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鉄道は一体誰の為にあるのか?

2021年12月09日 22時39分59秒 | 身辺雑記・ちょいまじ鉄ネタ

世界にはまだ鉄道のない国が幾つかあります。東南アジアのラオスもそんな国の一つでした。インドシナ半島の山国で、24万平方キロ(日本の約3分の2)の国土に約700万人の人々が暮らしています。ベトナム戦争に巻き込まれて長い間荒れ果てていましたが、近年ようやくその傷も癒え、最近は経済成長を遂げつつあります。そんなラオスにも、この12月にようやく鉄道が開通しました。

それが、中国の雲南省からラオス国境を越え、首都のビエンチャンまで伸びる中国ラオス鉄道(中老鉄路)です。その距離およそ422キロ。日本の東京・名古屋間に相当する長い距離です。ほとんどが山岳地帯なので、路線の約47%をトンネルが占めます。21ある駅もその半数は信号場や貨物駅で、旅客駅はわずかに11しかありません。

それだけを見ると、まるで北海道のローカル線のようですが、規格は立派な高速鉄道です。単線ながら全線電化で、ラオス国旗と同じ青・赤2色に塗られた特急列車のランサン号が時速160キロで駆け抜けます。おかげで、今まで首都ビエンチャンから中国・雲南省の昆明までバスで数日以上かかっていたのが、45時間余りも短縮されるようになりました。既に南隣の隣国タイからも鉄道が数年前に首都ビエンチャン郊外まで開通しています。将来はこの鉄道と連絡してタイの首都バンコクまで乗り入れる計画もあるようです。

但し問題もあります。一つは、中国とタイでは線路の幅が違う事です。タイは軌間1,000ミリの狭軌を採用しているのに対し、中国はこの中国・ラオス鉄道も含め軌間1,435ミリの標準軌を採用しています。両国とも鉄道の成り立ちが異なるので線路の幅が異なるのです。将来は第三軌条の導入で相互乗り入れを図る計画もあるようですが、当面は首都のビエンチャンで乗客の乗換、貨物の積み替え作業が必要になります。

もう一つは、建設費用をどう負担するかと言う問題です。この鉄道の総工費は約60億ドル。その約7割を中国が負担し、残り3割をラオスが負担します。元々この鉄道は、山国にも鉄道を通したいとする、ラオス政府のたっての悲願によって開通しました。中国は当初は鉄道建設に余り乗り気ではなかったようです。どう見ても採算が取れそうにないからです。ところが、その後、中国の方でも、近隣諸国を中国の経済圏に組み込もうとする「一帯一路」構想を掲げるようになり、この鉄道も、その構想の一環として建設が進められて来ました。

幾らラオス側の希望によって開通した鉄道とは言え、その債務負担額はラオス国家予算の約3分の2にも及びます。今は債務不履行には至っていないかも知れませんが、やがてそんな事態になれば、中国は債務返済繰り延べの条件として、新たな鉱山採掘権や経済特区の建設を要求して来るかも知れません。19世紀の帝国主義の時代に、中国が西洋列強から受けた仕打ちを、今度は中国自身が、近隣の途上国に行うかも知れないのです。

鉄道の沿線には世界遺産にも登録された古都のルアンパバーン(ルアンプラバン)もあります。メコン川沿いにある人口数万人の仏教都市で、落ち着いた街の雰囲気が世界の観光客を魅了して来ました。今まではバスで数十時間も揺られなければ行けない山間の小都市だったのが、鉄道開通で一気に便利になりました。

ただ、駅は町から数キロも離れた郊外に建設されました。駅舎もとてつもなく大きいもので、とても山間の小都市には似合わない代物です。そう考えると、この鉄道は、果たして本当に住民の悲願によって作られたものか?非常に疑問に思います。単に交通の便だけを考えるなら、わざわざ山伝いに中国の雲南省と繋げなくても、ユエやダナンのようなベトナムの港湾都市と繋げた方が、はるかに輸送コストが抑えられたはずです。

それに、わざわざ電化して特急電車を走らせなくても、単線非電化のディーゼル機関車による運行であっても、今よりもはるかに安い値段で、輸送時間の短縮が実現できたのではないでしょうか?わざわざ町から遠く離れた郊外に、どでかい駅舎を作らなくても、町中に、それに見合った駅舎を作る方が、住民も気軽に利用しやすいし、経済の活性化にもなると思います。

「カレチ」という鉄道漫画があります。旧国鉄の長距離特急電車に乗務していた新米車掌が主人公の漫画です。その漫画の中で、新米車掌が、大雪で列車が遅れていた日に、一人の女性乗客の「親の死に目に会いたい」というたっての願いを聞き入れる為に、乗換えの乗客がその女性一人しかいないのに、20人もの乗り換え客がいるかのような嘘の報告を乗換駅で行い、接続するローカル線の発車時刻を大幅に遅らせてしまった話がありました。

その噓がばれた新米車掌は当然、国鉄を首になる事を覚悟しました。その窮地を救ったのが、偶然乗り合わせた某私鉄の部長でした。この部長は、たまたま社内の慰安旅行で、部下を引き連れて温泉旅行に行く途中でした。その時に、新米車掌が嘘まで付いて、女性乗客のたっての願いを聞き入れようとしたことを知り、自分も部下を引き連れて、そのローカル線に乗り換え、沿線の温泉地に行先変更すると言い出したのです。

