民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「大放言」 その18 百田尚樹

2017年08月18日 00時47分06秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「大放言」 その18 百田尚樹  新潮新書 2015年

 自分を探すバカ P-35

 世にも奇妙な会話

 先日、私の目の前でこんな会話があった。あるテレビの制作会社の事務所でのことだ。
 会社を辞めたいという若い社員(20代後半)と社長(60代後半)の会話だ。この業界は人の出入りが激しいから、若い社員が辞めるのは珍しくない。

「なんで会社を辞めるんや?」したいことがあるんか?」
「自分探しの旅に出ます」
「お前はここにおるやないか」
「そんなんじゃなくて・・・本当の自分を探すためにインドに行くんです」
「お前のルーツはインド人か?」
「違いますけど」
「長いこと行くんか?」
「取りあえず半年くらい」
「半年で、自分が見つかるんか?」
「さあ」
「自分が見つかったら、何するんや?」
「まだ決めてません」

 若者も社長もお互いに、こいつは何を言ってるんだ、という顔をしている。
 社長は若い社員の辞める理由が理解できないし、社員は社員で、自分の言葉が通じないのに呆れている。
 短いやりとりの後、若い社員は辞表を出すと、今度は若い女子アルバイトに別れの挨拶にきた。

「自分探しに行ってくる。みつかるかどうか、わからないけど」
「大丈夫よ。きっと見つかるわ」
「うん、ぼくもそう思う」
「私もお金を貯めて、来年オーストラリアに自分探しに行く予定」

これまたシュールな漫才を聞いているようだった。