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「つつじの娘」 リメイク by akira 

2012年08月27日 00時40分17秒 | 民話(リメイク by akira)
 「つつじの娘」  akira リメイク (元ネタ 松谷みよ子 あかね書房)

 むかーしの ことだそうだ。

 ある 山に囲まれた 小さな村に、一人の いとしげな 娘がいたと。

 ある 夏の日、娘は 山を五つ越えたところにある 村での 祭りに 招かれたと。
 そこで、娘は 一人の 若者と 出会ったと。
 真っ暗な 山あいの中、その村だけ かがり火が あかあかと 燃えていたと。
 娘と若者は 時のたつのも忘れて 語り 歌い 踊ったと。
やがて、しらじらと 夜が明ける頃、二人は 互いに 忘れられんように なっていたと。

 しかし、祭りが終わってしまえば、二人の距離は あまりに遠く、逢うことも ままならなかったと。
娘は ぼんやりと 山を見ている日が 多くなったと。
 この山が なかったら・・・あの山が なかったら・・・
娘は うらめしそうに 山を見つづけたと。

 そんな ある夜のこと、娘が いつものように 山を見ていると、
ちらちらと 青白い 火の玉が 五つの山を 越えていくのが 見えたと。
娘は ひらめいた。 
 「そうだ、山を越えて行けばいいんだ。
そして、その夜のうちに 戻ってくれば 誰にも 気がつかれやしない。」
 
 その夜、娘は こっそりと 家を抜け出し、真っ暗な 山道を 走ったと。
山を 一つ越え、二つ越え、三つ越えると、
娘の胸は 張り裂けんばかりに 高鳴り、足は ブルブルと 震えたと。
 それでも、娘は 火のような 息を吐いて 走り続けたと。
四つ目の山を越え、五つ目の山を越え、ようやく、若者の家に たどり着いたと。

 「ドンドン ドンドン」はずむ息も そのままに、娘は 戸を叩いたと。
しばらくして、戸が開き、娘と若者の 目があったと。
「逢いたかった!」
娘の目から とめどもなく 涙があふれたと。
 「どうして ここへ?・・・」
 「山を 越えてきた。」
 「五つもの 山をか!?」
 娘は こくんと うなずくと 両手を 前に差し出し ぱっと開いたと。
その手には つきたてのモチが 握られていたと。

 その夜、二人は しあわせ だったと。

 それから、娘は 毎晩 若者を 訪ねるようになったと。
真夜中、戸を叩く音に、若者が 戸を開けると 娘が立っていたと。
そして、その手には いっつも つきたてのモチが 握られていたと。

 ほとんど 眠らずに、娘と一緒の 夜が続き、若者は しだいに やせ細っていったと。

 「おめぇ、いったい どうしたんだ!? どっか 悪いんじゃねぇのか?」
 若者の友達が 心配そうに たずねたと。
若者は 娘のことを 話したと。
 「そいつ ほんとに 人間なのか? 
魔性の女 なんじゃねぇのか?
五つも 山を越えてくるなんて とても 人間とは 思えねぇ!」

 その日は 嵐の 夜だったと。
 (今日は 来ないだろう) 若者は 早く 眠りに ついたと。
 ところが、「ドンドン ドンドン」 戸を叩く音に、若者が 戸を開けると、
 そこには、全身 ずぶぬれの(びっしょりの)娘が 立っていたと。
その目は きらきらと 輝き、手には つきたてのモチが 握られていたと。
 若者は 思わず 後ずさりをして、
 「おら おめぇのこと、魔性の女かと 思うように なってきた。」

 娘は 泣いたと。
 「あんたに逢いたくて、山を越えてくるだけなのに・・・」
 娘の目から 涙があふれたと。
 「家を出るとき、米を ひとつかみづつ 握って、
この山を越えれば あんたに逢える、あの山を越えれば あんたに逢える、
 そう思って 走っているうちに、
いつのまにか 手のなかの米は モチに なっているだ。
  おらぁ ふつうの娘だ! 
それを 魔性の女などと、そんな おそろしいこと、
お願いだから 言わないでおくれ。」

 だけど、その夜、若者は 初めて モチを食べなかったと。

 若者は しだいに 娘が怖ろしくなっていったと。
そして、それは やがて 厭(いと)わしさに 変わっていったと。
 「あいつは やっぱり 魔性の女に違いねぇ。
このままじゃ、おら いつか 殺されっちまう。
その前に なんとかしなければ・・・」

 ある日の夜、若者は 意を決したかのように、娘のやってくる 山へ向かったと。
そして、人ひとりが やっと通れるような 崖のかげで、娘の やってくるのを 待ったと。

 真っ暗な 山あいの中、ときおり、雲のあいまから 月のひかりが もれてくる。

 「タッタッ タッタッ」 娘の足音が かすかに 聞こえてきたと。
静かな 山ん中で、それは 地響きのように 聞こえてきたと。
「タッタッ タッタッ・・・タッタッ タッタッ」(だんだん大きな声で)
 やがて、月のひかりに照らされ、娘の姿が うっすらと 見えてきたと。
髪を振り乱し、両手をぐっと握り締め、おそろしいほどの早さで 走ってくる。
その姿は まさしく 魔性の女に 見えたと。
 「タッタッ タッタッ」 (娘が近づいてくる)
 「ハッハッ ハッハッ」 娘の 激しい息づかいが 聞こえてきたと。

 「この 魔性の 女が!」

 若者は 渾身の力をこめて 娘の足を 棒で はらったと。
 娘は まっさかさまに がけから 落ちていったと。

 やがて、そのあたりには、娘の血が 飛び散ったのかのように、
真っ赤な つつじの花が 咲き乱れるようになったと。

 信州、長野県の ツツジの名所に 伝わる お話。

 おしまい


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