民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「恵比寿さま」 リメイク by akira フル・バージョン 

2012年09月22日 22時58分38秒 | 民話(リメイク by akira)
 「恵比寿さま」 

 私は 民話を語るとき、こんな情景を 思い浮かべて 語っています。

 雪国です。・・・季節は冬。
雪が「しん しん」と、降っています。
 夜です。・・・むきだしの小屋ウラからつるされた ランプの炎が ゆら ゆらと ゆれています。
いろりでは マキが「ぱちっ ぱちっ」・・・時折 はぜながら 燃えています。
自在カギにかけられた ナベからは「ぐっつ ぐっつ」・・・なにか 煮えてる音が しています。

 そのほかには なんの音もしない、雪の降る音さえ 聞こえてきそうな しんとした 静けさです。

 そんな中で 家族のみんなが もくもくと よなべ仕事をしています。
じいちゃんは ワラで 縄(なわ)を なっています。
ばあちゃんは 糸を よっています。
とうちゃんは 草履(ぞうり)を 編(あ)んでいます。
かあちゃんは 針で なにか 縫(ぬ)っています。

 子供だって 遊んでなんか いません。
子供にでも できる仕事があります。
タバコの葉をのばしたり、綿のゴミを取ったり、・・・いろいろと。
子供たちは 昼間 思いっきり 遊んでいるので、夜になると へとへとです。
それでも 眠い目を こすり こすり、仕事をしています。
だけど 単調な 仕事なもんだから、つい うとうと してしまいます。

 そんな時は ばあちゃんの 出番です。(時には じいちゃんが)
子供たちの 目を 覚まさせようと、声をかけます。
「ムカシ、語っか。」
「わーい。」
子供たちが 喜びの声をあげます。

 そんな風にして、ばあちゃんが 語り始めます。
糸を よりながら・・・ ポツリ・・・ポツリ・・・

 今日は「恵比寿さま」って、ハナシ やっか。

 オラが ちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとか うそか わかんねぇけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。

 むかーしの ことだそうだ。
 
 ある村のはずれに ばさまと 孫の優太が 二人っきりで 暮らしていたと。
(優太ってのは、優しいっていう字に 太いって字で、優太だ)
優太は 不幸にも おとぅとおかぁに 先立たれて ひとりぼっちに なっちまってな、
たったひとり身内の ばさまが 引き取って 育てていたと。
 わずかばかしの 畑をたがやし、その日食うのが やっとの 貧しい暮らしだったと。

 年を取ってから 子供を育てるってことは 大変なことだ。
「年寄りっ子は 三文安い。」なんて 言われねぇように、
「やーい、あまえっこ。」なんて バカにされねぇように、
ばさまは 心を鬼にして きびしく 育てていたと。
 それに 暮らしは 貧しくても、心まで 貧しくあっては なんねぇ と、
「いいか、優太。・・・心の貧しい人間ってのは 人を見かけで判断する人間のことを 言うんだぞ。
おめぇは 人を見かけで 判断しちゃいけねぇ。
誰にでも どんな人にでも 優しく するんだぞ。・・・困った時は 相見互い。」
 ばさまは くり返し くり返し 言って聞かせたと。

 ばさまは 小さい時から 恵比寿さまを 大事にしていてな、
朝に夕に 恵比寿さまに 手を合わせて 拝んでいたと。
それに、なんかちょっとでも いいことがあると、恵比寿さまに感謝して 手を合わせて 拝んでいたと。
 優太は そんな ばさまの後姿を見て、感謝の心を 学んでいったと。

 ある日のことだ、ばさまが 優太に なにか食べさせようと、畑に行く途中、
道に迷って 困ってる様子の お坊さんに 行き会ったと。
「ごくろーさんで・・・なにか お困りですか?」ばさまが 声をかけると、
「この お寺に行こうと してるんだが、・・・どうも 道をまちがえたようじゃ。」
「どれ どれ。・・・あっ、ここは やっかいなところじゃ。どれ、おらが一緒に 行ってあげんべ。」
ばさまは 家で 腹をすかして待っている 優太のことも忘れて、
お坊さんを お寺まで 連れていって あげたと。

 お寺に 着くと、
「おおー、ここじゃ、ここじゃ。・・・ばあさんや、世話になったの。・・・これは お礼じゃ。」
そう言って、紙に包んだものを 差し出したと。
「と、とんでもねぇー、おら、そんなつもりじゃ・・・」
「それは わかる。・・・ほんの気持ちじゃ。」
そんなやりとりが 何度かあって、
「ほんじゃ、ありがたく いただきますだ。」
ばさまは 申し訳なさそうに 受け取ったと。

