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超個人的お勧め小説 第2位 『神様のパズル』

2004-12-22 13:46:09 | 小説 感想
超個人的お勧め小説も今回で2回目、第2位をお届けいたします。
例によって選定のコンセプトはこちら。

■超個人的お勧め小説 選定コンセプト■
1.広義のSF系作品
2.男女ともにお勧めできる作品
3.3巻以内で完結する作品

そんなコンセプトに基づき、私燕。が自身を持ってお勧めする小説第2位は、

■機本 伸司『神様のパズル』角川春樹事務所
第3回 小松左京賞 受賞作品

世の中にはこういう傑作が隠れているから恐ろしい。
恐らく商業ベースとしては成功していないと思われるし、作品・作者自体ベストセラー作家に比べるとかなりマイナーな部類に入ると思います(失礼)。
しかし、この作品は間違いなく傑作、このまま世に埋もれるには早すぎる、惜しすぎる傑作です。
誰かがプッシュしなければならないのなら、喜んでその役を買って出ましょう、惜しみなく買って出ましょう、それほどお勧めの作品です。
特に高校生、大学生に読んで欲しいところではありますが、これは老若男女問わずお勧めできる作品で、社会人はもちろんそれこそ登場人物には大学で学びたいという老人まで登場しますが、そういった方にもお勧めなのです。

■テーマは「宇宙のつくり方」
宇宙をつくる、なんてこと考えたことありますか?
そもそもどうやって出来たんだ宇宙って、ここに今宇宙があるのならつくることもできるんじゃないか?
そんな壮大なテーマに真っ向から挑むのは、超天才の16歳少女(飛び級大学生)と落ちこぼれ大学生のコンビ。
その超天才が基礎理論を構築し、多くの企業・研究所が出資した「重ヒッグス粒子」を発見するための研究が行き詰まるところから物語は始まります。
超天才ならではなの苦悩、孤独を抱えた少女と、就職、恋愛、卒論に悩む落ちこぼれ大学生(4年生)が、「重ヒッグス粒子」の発見というビッグプロジェクトをバックグラウンドに、真剣に宇宙のつくり方を検証していきます。
自分とは何かという宇宙とはまた違った意味での永遠のテーマを投影しながら。

宇宙なんてつくれるのか?誰もが思うことだと思います。
これはその永遠のテーマについて真剣に取り組んでいます。
しかし、宇宙のつくり方を通じて辿り着く主人公の結論に共感し、僕は涙を浮かべていました。
そしてこう思ったのです、これは紛れも無い傑作だと。

■物理なんて分からないよ
本作では物理用語がたくさんでてきますが、全く心配いりません。分かりやすく解説されているし、もしそれが分からなかったとしてもこの作品の本質を理解することにおいて全く支障ありません。
もっと大事なことが本当はかかれているんですから。
ちなみに私も文系ですし、物理を避けて通ってきたような人間です。
そんな私がブルーバックとか購入して今からでも物理の勉強しようかな、と真剣に思うくらいのめり込むこと請け合いです。

■物理が導くその先には?
(広義の科学という意味で)物理で説明できないものはない、物理は間違えない、どこまで行っても正しい。
これはある意味で正しく、ある意味で正しくない。
何故ならそれは「一側面」に過ぎず、世界は、現実は、もっと多面的で様々な要素で構成されているから。
落ちこぼれ主人公が「保証論」と名付けた卒業論文を提出するまでのプロセス、これをじっくり味わって欲しい。
#この辺の考え方については「鋼の錬金術師 第50話 最終話 感想」のベースになっています。

■何でも知ることが必要なのではなく、何が大事なのかを知ることが大切
超天才である16歳の穂瑞 沙羅華(ほみず さらか)と作中に登場する農家のおばあちゃんの対比は非常に興味深く、物理と農業というこの作品の中では全く正反対にあたる存在を対比させながら、「知る」ことの大切さを浮き彫りにしていく手法が素晴らしい。
生きていくうえでほんとうは何が大事なのか、何をしっていることが大事なのか、悲しいこともあるけれど、宇宙のつくり方を通して人にとって何が大切なのかという考え方に辿り着いていくプロセスが本当に素晴らしい。
最後のエピローグは大きな嵐の後に訪れた陽だまりのように優しく、温かいのです。

つい最近、日本でも理化学研究所において新しい113番目の元素(ジャポニウムやリケニウムという命名が有力)が発見されましたが、この本を読んだ人にとってはどこかくすぐったいような気持ちになるかもしれませんね。

本作はマーケティング的には失敗している作品なんで、書店とかにあるかどうか微妙なんですが、こういった傑作が世に埋もれる前に一読してみては如何でしょうか?
物理に興味を持つと共に、何か大事なことに気が付いた気がして晴れやかな気分になれるかもしれません。
これも本当にお勧めです。

■神様のパズル