、もう ぐずぐずしていられない、今のうちに 逃げ出さなきゃと、
二人の姉さんを起こし、音を立てないように、そーっと 抜け出し、
ただ ひたすら 歩き続けて、夜が明けた時には、立派なお城の 前に いたと。

 モリーは 中に入れてもらい、王さまに 今までのことを 話したと。
王さまは モリーの話を聞くと、
「おまえは なんと かしこい娘じゃ。・・・
ところで モリー。・・・あの大男の枕元の壁に 刀が かかっているんだが、
もう一度 あの大男のところに戻って、その刀を 持ってくることができるか?
もしも、できたら、おまえの一番上の姉さんを わしの一番上の息子の 嫁にしてやるんだがな・・・」
「やって みるわ」モリーは そう言うと、お城を出ていったと。

 モリーは 大男の家に戻ると、部屋にしのびこみ、ベッドの下で、大男の帰りを待ったと。
そのうち、大男が ドスン ドスン 部屋に入ってきて ベッドに入って 寝たと。
モリーは 大男が いびきをかきだすのを待って、ベッドの下からはい出し、
枕元の壁にかかってる 刀をつかんで、部屋を出ると 一目散に お城に向かって走ったと。

 すると「待てぇー!」刀がなくなったことに 気がついた大男が 追いかけてきたと。
モリーは 一生懸命 走る。だけど、大男の足は速い、あっという間に すぐうしろまで 迫ってきたと。
大男が 手を伸ばしてきて、「あっ、つかまる」と、思った その時、
大男は つんのめるように ドターンと 前に倒れたと。

 モリーが 行く時に 草を結んでおいた仕掛けに 足をひっかけたのだ。
その隙に モリーは ようやく「髪の毛一本橋」まで たどりつくことができたと。
モリーが「髪の毛一本橋」を渡り始めると、追いついた大男は、地団駄ふんで 悔しがったと。
「やりやがったな、小娘がっ。・・・今度会ったら ただじゃおかねぇぞっ!」

 モリーが その刀を 王さまのところに 持っていくと、王さまは たいそう 喜んで、言ったと。
「おまえは ほんとに かしこい娘じゃ。
約束通り おまえの一番上の姉さんを、わしの一番上の息子の 嫁にしよう。
ところで、モリー。・・・おまえ、もう一度 あの大男のところに戻って、
大男の枕の下にある財布を 持ってくることができるか?
もしも、できたら、おまえの二番目の姉さんを わしの二番目の息子の 嫁にしてやるんだがな・・・」
「やって みるわ」モリーは そう言うと お城を出ていったと。

 モリーは 大男の家に戻ると、部屋にしのびこみ、ベッドの下で、大男の帰りを待ったと。
そのうち、大男が ドスン ドスン 部屋に入ってきて ベッドに入って 寝たと。
モリーは 大男が いびきをかきだすのを待って、ベッドの下からはい出し、
枕の下にある財布をつかんで、部屋を出ると 一目散に お城に向かって走ったと。

 すると「待てぇー!」財布がなくなったことに 気がついた大男が 追いかけてきたと。
モリーは 一生懸命 走る。だけど、大男の足は速い、あっという間に すぐうしろまで 迫ってきたと。
大男が 手を伸ばしてきて、「あっ、つかまる」と、思った その時、
大男は つんのめるように ドターンと 前に倒れたと。

 モリーが 行く時に 草を結んでおいた仕掛けに 足をひっかけたのだ。
その隙に モリーは ようやく「髪の毛一本橋」まで たどりつくことができたと。
モリーが「髪の毛一本橋」を渡り始めると、追いついた大男は、地団駄ふんで 悔しがったと。
「やりやがったな、小娘がっ。・・・今度会ったら ただじゃおかねぇぞっ!」

 モリーが その財布を 王さまのところに 持っていくと、王さまは たいそう 喜んで、言ったと。
「おまえは ほんとに かしこい娘じゃ。
約束通り おまえの二番目の姉さんを、わしの二番目の息子の 嫁にしよう。
ところで、モリー。・・・おまえ、もう一度 あの大男のところに戻って、
大男が指にはめている指輪を 持ってくることができるか?
もしも、できたら、おまえを わしの一番下の息子の 嫁にしてやるんだがな・・・」
「やって みるわ」モリーは そう言うと お城を出ていったと。