 うちへ帰って あけてみっと、銭っこが 入っていたと。
さっそく 優太を呼んで、
「これで なんかうんまいもの 買ってきて 食うか。・・・おめぇー、なにか 食いてぇものあっか?」
「おいら、・・・ぼたもちが食いてぇな。」
「ほうか、ほうか、じゃ、これで 買っておいで。」

 銭っこを あとがつくほど しっかと 握って、お店に行くと、ぼたもちが 二つ 買えたと。
「こっちは ばあの分、こっちが おらの分。」
嬉しそうに ぼたもちを ながめながら 帰る途中、
ぼろぼろの服を着た じいさんが 道っぱたに 倒れていたと。
「おじさん、どうしたの?」
優太が 声をかけると、
「腹がへって 動けねえだ。・・・おら、もう 三日も なんにも 食ってねえだ。」
優太は じいさんの顔と ぼたもちを かわりばんこに 見て、
「どうしようかな?」って、迷っていると、
ばさまの 顔が 浮んできて、・・・ばさまの 声が 聞こえてきたと。

「困った時は 相見互い」・・・だぞ。

「おじさん、・・・これ、食ってくんろ。」
優太は ぼたもちをひとつ つかむと そのじいさんに あげたと。

「ただいま。」
うちへ帰って、優太が 差し出した ひとつしか入ってねぇ ぼたもちを見て、
「なぁーんだ、一つっきり 買えなかったんか?」
「ううん、ふたっつ 買えたんだけど、おら 途中で 我慢できなくなって 食っちまったんだ。」
ばさまは それを聞いて、
「あっ、優太に なんかあったんだな。」って、すぐに 気がついたと。
「おらは 年だから ひとつも食えねぇ。・・・二人で 半分こして 食うべな。」
 ばさまと優太は ひとつのぼたもちを わけあって 食べたと。
「ぼたもちは うんめぇな。」
「うんめぇな。」
二人は 顔を見合わせて にっこ にっこ 笑ったと。

 その夜は しんしんと 冷え込む 寒の戻りがあってな、
わずかに残った マキをくべて、二人は いろりのそばで 身を寄せ合って 寝たと。
「ぶるっ、ぶるっ」
ばさまが 寒さで 目を覚まして、マキをくべようとした時だったと。

「チンチンカラリン チンカラリン。・・・チンチンカラリン チンカラリン。」

 大勢の にぎやかな声が 近づいてきたかと思うと、
うちの前で 止まって、・・・軒の下で「どっさ」と、ものをおく 音が 聞こえたと。
「あれぇー、なんだんべぇ?」
ばさまが 起き上がって 戸をあけてみっと、
なんと、恵比寿さまを 真ん中に 七福神の みんなが 勢ぞろいして 立っていたと。
その前には 米やら、味噌やら、着物やら、いろんなものが どっさと 山のように 積んであったと。
その山の てっぺんには 二人じゃ 食いきんねぇほどの ぼたもちも のっかって いたと。

 ばさまが 優太を起こして、二人で 手を合わせて 拝んでいると、
「ばさまや、・・・お寺までの道案内 ありがたかったぞ。
優太や、・・・ぼたもちは うんまかったぞ。
これは お礼じゃ。」
 そう言うと、すーっと、消えて いったと。

「情けは 人のためならず」

 それから、ばさまと優太は 幸せに 暮らしたとさ。

 おしまい

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4 コメント

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あったまりました (みきみっきー)
2012-09-23 06:59:38
語り継ぐ大切さをこんなあったかな気持ちで伝えられたら、どんなにありがたい事か!
読み聞かせをしているので、とても勉強になりました。

民話の語りべ 聞いてみたいなー
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いいでしょ (akira)
2012-09-23 10:51:24
このハナシ、今、一番気に入ってるハナシです。
ただ、12分近くかかるので(プロローグを入れると15分)
なかなか語る機会がないのが残念です。
返信する
朗読会で詠みたいのですが・・・。 (いしかわ たかし)
2013-05-22 23:52:20
宇都宮で朗読会を企画しようと思っています。

恵比寿様さまと雀宮の由来をメーンにした物を
朗読しようと思っています。
許可を頂ければ嬉しいです。
返信する
いいですよ (akira)
2013-05-30 01:29:02
返事が遅れてすみません。
どうぞう、ご自由に。

私も宇都宮です。
連絡いただければ聴きに行きますよ。
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