民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「現代に生きる語りの魅力」 桜井 美紀

2012年10月09日 01時15分18秒 | 民話(語り)について
 「昔話と語りの現在」 桜井 美紀 著 久山社 1998年

 四 現代に生きる語りの魅力 (Pー41)

 前略

 イギリス人のロビン・ウィリアムソンはハープを奏でて、ケルトの伝説の語りを二時間かけて語りました。楽器を抱えて登場する語り手が多かったのも、プロの語り手が、いかにお客を楽しませるかという、ストーリーテラー本来のあり方を見る思いがしました。

 世界の語りの祭りに出かけるたびに、プロの語り手の語りの技術と芸術を、心底、思い知らされます。語りというコミュニケーションで、聞き手の心をどのようにつかむのか。聞き手の心を、語りの内容にどう巻き込むのかということなのです。聞き手の心を自由自在に動かし、感動させるのが語り手の芸術といえます。語りの芸術の魅力は、語る人の魅力に裏打ちされます。語り手には、あふれるばかりの魅力が必要だと思います。語り手が口を開いたとたん、聞き手がハッとするほどの、語り手としての魅力が要求されるのを、私自身は特に感じます。それが語り手の生命でもありましょう。生きた人間のことばが、人間らしい気持ちを育てます。語り手の生き生きとした語りが、現代社会の荒廃した精神の隙間を埋めることができるなら、こんなに素晴らしいことはありません。日本の「新しい語り手」たちが、現代社会に機能する語りの文化で、人の幸せをつないでいくためには、学ぶことがたくさんあるのを感じました。

 中略

 語り手のもう一つの使命は、つくり出すことです。心の中に情景を描き、それをことばに出して伝えることなのです。語り手という立場からは、昔話の再話は、口で語る再話を重視しなければならないと思っています。聞き手に直接届けられることばは、文字から離れた語り手のことばであるのが望ましいと、私は考えています。語り手は自分自身の語り口を持ち、自分の語り方をつくり出すということです。新しい語り手の使命は、古い昔話や物語を学びながら、自分のオリジナルの作品を語ることも含まれます。ですから私も、自分のオリジナル作品を必ず語るようにしております。

 現代の合理化が進む世の中で、今日ほど、空想力、想像力の求められる時代はかつてありませんでした。人間が人間らしくあるために、心の世界を豊かに保たなくてはならないのです。心をこめてことばを届け、世の中の人間関係を良くしていきたいと、ボランティアによる語りの活動が、日本中で今、力強く繰り広げられていることも、お伝えしなければなりません。現代社会の中で昔話を語る「語りのルネッサンス」が興(おこ)っているのです。昔話が現代に機能する可能性は大であることを申し上げて、終わりとさせていただきたいと思います。