 モリーは 大男の家に戻ると、部屋にしのびこみ、ベッドの下で、大男の帰りを待ったと。
そのうち、大男が ドスン ドスン 部屋に入ってきて ベッドに入って 寝たと。
モリーは 大男が いびきをかきだすのを待って、ベッドの下からはい出し、
大男の指から 指輪をはずして 逃げようとした時、
大男が 起き上がり、モリーの腕を ガシッと つかんだと。
「やっと つかまえたぞ、小娘めっ!・・・どうしてくれよう。
そうだ、・・・おまえが 一番 ひどいと思うことを してやろう。
おまえが 一番 ひどいと思うことは どんなことだ。」

「そうね、・・・袋に入れられて、そこに イヌとネコも 一緒に入れられて,・・・
それから 針と糸とハサミも 一緒に入れられて、・・・壁にかけられるのが いやだわ。
それから、森の中の 一番 太い棒で 袋の上から、叩かれるのが 一番 いやだわ」
「ようし、その通りに してやるわい」大男は そう言うと、
麻袋を持ってきて、モリーを中へ押し込めると、イヌとネコも 一緒に入れ、
針と糸とハサミも 一緒に入れ、壁にかけると、
森の中で 一番 太い棒をさがしに、森へ出かけていったと。

 大男が 行ってしまうと、モリーは 袋の中で 大きな声で 歌うように言ったと。
「あぁー、なんてステキなんでしょ、わたしだけしか 見れないなんて・・・」
「モリー、一体 何が 見えるんだね?」大男のおかみさんが 聞いたと。
 けれども、モリーは それには答えないで、
「あぁー、なんてステキなんでしょ、わたしだけしか 見れないなんて・・・」と、くり返したと。
おかみさんは もう気になって、気になって、
「お願いだから、わたしを袋の中へ入れて、おまえの見てるものを 見せておくれ」と、頼んだと。

 そこで、モリーは ハサミで 袋に ジョキジョキ 穴をあけ、針と糸を持って 飛び降りると、
おかみさんを 持ち上げ 袋の中へ入れ、針と糸で 穴をふさいだと。
おかみさんは 袋に入ったけど、なんにも見えないので、
「なんにも見えないじゃないか。あー、窮屈だ。早く 降ろしてくれ」って、言ったと。
モリーは そんなことに かまわず、走って ドアのかげに 隠れたと。

 そこへ、大男が でっかい木を かついで、戻ってきたと。
そして、壁から 袋を降ろし、そのでっかい木で 袋を叩きはじめたと。
中にいる おかみさんは、「あたしだよ、助けておくれ!」って、叫んだけど、
イヌはワンワン吠えるし、ネコはニャンニャン鳴くしで、大男には おかみさんの声が 聞こえなかったと。
 今のうちだ、モリーは お城に向かって 走りだしたと。

 すると「待てぇー!」逃げるモリーに 気がついた大男が 追いかけてきたと。
モリーは 一生懸命 走る。だけど、大男の足は速い、あっという間に すぐうしろまで 迫ってきたと。
大男が 手を伸ばしてきて、「あっ、つかまる」と、思った その時、
大男は つんのめるように ドターンと 前に倒れたと。

 モリーが 行く時に 草を結んでおいた仕掛けに 足をひっかけたのだ。
その隙に モリーは ようやく「髪の毛一本橋」まで たどりつくことができたと。
モリーが「髪の毛一本橋」を渡り始めると、追いついた大男は、地団駄ふんで 悔しがって、
「やりやがったな、小娘がっ。・・・今度会ったら ただじゃおかねぇぞっ!」
「もう 二度と 会うことは ないわ」モリーは言ったと。

 そして、モリーは 王さまのところに 指輪を持っていき、
王さまの 一番末の息子と 結婚して 幸せに暮らしたとさ。

おしまい

「失われた昭和」 宮本 常一の写真に読む 佐野 眞一

2012年11月19日 01時09分56秒 | 民話の背景(民俗)
 「失われた昭和」 宮本 常一の写真に読む 佐野 眞一 平凡社 2004年

 第一章 村里の暮らしを追って

 -----洗濯物-----
 洗濯物を見るとその土地の生活が見えてくるという。
この時代に、布、そして、あらゆる物がいかに貴重なものであったかということが洗濯物から見えてくる。
衣類はほとんどが手縫いで、既製服を見ることは少なかった。

