「宮本常一」 岩田 重則 著 河出書房新社 下野新聞 書評 2013年10月13日(日)
「逸脱の骨太な学究の実像」 野本 寛一(近畿大学名誉教授)
本書は宮本常一(つねいち)の実像を描き出すことに成功した本格的な評伝である。
サブタイトルに「逸脱の民俗学者」とある。
いったい宮本は何から逸脱したというのか・・・。
調査項目に縛られた「民族誌」ではなく、自らの生活体験の延長線上にある「生活誌」を宮本は重視した。
地域社会から民俗学的事象だけを切り取って整理する流れに対して承服しなかった。
ここに柳田国男の民俗学からの逸脱があると本書はみる。
また、民具を生活の場から抽出し、社会的・生活的要素との有機的関連を切り離して資料化した
渋沢敬三系の民具学からの逸脱も指摘する。
中略
逸脱を重ねた宮本の軌跡はいかなるもので、どこに到達したのか。
著者は宮本を、聞き書きや文献調査にとどまらず、社会経済史なども踏まえた「総合社会史学」を
完成させた「創造的人文科学者」と見定めている。
宮本は、長く、深い旅を続けた。
そこからさまざまな伝承や人物像が流布している。
対して、著者は骨太な学究としての実像を浮き彫りにした。
それができた背景には、著者の粘り強い探求と、ぶれない軸で、関連文献はもとより、
宮本の書き残した文章を細大漏らさず徹底的に分析したことがある。
そして著者自身の近現代史研究・民俗学研究の蓄積が底に流れている。
生活者のまなざしを大切にした宮本の思考こそ、混迷を深めるこの国の現況に必要だと考えさせる一冊だ。
「逸脱の骨太な学究の実像」 野本 寛一(近畿大学名誉教授)
本書は宮本常一(つねいち)の実像を描き出すことに成功した本格的な評伝である。
サブタイトルに「逸脱の民俗学者」とある。
いったい宮本は何から逸脱したというのか・・・。
調査項目に縛られた「民族誌」ではなく、自らの生活体験の延長線上にある「生活誌」を宮本は重視した。
地域社会から民俗学的事象だけを切り取って整理する流れに対して承服しなかった。
ここに柳田国男の民俗学からの逸脱があると本書はみる。
また、民具を生活の場から抽出し、社会的・生活的要素との有機的関連を切り離して資料化した
渋沢敬三系の民具学からの逸脱も指摘する。
中略
逸脱を重ねた宮本の軌跡はいかなるもので、どこに到達したのか。
著者は宮本を、聞き書きや文献調査にとどまらず、社会経済史なども踏まえた「総合社会史学」を
完成させた「創造的人文科学者」と見定めている。
宮本は、長く、深い旅を続けた。
そこからさまざまな伝承や人物像が流布している。
対して、著者は骨太な学究としての実像を浮き彫りにした。
それができた背景には、著者の粘り強い探求と、ぶれない軸で、関連文献はもとより、
宮本の書き残した文章を細大漏らさず徹底的に分析したことがある。
そして著者自身の近現代史研究・民俗学研究の蓄積が底に流れている。
生活者のまなざしを大切にした宮本の思考こそ、混迷を深めるこの国の現況に必要だと考えさせる一冊だ。