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「ナメクジの言い分」 足立 則夫

2015年09月27日 00時04分52秒 | 雑学知識
 「ナメクジの言い分」 足立 則夫  岩波化学ライブラリー 2012年

 (ナメクジの)粘液には七つの機能 P-41

 何だって、彼らは歩いた跡に銀の筋を残して行くのか。我が家のナメクジ事件以来、ずーと気になっていたのは銀の筋、つまり粘液についてだ。
 昼間はベランダの植木鉢の下などで、仲間と体を寄せ合っている彼らは、夜になると鉢の側面や枯れ葉、草花の花弁などに粘液の足跡を残しながら、餌になる葉や花を探してさまよう。ナメクジの身になって想像すると、粘液の七つの役割が浮上する。
 第一が「カーペット機能」。粘液を歩行面に敷きつめれば、滑らかに進行できる。垂直なところでも、粘液には適度な粘り気があるので、滑り落ちたりしない。
 第二が「保湿機能」だ。人間の体の水分が約60%なのに対し、ナメクジは85%。なのにナメクジの体は、薄い皮膜でしか覆われていない。乾いた地面と直接接触すれば、体の水分が地面に吸収されてしまう。炎天下に体をさらせば、水分が蒸発してしまう。体を覆う粘液には、体の水分を外に逃がさない働きがあるのである。
 第三が「断熱機能」。ナメクジは高温に弱い。例えば、周囲の温度がセ氏33.7度、湿度24%のときに、体温を21度に数時間保った実験例がある。これは体を覆う粘液に外部の高温を遮断する機能もあるからなのである。
 第四が「洗浄機能」である。体には硬い物質や、病気の原因になる病原菌や微生物がつきやすい。これを洗い流す役割もある。
 第五が「護身機能」。ヘビや鳥などに襲われたとき、特別濃厚な粘液を分泌し、捕食者の口を封じることもある。
 第六が「ナビ機能」だ。彼らの嗅覚は、自分や仲間の粘液の足跡をとらえることで、暗闇の中でも植木鉢の下などにある巣に戻ることができる。粘液の筋が帰宅するときのにおいの目印になっているのだ。
 「ぶら下がり機能」が第七。米国北西部の森にすむ長さ25センチはあるバナナナメクジは、木の枝から、粘液を命綱にしてぶら下がり、頭を下にして地面に降りる。粘液の糸にぶら下がって空中で交尾する仲間もいる。
 いろいろな機能が備わっている粘液は、主に頭部や腹部の下にある足線から分泌される。一つは自由に流れ出て腹の底の左右に広がる。もう一つは粘性がより強く、腹に沿って後ろに流れ出る。
 この粘液の成分は何なのか。ムチンと呼ばれる粘性物質で、多糖類とタンパク質が結合したものだ。納豆やオクラ、それにウマギの体表のねばねばなどは、いずれもムチンである。人間の体内の粘膜、例えば胃腸の内壁を覆っているのもムチンである。胃が胃酸で溶けないのもムチンで保護されているからなのだ。そう見てくると、人間は、動物界の大先輩に当たるナメクジの粘液の機能を体内でしっかり受け継いでいることになる。

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