 -----背負う・かつぐ-----
 運搬手段がまだ発達していなかった頃、人々は物を運ぶためにさまざまな工夫を凝らした。
背負うことで、身体のバランスは保たれ、両手は自由になった。
天秤棒で物を運ぶときには、両方の重さを均等にすることでバランスを取った。

 -----田畑の仕事-----
 農家の一年は稲作を中心にいとなまれている。
春の代掻きから、秋の収穫、脱穀、出荷まで、休む暇もなく働く。

 -----運ぶ-----
 自動車が普及する以前には、牛馬が貴重な動力であった。
背に荷をつけた牛馬は、坂道や階段、細い道も平地と同じように行き来できた。

 -----村落の仕事-----
 干した藁を利用しての草履や草鞋作り、縄をなうのは副業として行われた。
穀類や野菜は天日干しすることによって、貴重な保存食となった。

 -----女の世間-----
 暮らしを支えるための基本は水の確保にある。
主婦や子どもの一日は、水汲みに始まり、炊事、洗濯と続く。
主婦たちの集まる井戸の周りでは、文字通りの「井戸端会議」に花が咲いていた。

 -----願いと祈り-----
 村のさまざまな年中行事は、稲作を中心に行われてきた。
五穀豊穣を願い、災いが村や家に入ってこないように祈る真摯な行事は、素朴な形でいまに続くものもある。

 -----草葺きの家-----
 日本の農家では、草葺きの屋根が多かった。
その耐久年数は、茅で30~40年、麦藁で10~15年とされた。
屋根を作ったり、直したりの作業は、村人の協力のもとに行われていた。

 -----橋-----
 川に石を並べたもっとも簡単な橋から鉄骨製の橋まであるが、
日本の古い橋はほとんどが木の桁橋であった。
橋は集落と集落、やがて島と本土、島と島の距離を縮め、人々の暮らしを大きく変えた。

 -----共同の仕事-----
 村人が共同でする作業は、ユイ、モヤイ、スケなどと呼ばれ、
家普請、道普請、山林の管理、用水の保全はもちろんのこと、火災や洪水の非常時にも見られた。
村全戸の平等負担であった。

 -----村の大人たち-----
 田畑の仕事は労働時間が長いので、一休みは「タバコ」ともいわれ、楽しいひとときであった。
農業に定年はなく、寿命が続くまで働いた。

 -----村の子どもたち-----
 乳児はツグラに入れられるなどして育ち、やがて年長の子どもと遊ぶようになる。
その遊びを通して仲間意識を育て、村の担い手になっていく。

「おめんぼの歌」 北原 白秋

2012年11月17日 00時49分05秒 | 名文(規範)
「あめんぼの歌」は北原白秋が作った詩。
50音をバランスよく配しており、演劇での発声練習によく用いられる。

水馬(あめんぼ) 赤いな アイウエオ。
浮藻(うきも)に 小蝦(こえび)も およいでる。

柿の木 栗の木 カキクケコ。
啄木鳥(きつつき) こつこつ 枯れけやき。

大角豆(ささげ)に 酢をかけ サシスセソ。
その魚(うお) 浅瀬で 刺しました。

立ちましょ 喇叭(らっぱ)で タチツテト。
トテトテ タッタと 飛び立った。

蛞蝓(なめくじ) のろのろ ナニヌネノ。
納戸(なんど)に ぬめって なにねばる。

鳩ぽっぽ ほろほろ ハヒフヘホ。
日向(ひなた)の お部屋にゃ 笛を吹く。

蝸牛(まいまい) 螺旋巻(ねじまき) マミムメモ。
梅の実 落ちても 見もしまい。

焼栗 ゆで栗 ヤイユエヨ。
山田に 灯(ひ)のつく 宵の家。

雷鳥 寒かろ ラリルレロ。
蓮花(れんげ)が 咲いたら 瑠璃(るり)の鳥。

わいわい わっしょい ワヰウヱヲ。
植木屋(うゑきや) 井戸換へ(ゐどがへ) お祭だ。

「つうのモノローグ」 その1 「夕鶴」 木下 順二

2012年11月11日 00時13分34秒 | 名文(規範)
  つうのモノローグ その1  「夕鶴」 木下 順二


 与ひょう、わたしの 大事な与ひょう、あんたは どうしたの?