その鉄道部長の言った言葉が何とも素晴らしかったです。「鉄道ちゅうのは人を助ける為にあるんだ」と言ったのです。確かに、大雪のダイヤが乱れている日に、たった一人の都合で、噓の報告まで付いて接続するローカル線の発車時刻まで遅らせてしまったら、「人を助ける」どころではありません。逆に大勢の人に迷惑がかかってしまいます。

表面だけ見たら確かにその通りです。しかし、その迷惑も、大勢に人にとっては、まだ取り返せる迷惑です。せいぜい遅れても数十分の被害で済むからです。ところが、その女性にとっては、その遅れの為に、親の死に目に立ち会えないかも知れないのです。そう思った車掌は、首を覚悟で嘘の報告を行いました。その窮地を救ったのが、「鉄道ちゅうのは人を助ける為にあるんだ」という某私鉄部長の言葉でした。

果たして中国ラオス鉄道は誰の為にあるのか?中国政府の為にあるのか?ラオス政府の為にあるのか?それとも、ラオス住民の為にあるのか?本当にラオス住民の為になるなら、幾ら金がかかっても鉄道を開通させなくてはなりません。でも、単に国家の見栄だけの為の鉄道なら、そんな鉄道なぞ要らないと思います。

かつては中国も、本当に住民の為になる鉄道建設を行った時期がありました。アフリカ大陸の中央部やや南寄りにザンビアという国があります。その国は、1964年にようやく独立を勝ち取ったにも関わらず、当時は周りを全て人種差別の白人支配国家(南アフリカ、ローデシア、当時まだポルトガルの植民地だったアンゴラやモザンビーク)に取り囲まれ、経済封鎖で苦しんでいました。その窮状を救う為に、中国は、まだ自国も貧しかったにも関わらず、ザンビア東隣の黒人国家タンザニアの港に繋がるタンザン鉄道を建設したのです。

このタンザン鉄道は、今の中国ラオス鉄道とは違い、非電化の単線でした。駅も中国ラオス鉄道とは比べ物にならない位、貧相なものでした。でも、そのタンザン鉄道のお陰で、ザンビアは独立を維持する事が出来、国民も経済封鎖に苦しめられずに済むようになりました。これこそが、帝国主義に反対する当時の社会主義中国に相応しい鉄道建設ではなかったのか。その中国が、まるでかつての帝国主義国のように、ラオスに君臨するのは如何なものかと思います。

上記がザンビア共和国の地図。この図中のタンザニア国境の町ムウェンゾからカサマ経由で中部の鉄道合流点の町カピリ・ムポシまでを結ぶ鉄道(++印で表示されている線)がタンザン鉄道です。

今の中国ラオス鉄道の姿を見ると、そう思わざるを得ません。同じ事は日本の整備新幹線と並行在来線の関係についても言えます。長野新幹線開通の陰で、在来線のJR信越本線は長野・群馬県境の碓氷峠で線路を断ち切られてしまいました。新幹線の赤字減らしのために、沿線住民は逆に貴重な足を奪われてしまったのです。「鉄道ちゅうのは人を助ける為にあるんだ」という部長の言葉を、ここにいる皆が再度かみしめる必要があるのではないでしょうか。

中国・ラオス鉄道12月に開通へ

【11月27日 CGTN Japanese】中国雲南省の省都・昆明市とラオスの首都・ビエンチャンを結ぶ中国ラオス鉄道敷設工事の最終調整作業が現地時間20日に行なわれ、ラオス国内を走るボーテンとビエンチャンを結ぶ区間の旅客輸送サービス情報システムプロジェクトのテスト運転が進められました。調整作業は順調で、新設の10駅はいずれもサービス条件が整っています。中国・ラオス鉄道が12月に運営開始するのに準備万全となっています。  ボーテンとビエンチャンを結ぶこの部分のサービスシステムは主に、チケット販売システム、駅統合管理プラットフォーム、放送システム、マルチ掲示システム、ビデオ監視システム、時計システム、旅客所持品安全検査設備、侵入警報システム、ドアセキュリティーシステム、電源および環境集中監視などからなっています。  旅客サービス設備に対しては、全て試行運転が実施されています。構内の電子掲示板は中国語、ラオス語、英語の3カ国語で時刻表とチケット情報が示されます。安全検査設備、チケット販売設備、ビデオ監視、放送、旅客サービスエリアも、利用客のニーズを満たすことができており、各駅では駅員がすでに準備作業を進めています。 中国・ラオス鉄道の一部である同区間は「一帯一路」イニシアチブに盛り込まれ、全長は422.4キロに達し、設計時速は160キロです。中国の技術基準が採用され、中国の装備が用いられるとともに、中国の鉄道網と直接連結します。運営開始後、中国の昆明市からラオスのビエンチャンまでは、夕方に出発して翌朝に到着できます。  なお、中国・ラオス鉄道は全長1022キロ、中国国内の昆明市から玉渓市まで、玉渓市からラオスのボーテンまで、そしてラオス国内のボーテンからビエンチャンまでの区間からなり、うち中国国内を走る距離は599.6キロです。(c)CGTN Japanese/AFPBB News

中国ラオス鉄道(ウィキペディア)

ラオス・中国鉄道は何をもたらすのか?――両国にとっての意義(IDE-JETRO)

アフリカ・ジブチに走る中国式「砂漠鉄道」の正体(WEDGE-Infinity)


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