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「夢を売る男」 百田 尚樹

2016年04月20日 00時35分22秒 | 雑学知識
 「夢を売る男」 百田 尚樹  太田出版 2013年

「(前略) 固定客ばかり相手にして、同じメニューばかり出している店は、やがてじり貧になって閉店してしまうのと同じだ」
「でも、新らしいメニューに挑戦して失敗したら、元も子もないですよ」
「それはそうだ。だからたいていの作家は、自分の得意料理だけを後生大事に作り続ける」
 牛川原(うしがわら)の言葉に、荒木はうーんと唸った。
「かといって、元テレビ屋の百田何某(なにがし)みたいに、毎日、全然違うメニューを出す作家も問題だがな。前に食ったラーメンが美味(うま)かったから、また来てみたらカレー屋になっていたるような店に顧客がつくはずもない。しかも次に来てみれば、たこ焼き屋になってる始末だからな――」
「馬鹿ですね」
「まあ、直(じき)に消える作家だ。とにかく、後世に残る作家というのは、常に新らしい読者を生み出す小説が書ける作家だ。ある世代の人たちに熱狂的に受け入れられても、その世代が消えたらお終(しま)いだ」 P-205 (作者(百田尚樹)が作品の中で自分のことを皮肉っている)

「ところで、部長」と荒木が言った。「前から疑問に思っていたのですが、いい文章って何ですか? 」
「読みやすくてわかりやすい文章だ。それ以上でも以下でもない」
「でも、それっていわゆる文学的な文章というのとは少し違いますよね」
 荒木の質問に、牛川原は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「書評家や文学かぶれの編集者が言う文学的な文章とは、実は比喩のことなんだ」
「比喩――ですか」
「たとえば単に『嫌な気分』と書くのではなくて、『肛門から出てきた回虫が股ぐらを通って金玉の裏を這いまわっているような気分』などと書くのが文学的な文章というわけだ」 P-208

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