 あんたは だんだんに 変わって行く。
なんだか わからないけれど、あたしとは 別の世界の人になって 行ってしまう。

 あの、あたしには 言葉もわからない人たち、いつか あたしを 矢で射たような、
あの恐ろしい人たちと おんなじになって 行ってしまう。

 どうしたの?あんたは。

 どうすればいいの?あたしは。
あたしは いったい どうすればいいの?

 あんたは あたしの命を助けてくれた。
なんのむくいも望まないで、ただ あたしを かわいそうに思って 矢を抜いてくれた。

 それが ほんとに嬉しかったから、あたしは あんたのところに来たのよ。
そして あの布を織ってあげたら、あんたは 子供のように喜んでくれた。

 だから あたしは、苦しいのを我慢して 何枚も何枚も 織ってあげたのよ。
それを あんたは、そのたびに「おかね」っていうものと 取りかえて来たのね。

 それでもいいの、あたしは。
あんたが「おかね」が好きなのなら。

 だから、その好きな「おかね」が もう たくさんあるのだから、
あとは あんたと 二人きりで、
この小さな うちの中で、静かに 楽しく 暮らしたいのよ。

 あんたは ほかの人とは違う人。
あたしの世界の人。

 だから この広い 野原のまん中で、そっと二人だけの世界を作って、
畑を耕したり 子供たちと遊んだりしながら いつまでも 生きて行くつもりだったのに・・・

 だのに、なんだか あんたは あたしから離れて行く。
だんだん遠くなって行く。

 どうしたらいいの?
ほんとに あたしは どうしたらいいの?・・・

「お血脈」 落語 あらすじ

2012年11月07日 01時00分15秒 | 伝統文化
 「お血脈」

 信濃の善光寺で「お血脈の印」を売り出した。
百文払って、お坊さんから額に印を押してもらえば、誰でも極楽へ行けるという。

 たとえ人殺しの悪行を働いた者でも、たった百文で罪が消えて極楽へ行けるとあって、大流行。
全国から人が押し寄せ、こぞって印を押してもらう。
おかげで、地獄へ来る者がいなくなってしまった。

 困ったのは、閻魔大王だった。
地獄に金品を持ってくる者が途絶え、このところ不景気このうえない。
浄玻璃の鏡や鬼の金棒、虎の皮のふんどしと、様々なものを拠出させ、
シャバの骨董屋に売りに出しては急場を凌いでいた。
赤鬼、青鬼もずいぶんとやせ細ってしまうありさま。

 このままでは、地獄の大王としての面目が立たない。
追い込まれた閻魔大王は、みんなを集めて対策会議を開いた。

 そこで「見る目嗅ぐ鼻」という知恵のある鬼が、「ここには腕のいい泥棒がたくさんいる。
その一人を善光寺に向かわせ、「お血脈の印」を盗んでしまえばいい」と言い出し、全員が賛成する。

 「さて、誰に盗ませるのがいいか?」
 さまざまな大泥棒が候補に上がるが、
最後に「太閤秀吉の寝室にまで侵入した男だから」と石川五右衛門に白羽の矢が立つ。
釜ぶろでいい気分になって、都々逸を唄っていた五右衛門がさっそく呼び出された。

 大王直々の頼みとあって、石川五右衛門は気合が入る。
黒の三昧小袖に、緞子の帯、朱鞘の大小を差し、ビロードの羽織と、
歌舞伎に出てくる派手な衣装に身をつつみ、勇んで大王の前に進みでる。

 大王から「印を見事に盗み出せば、地獄での出世を約束する」との言葉をもらい、
「どうぞ、ご安心を。おまかせください」と、善光寺に向かった。

 そこは手慣れた泥棒稼業、さすがに大口を叩くだけのことはあり、
昼間、参拝のふりをして善光寺の様子を伺ったかと思うと、
その夜には奥殿に忍び込んで「お血脈の印」を見つけ、鮮やかに盗み出した。

 すぐに地獄へ持ち帰ればよかったものを、久々の仕事で感情が高ぶったのか、
印をじっと見つめて、芝居がかり、
 「ありがてえ、かたじけねえ。まんまと首尾よく善光寺に忍び込み、奪い取ったるお血脈の印、
これさえあれば大願成就」と大見得をきった。

 ところがこの時、思わず印を額に押しいただいたものだから、石川五右衛門、
そのまま極楽へ行ってしまった。