民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
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「とっぴんぱらりのぷぅ」 マイ・エッセイ 10 

2014年11月23日 00時11分21秒 | マイ・エッセイ&碧鈴
 「とっぴんぱらりのぷぅ」 マイ・エッセイ                                                                             

「むかし、あったと・・・・・」                                                                                                                        民話の語りは、そんな決まり文句ではじまる。
 平成二十二年に県シルバー大学に入った。すぐにオリエンテーションがあり、楽しみにしていたクラブ紹介があった。クラブの数が多いので一日がかりで、わたしはプリントされたクラブ一覧表に、あらかじめ気になるクラブをチェックした。七つ八っつはあっただろうか。
 二年生が新入生に、ひとりでも多く入ってもらおうと、いろいろと工夫をこらしての紹介が和気あいあいと続く。 
「民話・語り部クラブ」の番がきた。ノーチェックのクラブだった。
 作務衣を着た男性が登場し、福島弁まるだしで「むがぁし、あっだど」と語りだした。二百人近い新入生を前に、一人で民話を語っている。わたしは惹きつけられた。
(すごいな、だけど、オレにはできないよな。)
(うん、できないよな。)
 自問自答する。
(でも、やってみたいな。せっかく、シルバー大学に入ったんだから、何か新しいことにチャレンジしてみたいし、ダメだったらやめればいいか。)          
 そんな軽い気持ちだった。以前、ライブでギターを弾いたとき、人前では緊張してなかなか思うように弾けないでいた。民話もギターと同じじゃないか。ステージ度胸をつけるのになんらかのプラスになるかもしれない。そんな期待もあって「民話・語り部クラブ」に入ることにした。
 はじめのうちは進んで参加というよりも、いつでもやめられるような逃げ腰での参加だった。
(やっぱり、オレにはムリかな。)
 何度、思ったことか。それでも、なんとかやめないで続けた。
 ひとつは、部員数が十三、四人と少なく、勉強会の参加者が十人を切ることも多かったのでやめづらかったこと。ひとつは、年を取って図太くなったこと。
 そんなことでやめないでいるうちに五月に入り、シルバー大学最大の行事である学校祭の準備がはじまった。
(もう、やめられない。やるっきゃない。)
 覚悟を決めた。それからは持ち前の学習意欲に火がついた。図書館で民話関係の本をかたっぱしから借りてきて読んだ。百冊は超えただろう。これで民話のアウトラインはだいたいつかめたかな、というところまで行った。月に四度の勉強会にも積極的に参加するようになった。
 八月のはじめに学校祭が終わった。
 十月になって二年生になれば、一年生を指導する立場になる。いままでのように、おんぶにだっこ、というわけにはいかない。一年生が入ってくるまでの九月、十月がもっとも民話に熱を入れることになった。
 一年生を迎えたが、指導をするのは大変だ。知識は詰め込みがきいても、語りはそうはいかない。
 発声、滑舌などの語りの練習はインターネットの動画を使って勉強した。
『外郎売り』という歌舞伎十八番にも入っている演目がある。外郎という薬を売るための口上で、アナウンサーや役者を志す人は、たいがい勉強しているという。
(よし、これを覚えてやろう。)
 一年生に、やればできることを教えてやるんだ。
 ところが、ずいぶん時間をかけても、なかなか覚えられない。何度、挫折しそうになったことか。それでもなんとか頑張って、ほぼ二ヶ月かかってようやく覚えることができた。
 それと並行して、一年生のための教材作りもはじめ、それをきっかけに民話を自分なりにアレンジするようになった。
 さらに、モチベーションの維持に、ブログ『民話・語り手と聞き手が紡ぐ世界』を立ち上げた。もうすぐ三年目を迎えるが、奇数月は奇数日に偶数月は偶数日にと、ほぼ二日に一度は更新している。
 試行錯誤しながらの指導で、一年生は不満もあったろうが、どうにかついてきてくれた。
 そして、二回目の学校祭を迎え、無事に終えることができた。

 シルバー大学を卒業してからは、栃木県で一番大きい民話の会に入って、活動を続けている。 
 民話をやって一番よかったことは、長いこと使っていなかった栃木弁を思い出させてくれたことである。堂々と栃木弁をしゃべる。なんて心地いいんだろう。
 それと、民話のいいところは、年を重ねることがプラスになることである。 民話との出会い、それは遅かったけれど、だからこそ、これだけ夢中になり、続けることができたのだろう。
 民話の終わりの決まり文句はその土地によってだいたい決まっている。わたしが気に入っているのは秋田県で使われる「とっぴんぱらりのぷぅ」である。
「はい、これでおしまい。めでたし、めでたし」といった意味だそうだ。
 それでは、
「とっぴんぱらりのぷぅ。」   
                                


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